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Evening Rain  作者: てぇると
日常編
15/104

十五話 暗雲低迷

4人がけのボックス席。前を見ればピンクが二つ、隣を見れば黒が一つ、鏡でも取り出して自分を見れば茶色が一つ。


「カラフルだこと」


誰にいうでもなくそう呟く。

珍しく隣でスースーと窓枠に体を預け寝息を立てる雨乃と完全に首と意識が落ちている夏華。


「寝ちゃってるな」


「寝ちゃってますね」


起きているのは俺と冬華。

辺りを包む喧騒とは裏腹に、俺達の間には静けさが鎮座している。


「冬華達もこの電車なのか?」


沈黙に耐えかねて、窓の外から目を離しながら冬華に問う。


「はい、私達もこの電車のこの時間です」


「んじゃ、今まで車両が別だったのな」


少なくとも今の今までピンク色は見ていないと思う。


「いや、一緒の電車の同じ車両ですよ?」


「え、マジで?」


「マジです、先輩達がいつも座る席からじゃ見えなかったかもしれないですが私達は先輩のこと知ってましたよ」


「まじか」


「はい、同じ制服で髪色も黒じゃなかったので一方的ですけど」


まぁ、同じ高校の制服で髪色違ったら見るか。でも、茶髪ってそんなに目立つ髪色じゃないよな? 今時探せばいるだろ。

まぁ、とりあえず世界は小さいな。


「それにしても」


「ですね」


辺りからの視線が痛い。貴方達、ちょっとばかり露骨じゃないっすかね? ジロジロ見ないで頂けます? 特に特に雨乃の寝顔とか、アンタら全員金とるよ?


