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Evening Rain  作者: てぇると
日常編
14/104

十四話 平穏無事

人の気配で目を覚ます。

考えすぎていたせいか、どうにも眠りが浅い。

重りでもくっつけたのかと思いたくなるような瞼を開けると飛び込んできたのはピンク。


「おはようございます、先輩」


あぁ、そういや泊まってたんだな。


「おう、おはよう」


グッーっと身体を伸ばすと、口からふぅーっと息が漏れる。

微睡みに包まれる意識を無理矢理起こして、ついでに身体も起こす。


目の前には笑顔の冬華、何故か俺のことを残念な目で見る夏華、大方昨日チキったことだろう。まぁ、それはいい。


「何故だ」


ボソリと呟く。

何故なのだ。


「なぁ、冬華」


「なんですか?」


「なんで雨乃、上機嫌なんだ?」


「え? 上機嫌なんですかあれ?」


「いや、上機嫌でしょ。見てみろよ、鼻歌交じり料理してるよ」


「それにしても雨乃先輩って表情あんまり変わりませんね」


むぅ、慣れすぎてどうでも良くなっていたが雨乃の表情って結構硬いな。


「まぁな、氷を顔面に貼り付けて上からコンクリ塗って固めたような女だからな」


「聞かれたらまたドヤされますよ? 先輩」


クスクスと冬華が笑う。


「もう慣れた」


そう言ってベッドがわりのソファから立ち上がり顔を洗おうとフラフラと足を洗面所に伸ばした。

どうにも身体がだるい、寝てないからだろうか? てか、雨斗さんも眠れなくなるような話をしないでほしい。

思考の沼に嵌って抜け出せなくなるじゃないか。


「うぉ、いたのか」


洗面所のとびらを開けると一足先に夏華が顔を洗っていた。


「あー、もしかしてラッキースケベとか期待してました?」


「してないと言えば嘘になるけども、今のは完全に偶然だぞ。まぁ、見れたら拝むけれども」


「一つ屋根の下、同じベッド寝ている女性にすら手を出せないチキン先輩が何言ってんですか?」


「チキン先輩言うな。てか、手を出しちゃったら不味いだろ」


R18タグ付けなきゃいけなくなるでしょ?


「てか、女の子からしたら結構ショックじゃ無いですかね? 一緒に寝てるのに手を出してこないとか」


「はっ、そこで理性を失って野獣になるぐらいなら。俺は甘んじてチキン紳士の名を欲しいままにするね!」


「何ですかチキン紳士って。てか、そんなことを言いながらも頭の中はピンク色の妄想でいっぱいでしょうに」


「きっとお前の想像の五倍は先を行ってるぞ? 付いてこれるかのか? 俺の脳内模様に。つか、男子高校生なんてそんなもんだぞ? 頭の中身は女体の神秘でいっぱいだ」


どうぞっと洗面台を譲ってくれた夏華の横で顔に冷水をぶつける、やっとのこと眠気の魔手を振り払う。


「ついて行く気は微塵もないです」


「無いんだー」


「てか、先輩勝手にとか言っちゃってますけども、みんながみんなそうとは限らないんじゃないですか? 先輩がちょっと特殊とか、頭の中も性癖も」


頭の中はちょっとばかり特殊なのかもしれないが、俺は至ってノーマルだ。

割と真面目な顔して失礼なことを言ってくる後輩の頭を小突きながら、真実を口にする。


「男って生き物は中学生になって、ちっとばかりマセてる友達や友達の兄貴からエロ本や単語を教えて貰って予備知識をつけて高校に入んだよ。男子中高生なんて下ネタ言っときゃ大概仲良く盛り上がれる」


「へぇ、そんなもんですか」


「そんなもんです。逆説的に言えば下トークしてる時に話に入れず人の目を気にして恥ずかしがってるやつは「何だあいつ」「ノリ悪ぃ」ってなって置いてけぼり喰らうんだよ。たまにいるだろ、隅っこでラノベやらスマホやらしてるやつ」


「いますね」


「その類の連中は話に入り込めず同じような仲間と喋ることになる。これを俗に陰キャと言うらしいでーす」


寝癖を直しながら、謎の講義を開始する。


「先輩はどっちですか? 先輩って教室でも本読んでるみたいですけど陰キャですか?」


あれ、なんで俺が教室で本読んでんの知ってんだコイツ?


