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Evening Rain  作者: てぇると
GW編

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27/105

二十七話 VS.

「そんで? なーんでテメェがここにいるわけ?」


新食感モチモチドーナツ! と謳った「いや、それ別に新食感がじゃないからね?」と突っ込みを入れたくなるような既存感丸出しドーナツを齧りながら、頭の痛い黒幕少女を問い詰める。


「ちょっと夕陽さん、そんなことよりアイツ」


ヒソヒソと指さして俺の後方を指さす。


「あのオッサン、こっち睨んでますよ? あーもう、いやだなぁ。終わったことなんだからあんなに怒らなくてもいいじゃないっすかねぇ」


「いや、睨んでんのはお前が露骨に指さしてってからだと思うんだけど」


「いやいや、それは無いっすよ。アレですよ、あのオッサンは私のこの瑞々しい柔肌にしゃぶりつこうと機会を狙ってるんすよ」


「お前、やっぱり頭がおかしいよな」


体をくねらせ、アホみたいな妄想を垂れ流すバカを尻目に珈琲を啜る。つか、なんで俺こいつの分も金払ってんだろ。馬鹿じゃねぇの? 洗脳しようとした人間を助けてやるとかお人好しもいい所だろう。

いやー、モテちゃうなぁ。カッコイイなぁ俺。


「あのー、ニヤニヤしないでもらえるっすか? はっ! まさか「奢ってやったんだから」と私に肉体関係を迫るきっすか!?」


「おいやめろ、店員さんがコッチ見てんじゃねぇか。てか、なんでお前の頭の中で俺が変態になってんだよ」


「まぁ、とりあえずありがとうございました。あのままじゃあのオッサンに泣かされてるところでした」


「うん、分かったから指さすのやめようね? すっごい睨んでるから」


なんで俺が睨まれてんだよ。


「いやぁ、ドーナツ買ったはいいものの財布を預けっぱなしとは思わなかったすよねぇ」


「つか何で黒幕風情がドーナツ食ってんだよ」


「は? 馬鹿じゃないっすか? 黒幕思考の私っすけど、それ以前に女の子で人間なんすよ? 可愛い服とか化粧品とか買いに来ますし、新発売のドーナツだって食べるんすよ。それともなんすか? 夕陽くんは黒幕は食べ物も食べないし買い物にもこないと思ってるんすか?」


「何でそんな剣幕で喋ってんだお前は、もういい分かったから落ち着け、みんな見てるから」


いろんな意味で注目を集めるなぁ。


「そう言えば、なんで夕陽くんはここに?」


「暁姉妹と雨乃とショッピングモールに遊びに来てんだよ」


「女の子三人とショッピングモールデートとかいいご身分すね。お前、どこのハーレム系主人公だ」


ペッと吐き捨てるように晃陽が呟く。


「……薄々感じてたから言わないで」


「けっ、昨日あんな目にあったのに3人とデートとかいいっすね。死ねばいいっす」


「ごめん、あんな目にあわせたのはお前ってこと忘れないでくれます?」


「あーあ、昨日落としてなかったのはやっぱキツかったすね」


椅子にグイッと体重を預けて仰け反る。

胸デカイなこいつ。


「ちなみに落として何する気?」


「……リモコンとってーとか?」


「召使にする気かよこのアマ」


「あと、肩揉んでーとか?」


「胸揉みしだくぞテメェ」


俺がそう言うと、ほぼ反射的に晃陽は自分の胸を両手で隠す。


「へ、変態」


「……お前、昨日からあんなに変なことしてんのにそれで狼狽えるとか」


さては処女か? ファッションビッチ的な何かか?


「おい、なんでニヤニヤしてるんすか」


「いやぁ? べっつにぃー」


「洗脳してほしいんすね? そうなんすね!?」


だから大声出すなって言ってんだろうが、店員さんドン引いてるから、俺の方睨んでるから。


「社会的地位がどんどん落ちていく気がする」


「……あったんすか、社会的地位」


「……あるはずだとは思うよ? あるよな? ごめん、嘘でもいいからあると言って」


「あれ、前が涙で霞んでみえないっす」


「シバキ倒すぞお前」


ドーナツ美味いな、珈琲も美味い。

てか、マジで何してんだろ俺。


「そういえばなんで雨乃さん達と一緒じゃないんすか?」


「ん? あぁ、なんか女子だけで行きたい店があるんだと?」


「……下着か化粧品っすかね?」


「俺は下着じゃねぇかなと睨んでる」


「もしくは夕陽くんへのプレゼントとか?」


「ないない、俺誕生日とかじゃないし」


雨乃に「下着買うのか、貧乳なのに」ってふざけて言ってみたい気もするが、割と本気でぶっ殺される気がするからグッと堪えてる。


「まぁ、私は夕陽くん単独で大分助かってますけど」


「なんで?」


「雨乃さんって苦手なんすよねぇ」


「会ったこともねぇのにか?」


「いやぁ、夕陽くんを落とすにあたって色々調べて回った結果、必ずと言っていいほど雨乃さんが絡んでて」


……まぁ、ガキの頃か一緒にいるしな。なにかやらかすと親が爆笑するのに雨乃だけが俺に怒ってるし。


「そんで調べれば調べるほど苦手んなすよ、あのタイプ」


「へぇー、お前にも苦手なタイプとかあんのね」


「魔王の天敵が勇者であるように、私の天敵は雨乃さんなんすよ」


「どんな所が苦手なわけ?」


「まずは、人の思考が見えるところっすかねぇ。黒幕思考の私からすると勘弁して欲しいっすね」


あー、そうか悪巧みがバレるし、俺にちょっかいかけてる事がバレるからか。


「まぁ、とりあえずは苦手っす」


「俺はお前が苦手だけどな」


苦笑いを浮かべつつもそう呟く。


「てか、馬鹿なんすかね? 私が言うのもなんなすけど、自分の生活を引っ掻き回そうとしてる人間にドーナツ奢って日常会話を楽しむとか。狂ってるんすか? 頭のネジどっかに落としてきました?」