まぁ、カラフルなら嫌でも目を引くか。

いや、違うな。目を引いてる理由はそれだけじゃない。


雨乃を始め夏華、冬華も顔が良いから嫌でも目を人の引く。


「まぁ、私達は慣れましたけどね」


あっけらかんと冬華が言う。


「互いに髪色で苦労するなぁ」


俺のは茶髪だから良いけど、ピンクってのはなぁ。地毛申請どうしたんだろ。


「ですね。夏華も染めなくていいのに」


お互いという言葉を何故か『夏華と冬華』と取ったのだろう。会話が少しだけズレてる。

あぁ、そういや冬華が天然物なら夏華は地毛は黒なのか。


「まぁ、姉妹心って所じゃないか?」


「かもですね」


そう言ってニッコリと笑う。

うむ、普通に可愛いな冬華。コイツら、学校じゃモテるだろうなぁ。


「そういや、ぶっちゃけモテる?」


話題も無いので、思いついた事をさして考えずポンッと出す。


「……まぁ、一応」


「お前ら彼氏いんの?」


あくび混じりに何気なく質問すると、間抜けな声と共に顔を少し赤らめた冬華と目が合う。


「い、いや。わ、私は好きな……人がいて。夏華は興味無いって」


「冬華さーん、顔真っ赤だぞー」


「ひゃい!」


え、なに今の「ひゃい!」って可愛い。


「すまん、不躾だったな」


いかんいかん、あんまし無神経なことばっか言ってると嫌われる。

せっかく仲良くなったのに嫌われるるのは嫌だ、心が折れる。


「大丈夫ですよ! 顔が赤いのは……まぁ、その」


前髪を指先で弄りながら冬華が口篭る。

初々しいなぁ、なんかついついニヤけてしまった。


「まぁ、頑張れ」


「そ、その。先輩は好きな人っているんですか?」


「俺?」


うーん、まぁ茶化すような奴でもないだろうし。

それにコッチだけ質問しといて冬華の質問には答えないってのもな。


「コレ」


スースーと窓枠に体を預け寝息を立てる雨乃を指差す。


「あ、やっぱり」


少し目を伏せながら冬華の声のトーンが下がる。


「どした?」


「いや、何でもないです! 上手くいくといいですね!」


「上手くいくと……いいなぁ」


あ、昨日のこと思い出す、あと二年……あと二年かぁ。


「何でそんなに自信なさげなんですか? 雨乃先輩と先輩って凄く仲いいじゃないですか!」


「あ、うん。仲はいいな、仲は」




仲はいいですよ、だって多分この子俺のこと弟かなんかと思ってそうですし。仲のいい姉と弟ぐらいだろうなぁ。

俺の表情から何かを汲み取ったのか、冬華は少しだけ笑う。


「がんばってください、先輩。私も頑張ります!」


「おう、お互い頑張ろう!」


比較的ゆっくりに感じた電車は気づけば動きを止めて駅に到着していた。二人を起こして電車を後にする。


※※※※※※※※※※※※※※※


場面は代わり化学準備室もとい、月夜マイルーム。


「やぁ、夕陽君。おはよう」


電車を乗り換え、学校に到着して雨乃にバッグを押し付けていつもの所に足を伸ばしている。

眼前には既に珈琲が。


「おはようございます、カッコつけておいてダメダメ月夜先輩」


「うわー、朝から辛辣ー。それで? 双子ちゃんは?」


珈琲を啜りながら先輩の質問に答える。


「だいぶ懐かれましたよ。なんか犬みたいで可愛いですよ、ついつい餌あげたくなったり撫でたくなります」


「可愛い後輩をペット扱いとは恐るべきアブノーマルだね。流石の僕でもドン引きだ」


「人のことを異常性癖者みたいに言うのはやめてもらおうか! 普通に犬みたいってだけですよ! てか、あの二人が不良集団に喧嘩売ったとは到底思えませんがねぇ」


「ははっ、事実は事実だよ夕陽君。彼女達が事故らせたのも事実、学校の黒板相手にイタズラしかけたのも、虐めっ子不登校に追いやったりしたのもね」


「知ってますよ。まぁ別にどうでもいいですが」


別に、俺は正義マンじゃない。俺の知らないところで誰がどうなろうと薄情な話知ったことじゃない。

そして今日の珈琲はやけに苦い、今日の月夜先輩はやけにウザイ。


「お腹の調子はどうだい?」


「そりゃ、朝から快便ですよ」


「分かってるくせにそうやって軽口を挟むのは流石だね」


「お褒めに預かり至極恐悦の至ですよ。傷の方は、まだ傷んでないんで何ともです」


「我慢出来なくなったらここに来るといい」


「保健室に行くんでご心配なく。それに」


あの日の纏めてきた痛みに比べれば。


「なんともないですよ、あんなヘナチョコパンチ」


顔すら合わせないで適当にやり取りを交わす。

いつも通りに流れるはずの時間は、この時間にしては珍しい乱入者によって掻き乱されることになる。


「おはよう月夜! って、お前もいたのか夕陽」


ニコニコと月夜先輩に挨拶して、うげェっと俺を見て毒を吐く。


「おはよう紅音」


「うげぇ、紅音さんだ」


思わず口から本音が出た、やられたら、やり返す。倍返しだ!


「うげぇ、とはご挨拶だな夕陽ィ」


人の頭を鷲掴みしながら凄む、怖くねぇよ。いや、ほんとに。


「不良をゴミのように投げまくる人に対しては適切じゃないですかね?」


「お前も窓から放り投げやろうか」


いやそんな『お前も蝋人形にしてやろうか』的な事言われても。


「俺みたいスライム投げてもなんの経験値にもなりませんよ? 俺の前にいるじゃないっすかメタルスライム」


お決まりの言葉を交わしながら紅音さんの分のスペースを開けるとそこら辺にあった椅子を隣に置いてドカンっと座る。


「お前、傷は?」


出されたコーヒー(砂糖とミルクを馬鹿みたいに入れたヤツ)を啜りながら紅音さんが質問してくる。


「ご心配には及びませんよ、まだ痛まないんで」


一応、この人も心配してくれているのだろう。


「ったく、無茶するなよお前」


ガシガシと俺の頭を雑に撫でながら紅音さんが真面目なトーンでそう言う。ほんとにカッコイイなこの人。


「まぁ、何かあれば月夜先輩が紅音さんを投入するのは分かってましたし、南雲軍団が来るまでの時間稼ぎ程度の戯れですよ」


「信頼はありがたいね夕陽君。だから対応が遅れて本当にすまない」


「私も謝っとく、ごめん」


珍しく頭を下げてキチンと謝る。

ちよっとやめてくれ、そういうの慣れてないから!