「ドギツイタイトルや挿絵のラノベ読んでても対して騒がれないキャラって奴を確保してるからなぁ。しかも俺は八方美人だし」


「まじですか、大変じゃないんですか?」


「グループ同士で揉めるとそれはそれは肩身が狭いことこの上ない」


割と本気で困るのだ、グループ同士で揉められると八方美人な俺としては対応に困る。どっちの味方だよお前って空気がヒシヒシと伝わってくるからだ。


「だからこそ、揉め事が起こらないうちに早期解決。これに限る」


「そして実をいうところどのグループも信用してないと?」


「基本的にはな。安心してバカできるのは幼馴染みの連中とか頭のやばい先輩とかヤンキー君とかだよ」


勿論、頭のやばい先輩とは月夜先輩と紅音さんである。


「先輩の無駄に高そうなコミュ力は八方美人から来てるんですかね?」


「先天性だ先天性。親父も母さんもコミュ力お化けだからな」


うちの家計は大概の人と仲良くなれる、あれは最早才能だ。言葉が通じなくても仲良くなるからなあの二人。


そして我が姉二人はコミュ力魔王だ、あの二人は少ない会話の中で相手を分析して潰すなり引き込むなりをしてしまう化物である。

我が姉ながら何故あのように腐った林檎みたいな性格の人間が出来上がったのか、疑問は尽きない。


兄貴も兄貴だ、アレは本物の天才。天に選ばれたとしか言えない人だ。それに比べて俺の平凡性と来たら、笑えるまである。


おっと話が逸れたな。


「まぁでも、気を使わないとクラスで小説を読めない世の中は嫌なもんだよ。ラノベしかり純文学しかりな」


「私達は今まで文句あるなら掛かってこいや! スタンスでしたからね、誰も何も言いませんでしたよ。言ってきたら言ってきたで内心ボロっカスにしてやりましたけど」


「なぁ、それほんとに? なんかお前ら二人見てるとイジメっ子不登校に追いやったとは思えないんだけど」


二人一緒に洗面所を後にしながら、ずっと思っていたことを口に出す。この二人見てると、少しだけ扱いづらいだけで充分いい娘だと思うんだけどなぁ。


「ファーストコンタクトこそ最悪だったものの、お前ら二人の昨日からの態度を見る限り普通にいい子達だと思うんだけど」


「先輩はチキンの癖して中々胸に来る言葉を吐きますね。まぁ、私達も自分達のことを身を呈して守ってくれた人に変な態度は取りませんよ。冬華は特にね」


「そんな所がいい子だって言ってんだよ。何にせよ人に感謝が出来て、その言葉を伝えられるってのがね」


「そんなもんですかね?」


「そんなもんだよ」


言いながらリビングのドアを開く。


「おはよう雨乃」


「うん、おはよう夕陽」


……誰だこいつ。

俺の知ってる雨乃じゃない、地球侵略を目論むエイリアンが雨乃に擬態でもしたのか? ふふふ、だとしたらその野望はここで潰えることになる!


「……馬鹿なの?」


「手の施しようがない程度には」


「機嫌がいいのは……まぁ、色々あったのよ」


「ほーん、色々ねぇ」


目覚ましジャンケンで勝ったとか?


「その程度で機嫌の上下は起こらないわよ。冬華、夏華」


「「はい?」」


「お皿出すの手伝ってくれる?」


「「はーい」」


あー、なんだが暁姉妹に犬耳と尻尾が見える。


「ふふ、私も思った」


「だろ? そうだろう?」


二人して笑っていると、冬華がムーっと頬を膨らませる。


「二人だけで会話を省いたコミュニケーションとらないでくださーい」


「俺と雨乃レベルになったらアイコンタクトだけで意思疎通が可能なのだよ」


「無茶言わないで、さすがに無理よ」


「まぁ、出来たら出来たでドン引きなんだが」


言いながら席に座る、今日はトーストにハムエッグ、サラダに珈琲と洋食チックだ。


「朝から豪華ですね」


おぉ! っと嬉しそうに冬華が言うと夏華もうんうんと頷く。


「普通じゃね?」


「家は毎日菓子パンと牛乳ですから」


菓子パンなら俺も毎日食べてるよ、瑛叶のくれるやつだけど。美味しいよね菓子パン。


「とりあえず夕陽は私にもっと感謝するべきだと思うの」


「ちゃっかりしっかり感謝してるっての」


毎日ご飯用意してくれる雨乃さんマジ天使。俺のサラダだけに嫌いなブロッコリーぶち込んでくるあたり、一周回ってマジ悪魔。


「「「「いただきます」」」」


食卓を囲む笑顔の三人と、サラダに居座る緑色の集合体を目の当たりにして引き攣った笑みを浮かべる俺。

少しだけ賑やかな我が家の朝が始まった。

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