「落としたとしたら間違いなく昨日だろうけどな。てか、ほんとにお前が言うなって感じだよな」


「実際のところアレっすか? 「困ってる所は例え敵でも見過ごせない」とかヒーロー&主人公的な下心0パーセントの行動っすか?」


は? 何言ってんだこいつ、下心0パーセントとかあるわけねぇだろ。


「いや、お前から色々聞き出そうと思ったのと、あわよくばそのデカイ胸揉んでやろうかと。優しさなんて微塵もないし」


「下心100パーセントっすね」


「バカか、120超えてるに決まってんだろ。胸揉みしだくぞ」


「私が急な下ネタに弱いって分かってから露骨に胸揉むとか言うのやめてもらっていいっすかね!? あと、手をワキワキさせないで!」


「てか、本当に胸デカイなお前」


「セクハラだ! セクハラっすよそれ!」


だから大声出すのやめろって、冤罪で捕まっちゃうだろ。


「あぁもう! ペースが乱されるぅ!」


「俺知ってんだ、お前みたいなタイプって自分のペースを引っ掻き回されたら終わるって」


「くそ! なんなんすかアンタ!」


知ってんだろ、紅星夕陽だよ。


「そんで、ドーナツ奢ってやったんだから話せよ」


「……何が聞きたいか言ってください」


「あんまり深いの言うとお前どうせ拒否るだろうからなぁ。かと言って重要なチャンスをスリーサイズ聞くとかアホなことに使いたくないし。よし……お兄さんがドーナツをもう1回奢ってやろう。だから質問の回数を二回に増やせ」


「絶対嫌っす! 二回に増やしたら一回はスリーサイズ聞く気っすよね!?」


「よく分かったな、褒めてやろう。胸を出せ」


「そこは頭っすよね!?」


なんだ、撫でて欲しいのか。


「お前の『症状』の使用条件と詳細を教えろ。どうせこれぐらいしか教えてくれねぇだろうしな」


「……ほんっとにペースが乱されるっすね。はぁ、分かったすよ」


オレンジジュースをズズズっと啜りながら晃陽が口を開く。


「私の『症状』は簡潔にいえば、ご察しの通り『洗脳』っす。ただ、いくつか難点があるんすよ」


デメリットとはちげぇのか?


「一つ目は『人を殺せ』だとか、まともな人間なら普段ストップをかけてるような命令ならば無理ってこと。二つ目は『記憶の消去』及び『記憶の改ざん』は無理。三つ目は一回洗脳すると効果は二日で切れる。こんぐらいっす」


「へぇ、んで使用条件は?」


「この『症状』は洗脳する相手の身体に触れないと使えない、それプラスで自分の血を舐めないと行けないってことっす。血の量は数滴でも構わないっすけどね」


つまりは暁姉妹と同じ系統の使用条件か。


「そして、大前提としてっすけど」


「なんだ、まだあんのか?」


「洗脳する相手が『不安や不満、そして心配事や悩みを抱えってる』って事が大切っす」


……おい待て、その理論で行けば。


「気づいたっすか? そうです、夕陽くんはさっき言ったの条件に無意識下に当てはまってるんすよ」


「……」


思い当たる節はある、間違いなく「雨乃との関係性」について悩んでいる時に付け込まれた。


「逆に言えば『満たされている、今に満足している』といった人はまったく効きません。まぁ、アレっすよ不安定な時こそ何かに縋り付きたなってしまうって事っすね」


ちくしょう、今の俺ってバッチリ当てはまるじゃんか。


「という訳で」


机に置いていた手を晃陽が握る。

見れば、もう片方の手から血を流しながらソレをぺろりと舐めていた。


「さぁ、ゆっくりと目を閉じるっす」


不味い、そう思った時には身体は虚脱感に包まれている。

昨日のように思考には(もや)がかかり始める。


「カモネギってこんな感じの時に使うんすかね?」


エビが衣とか付けて油に飛び込んだってのも当てはまるな。


「さぁ、その不安感も悩みも全て私が背負ってあげるっす、何も考えなくていいんす。だからゆっくりと目を─」


「あら、勝手に甘やかすのはやめてくれるかしら」


俺の離れかけていた意識を強制的に引き戻す声が響いた。


「たださえ馬鹿な夕陽が何も考えなくなったら、それこそ終わるわよ」


グイッと俺の髪を掴んで晃陽から切り離す。


「それと、これ以上アホなことに夕陽を巻き込むのはやめてくれる? それ以上、勝手に手を出すと」


そのよく聞いたことのある女の声は冷たくて。


「潰すわよ?」


とてもとても怖かった。

怖すぎて後ろ振り返れないレベル。


「ふふ、先輩ったら私達が居ない間に知らない女の人と手を繋いでるなんて。しばき倒しますよ?」


後ろから、雨乃に負けないくらいに冷たい冬華の声がする。

そして。


「修羅場来たぁぁあ!」


空気の読めない、髪も頭もピンク色のアホ子の夏華の声も聞こえる。


「ははっ、まったく昨日も今日も邪魔するとか。潰したいのはこっちなんすけどねぇ?」


「はっ、やってみなさい」


不敵に笑う晃陽と不機嫌オーラ全開な雨乃の両者がバチバチと火花を散らす。

あぁ、割と本気で胃が痛くなってきた。


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