表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Evening Rain  作者: てぇると
日常編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/105

二十話 人生行路

すっかり藍色に染まってしまった帰り道を歩く。


「ねぇ、夕陽」


「んー?」


「夜ご飯何にしようか?」


時刻を見ればもう六時半、道理で腹が減るわけだ。

……あれ? 俺昼飯食ってねぇな。


「肉」


「はい出たー、作る人を困らせる言葉だよ。何がいい? って聞いたら『肉』って言うの」


「んじゃ、鶏肉か豚肉」


「牛肉は?」


「気分じゃない」


「なによ、それ」


肉じゃが食いたい、てか腹減った。動物性タンパク質取りたい。


「肉じゃが……ね、分かったわ」


「会話省けるから楽だわ」


「……イラッときたわ」


「えー、俺悪くない」


歩きながら、近くのチェーンスーパーに寄る。制服姿の俺達は少しだけ浮いている気もするが今更気にしない。


「あ、プリン食べたい」


「お父さんが貰ってきてたパイナップルがあるからダメ」


「え、二つ食えばいいじゃん」


「……カロリーが」


「なに? 体重増えたの?」


胸に肉が行かないのに、腹に肉は行くんですね。


「殺すわよー?」


「本気で怖いからやめて、目が笑ってないからやめて!」


カートを押す雨乃の後ろをついてまわりながら、スーパー内を物色する。プリン食べたかったなぁ。


「肉じゃがと……何にしようか?」


「シェフのおまかせプリン」


「何もおまかせされてないわよソレ」


味噌汁と白飯と、ちっこい魚とかでいいんじゃないっすかね?


「そうね、アジ食べたい」


「俺、サバ食べたい」


「アジ」


「はい、もういいですアジで」


食材を次々と入れながらレジに並ぶ。

レジは以外に空いていて、気づけば金を払い終えていた。買ったものをレジ袋に入れて店を出る。


「今日、満月ね」


言われて上を見る、言われるまで気がつかなかったのが不思議なくらいに大きく美しい月が頭上にあった。


「そうだな」


街灯が次第に少なくなる。

車も人もいない、閑静な住宅街を抜ける道には俺と雨乃だけ。


「ねぇ、夕陽」


「ん?」


「月夜先輩と何の話をしてたの?」


「猥談」


スーパーの袋片手に適当なことを(うそぶ)く。

これが嘘ってことはバレてる、もしかしたら今この時も俺の思考を読んでいるなもしれない。

だけど、それでいい。


「なんで隠すの?」


「男子高校生の桃色脳内暴いて楽しいか、お前は」


「それも嘘でしょ?」


「あぁ、嘘だよ」


顔も合わせず、歩幅も合わせず会話だけを交わす。

こうなることは月夜先輩と抜け出した時から分かっていた、問い詰められることぐらい分かっていた。


「ほんとに嘘つきね」


「俺だって人の子だ、嘘ぐらいつく」


「夕陽が嘘つくのは私にだけよ」


後ろで足音が止まる。

振り返れば立ち止まってこちらを見つめる雨乃が居た。


「正直に話して」


「嫌だ」


沈黙が訪れる。

本物の無音、無心。


「何も読めない」


「何も考えてねぇからな」


ずっと一緒に居たんだ、このぐらいの芸当はできるよ。


「そう、出来ちゃうのね」


「なぁ、雨乃」


「なに?」


何となく、何となく今は雨乃は俺の思考を読んでいないと踏んで賭けに出る。


「秘密が知りたいなら、何を話していたかを知りたいのなら、思考を読めばいい。お前なら奥の方まで見えるはずだろ?」


「……」


「だけどさ、俺がここまで隠してるんだ。それを暴いちまうほど、最低な女じゃないだろお前は」


釘を指す。

卑怯なやり方とは自覚している。ここで雨乃が俺の内側を見てしまえば俺の期待を裏切ることになる。

だから、雨乃は見ない、絶対に。


「……卑怯ね」


静かにそう言った。


「あぁ、卑怯だよ」


「昔からそうよね、夕陽って」


「そうかもな」


「軽口は叩くのに、本当の言葉は言ってくれない」


「そうだな」


「取り繕って、隠して、誤魔化して」


「かもな」


「私には何も言ってくれない」


「あぁ、そうだな」


「こんなもの手に入れても、そうやって釘を指して。ほんとに卑怯だわ」


「言い返す言葉もねぇよ」


街灯の下に立つ雨乃は震えているようにも見えた、それが怒りなのか悲しみなのかは分からない。

俺には彼女の内側を見ることはできないのだから。


「ねぇ、いつか聞かせてくれる?」


「望むならいくらでも」


「そう」


「あぁ」


会話はそこで終わる。

雨乃はゆっくりと息を吐いて、下を向く。

そして顔を上げる。


「夕陽、帰ろ?」


「そうだな、腹減った」


「お昼ご飯食べないからよ」


「肉体ダメージ的に食べれるコンディションじゃなかった」


「無理するからよ」


隣には雨乃がいる。

歩幅も顔も合わせて喋りながら帰り道を二人で歩く。


当たり前の日常が、やけに尊く感じる。

やはり、昨日の雨斗さんの言った言葉のせいだろうか?

あと何日、こうして一緒に帰れるのだろうか。あと何日、こんな関係を続けられるのだろうか?


考えたって分からない。俺は夢唯みたいに未来が見れるわけじゃない。でも、続かせたいのならば動き出すしかないのかもしれない。

こんな俺の隣に、こうして居てくれる雨乃は……


「どうしたの?」


「読んでみれば?」


「……アホみたいなこと考えてそうだからやめとく」


あぁ、アホみたいなことだよ。

凄くアホみたいで、凄く大切な事だよ。


「星も月も綺麗ね」


笑いながら振り向く雨乃は月明かりに照らされて、どこか蠱惑的な雰囲気を醸し出す。

こんな時、なんと言えば良いのだろうか? 考えても良く分からない、詩的な言葉もお洒落な言葉も出てこない。

だから。


「あぁ、綺麗だな」


まぁ、俺的には頑張ったよ、だから今はこれで勘弁してくれ。





これが一部の最終話です。次回から二部に進みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうぞよろしくお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