「い、いや! ほんとに頭あげてくださいって、先輩達が悪いんじゃないじゃないっすから」


珍しく俺も慌ててしまう。

先輩達が悪いわけじゃないから頭を下げさせるのは何か胸に来る。


「「はい、じゃあ反省するの終ーわり」」


「……やっぱ、もうちょっと反省してください」


あと2年ぐらい。


「月夜、お代わり」


「はいはい」


珈琲を飲みつつ、老夫婦のようなやり取りをする二人を横目に昨日の夜のことを思い出す。あと二年か……卒業するまで残り二年、どうするべきか。どうアプローチするべきか。


あれ、俺達があと二年で卒業? って事はこの二人は来年卒業なのか。


「そういや紅音さんも月夜先輩も来年卒業ですね」


「そういやそうだな」

「そういえばそうだねー」


うわー、ほんとに完全に忘れてたよこの人達。


「なんだい? 寂しいのかい夕陽君」


「いや、全然まったく」


「酷い!」


だって別に今更学校だけの付き合いじゃないし。


「どうせアンタらが卒業しても切れる縁じゃ無いでしょ」


言っておいてなんだが、言ったあとでなんだが、凄く恥ずかしい。


「おい月夜、夕陽が珍しくデレてる」


「ホントだね、レアだよレア」


「まぁ今後のこと以前に、アンタら二人共卒業できるか分かりませんけどねっっ! 珈琲、ゴチです。放課後双子連れてまた来ます!」


「わぁー、逃げた!」


気恥ずかしさに負けて部屋から飛び出す。

ちくしょう、昨日からなんか色々と変だぞ俺!? しっかりしろ!


恥ずかしさと共にふらふらと歩きながら教室とは違う場所を目指す。教室よりも先に行っとかなきゃいけない場所がある、お礼を言わなきゃいけない奴がいる。


扉に手をかけ屋上に足を踏み入れると日陰にすっぽり入ってやはりタバコを吹かす南雲がいた。


「おっす」


「ん、夕陽か。どうだ、傷は」


煙草を地面に擦って決して自分の隣を叩く。お言葉に甘えて座りながら精一杯の強がりを口にする。


「名誉の負傷だ、いたかねぇよ」


「ははっ! あんだけ顔面蒼白だった奴がほざきやがる」


「うるっせー。まぁ、そのなんだ」


「ん?」


「迷惑かけたな南雲」


「らしくねぇなお前。まぁ、どのみち偉く調子こいてたからな、遅いか早いかの話だ。アイツらがお前らに手を出すこたぁねぇから安心しろ」


「さんきゅー」


「こんどアイスでも奢ってくれ」


まったく、お前はかっこいいよ南雲。

口に出して言うのは、なんか負けた気がするから絶対に言わないけども。


「アイツらを拐かした奴がいる」


偉く真面目なトーンで南雲がそういった。


「あー、なんか月夜先輩が言ってた気がする」


なんだ本当に黒幕でもいやがるのか?


「身長は俺ぐらいで基本的にいつも頭がすっぽりハマるパーカーを着用してたらしい」


手がかり皆無ですねありがとうございます。


「あった回数は?」


「四回だそうだ」


別段探し出してどうこうする訳じゃないが。

だが、暁姉妹や雨乃が狙わないとも限らないから警戒は必要だ。


「なんか特徴は?」


「特徴……あぁ、そういや」


スマホでメモをとっていたのか画面を見つめながら口を開く。


「黒と白のストライプ? みたいな変な髪色だったらしい、地毛っぽかったとか何とか」


……『病気持ち』の可能性大だな。


「そいつ見つけたら連絡してくれ、ちっとばかし話が聞きたい」


「りょーかい」


「じゃ」


別れを告げて屋上を後にする。


黒と白のストライプ野郎は間違いなく『病気持ち』って知って暁姉妹を狙った可能性が高い。

月夜先輩が出した髪色の法則性を自分で導き出したのか? どのみち警戒はしとかねぇと駄目だ。


夏華も冬華も既に大事な後輩だ、知り合って一日程度だが悪い子達じゃない。再び狙われる可能性だってある。雨乃だって『病気持ち』である以上、無関係じゃない。

だったら自分の手の届く範囲だけでも、絶対に守ってみせる


心の中でそう誓って、穏やかならぬ気持ちで俺は教室に足を伸ばした。

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