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Evening Rain  作者: てぇると
GW編

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21/105

二十一話 Golden week 1

本日より1.5部というか、箸休めというか。ギャグ色強めですがシリアスもマシマシなゴールデンウィーク編のスタートです。

「ふぁー」


欠伸とともに目が覚める。

ベッドの隣の目覚ましがわりの時計を見れば時刻は九時四十分、いつもなら学校に行っている時間帯である。


「……あぁ、ゴールデンウィークだったな」


ゴールデンウィークである!

休みがいっぱいである、だから睡眠時間もたっぷり。


外に目を向ければ快晴。鳥のさえずりが聞こえてくるいい朝だ。

軽く伸びをして顔でも洗おうと廊下に出れば、目の前には悪鬼が居た。


「誰が悪鬼か」


ほっぺたの部分を両手で掴まれ顔の形を歪められる。


「鏡見てみろよ、くま酷いぜ」


どんよりとした目元に、この前買っていた春夏兼用のパジャマ。

そして、くまは酷いのに髪の毛は整ってる。


「徹夜したのよ」


「ドラマ? 積みゲー? それとも黙想?」


「なんでその選択肢が出てきて、普通に読書が無いのよ」


読書で徹夜か。


「何読んでたんだ?」


二人して洗面所に向かいながら、雨乃に問いかける。


「傷物語・猫物語(黒)」


「一晩で?」


「yes」


先にどうぞと洗面台を譲ってくれたので、ありがたく顔を冷水に晒す。パリッと頭の中で電源が入る感じがする。


早いもので、あの慌ただしい(精神的にも肉体的にも夕陽フルボッコな)二日間から数週間の時が流れた。

あの後は色々あった、やけに怪我しまくった南雲や空元気を振り絞ったような月夜先輩。やけに小うるさい暁姉妹に謎の傷心モードの瑛叶。

瑛叶は心底どうでもいいが、他は少し気になる。


「っと! ちょっと聞いてる?」


「ぼーっとしてた」


「はぁ、もう」


そして、この子も変わった。

雨乃の俺に対する態度が少しおかしい。やけに優しい時もあれば、なんか機嫌悪い時もある、そして俺が何かしないようにと見張ってる感がヤバイ。


「見張ってないわよ」


「じゃあ何さ」


「何かやらかしたらひっぱたいてやろうと思って」


「予想の斜め上を行くのな、お前」


顔を洗い終わった雨乃にタオルを手渡して、リビングのドアに手をかけたその時、中からゴソゴソと何かを漁る音が聞こえる。


「……おい、雨乃」


「分かってる、分かってる」


ドアを開けた先にいたのは冷蔵庫を漁る、パッと見雨乃の姉にも見えなくはない人。雨乃の母親、星川 琴音(ことね)さんがいた。


「なーにしてるんすか、琴音さん?」


俺が声をかけるとハムを咥えた琴音さんの身体がビクッと震える。


「あ、あれ? 夕陽くんも雨乃ちゃんも学校は? はっ! まさか逢い引き!? お母さんふしだらなのは許しませんよ」


「「口にもの入れて喋るな」」


ハムにマヨネーズを塗りたくってモグモグと咀嚼しながら、性格は雨乃と似ても似つかない彼女はそう言った。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





「とゆうわけで、ただいまー」


雨乃がササッと作った朝食を食べながら琴音さんがそう言った。


「お母さん、うるさい」


「娘酷い!」


ほんっと、なんで雨斗さんと琴音さんから雨乃が産まれたのだろうか? 割とマジで謎だ。


「なになに? 夕陽くん」


「いや、顔以外似てねぇなって」


「ははは、歳を取れば変わるものだよ少年。こんど君のお父さんとお母さんに聞いてみな? 私の若い頃は雨乃ちゃん、そっくりだったのよ?」


「「ダウトッッッ!」」


「全否定!?」


いや、待てよ? それが事実ならば雨乃も歳を取れば、ここまでは行かなくとも、少しばかり優しくなる?

え、何それ見たい! 具体的にいえば凄く可愛いと思うんだけど太股に痛みがぁぁぁぁぁ!


「痛い! ちょっ待って!? 何してんの!?」


「飛ばせば? 痛み」


「言ったよね!? 痛みの上乗せが上昇してるって言ったよね!?」


「知らない」


やっと雨乃の手が太股から離れる、見れば皮膚が少し変色していた。このゴリラめ。


「あ?」


「はい、すいみません。魔が差しました」


その、片手で骨をパキパキ鳴らすのやめて? カッコイイけど怖いんだ。

一連の様子を見ていたのか、琴音さんがケラケラと笑う。


「ほんっとに夕陽君と雨乃ちゃんを見てると昔の私達見てるみたいだよね。傍から見たらそんな感じだったんだろうなぁ」


懐かしむように、食後の珈琲を飲みながら笑う。


「私達って雨斗さんと琴音さんですか?」


「いーや? 私と雨さんと、夕紀(ゆうき)輝夜(かぐや)


意外なところで出た、父・夕紀と母・輝夜の名前。

何故に4人?


「雨さんと夕紀を混ぜて割ったのが夕陽君で、私と輝夜の一番ヤンチャしてた時を混ぜて割ったのが雨乃ちゃんね」


俺が雨斗さんと親父を混ぜて割って、雨乃が琴音さんと母さんの一番やばい時を混ぜて割った?

まて、雨乃はまだ分かる。若干暴力的だし魔王っぽいですし?

だが俺は何故だ? 正直、昔の話を聞く限りじゃ親父はともかくとして、雨斗さんも相当馬鹿だったはずだ。それを混ぜたのが俺?

おいおい、やめてくれよ。俺は理性的で合理的……


「の欠片もなくて。バカでカッコつけで、猪突猛進の大馬鹿野郎」


「人の内心から言葉を汲み取って改変すんのやめてくれます!? お前のそういう所が母さんぽいって言ってんの! この魔王! デスピサロ!」


「何でよりによって一番可愛くないデスピサロなのよ!」


「なんだ、じゃあバラモスか? ゾーマか? 竜王か? エビルプリーストか? ダークドレアムか?」


「エビルプリーストに至ってはデスピサロの色違いじゃない、ぶっ殺すわよ?」


「怖い!」


「もし わたしの みかたになれば せかいの はんぶんを ゆうひに あげるわ」


「それってアレだろ? 罠だろ!?」


「なにゆえ もがき いきるのか!?」


「うっせぇ、光の玉ぶつけんぞ」


「そもそも闇の衣なんて着てないわよ」


何故そこでドヤ顔?

てか、やけに詳しいと思ったら、昔から俺がドラクエやってると後ろに張り付いてストーリ見てたなお前。


「な、なに? お母さん、ニヤニヤこっちみて」


「いやー? 仲いいなぁって」


「べ、別に」


雨乃が前髪をいじり出す。

これは雨乃の癖である、分が悪くなると前髪を指先で弄るのだ。


「あー、もう!」


「最近のお前は情緒不安定だな」


「……」


「言いたいことがあるなら言えよ! そんなジト目されてもわっかんねぇよ!?」


「あれでしょ? 雨乃ちゃんが言いたいのは「夕陽のせいだー!」って事でしょ? ほんっとに夕陽君は雨乃ちゃんに対しては鈍感だねぇ? 今どき流行んないよ? 鈍感系主人公」


「し、失礼な! 人をそんな安っぽいキャラ設定にしないでください!」


敏感系主人公だぞ、俺は。主人公ではないけれども。


「良いんじゃない? 基本的に夕陽って安っぽいし」


「お前絶対にデスピサロ言われたの根に持ってんだろ!? そうなんだろ!?」


「黙りなさい、トルネコ」


「あぁん!? 足払いしてやろうかお前!」


トルネコ強いんだぞお前、あの人スーパー商人なんだぞ?


「ほんっっっと仲良いわよね、二人共」


「「……別に!」」


「意地張っちゃってぇー」


うりうりーっと俺のほっぺを指でつつきながら、めんどくさいテンションで琴音さんが絡む。


「ほんとにね、昔は思いもしなかったわよ。あの夕紀と輝夜の息子を私達の家で預かるなんてね」


「そりゃ、まぁ」


「もうあれよね、夕陽君は私と雨さんの息子だよね」


「いや、俺の両親は不本意ながら魔王と変人です」


「的確な表現ね夕陽君。百点あげちゃう」


みんな思ってるよね、あの二人は魔王と変人だって。


「つか、なんで結婚したんすかね? 母さんと親父って」


「まぁ、デキ婚だけどね」


「あ、それは聞ききました」


「面白いわよねあの二人。夕紀ってば中学生の頃から大学生まで合計で23回告白して、23回とも振られて最後にデキ婚だもんね」


「あのー、生々しい話はやめてもらっていいすかね? つか、地味に初耳なんすけど!? 23回ってなに!?」


「ありゃ、知らない? 雨乃ちゃんにも話したわよね?」


「いや、知らないわよ」


「俺も初耳っすよ」


俺達がそう言うと、「やっちった」みたいな顔をする。


「ほんとに輝夜ってば性格悪いわよね」


「あ、話そらしたな」


「しー!それは言っちゃダメ。それでね、輝夜になんで23回も振ったの? って聞いたら」


「「聞いたら?」」


「振られた後の反応が面白くて可愛くて癖になったからなんですって。まぁ、でもヤッてることはヤッてたのよね」


「そんな最悪エピソード聞きたくなかったッッッ!」


生々しい上に、やっぱり俺の母親やばい人だ。


「まぁ、二人共私達からしたら大切な子供ってことよ」


何の解決にもなってないし、何の脈略もない発言をしながら、ニッコリと優しい笑顔で琴音さんが笑う。

なんか、この人無理矢理にでもいい話風に持っていこうとしてない? 俺の気の所為?


「気にしたら負けよ」


「そうだな、負けだな」


気にしない。

雨斗さんと琴音さん、親父と母さんの過去の話はあまり聞きたくない、地雷がたくさん埋まってそうだし。


「ふー、もうこんな時間か」


琴音さんは時計にチラリと目をやると椅子から立ち上がる。


「んじゃ、そろそろ働きにいくかなぁ」


珈琲を飲み干すと、バッグを取ってリビングのドアに手をかける。


「行ってきます!」


「「行ってらっしゃい」」


琴音さんはいつも通り、嵐のように去っていった。


「はぁ、疲れるなあの人」


「まったくもって同感よ」


二人して顔を見合わせて笑う。

ポケットでスマホが振動した、ちらりと画面に目をやると瑛叶からの釣りのお誘いであった。今は返信しなくていいだろう。


さて……と、ゴールデンウィークは始まったばかりだ。

何をしようか? 何せ、時間はたんまりとある。二人共、今日は予定は無いしな。


「何しようか? 今から」


雨乃に問いかける。


「ドラクエでもする?」


「よし来た」



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