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Evening Rain  作者: てぇると
日常編
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十話 Bath Time

「「夕陽先輩! お背中流します!」」


「行かせる訳がないでしょ!?」


「ちょ!? 何してんのお前ら!?」


一日の疲れを癒すため、風呂に入ろうとしている俺に悲劇が起こった。悲劇…? いや、喜劇か? まぁ、とりあえず何でこんなカオス極まる事態に陥ったかを説明するには時間を遡る必要があるだろう。それは大池先生に送ってもらった時まで遡る。


※※※※※※※※※※


「もう一人で歩けるから心配すんな」


支えると言って聞かない双子を振りほどき、家の中に入る。

短時間でえらく懐かれたもんだ。


「たでーま」

「ただいま」


「「お、お邪魔します」」


いつも通り玄関で靴を脱いだ俺達とは対照的に、暁姉妹は硬直している。あー、そこそこ家が広いからビビってんのか。


「別にそんなにかしこまんなくていいぞ。今日は雨乃の両親いねぇし、実家のような安心感とともに寛いでくれ」


靴を脱ぎつつ適当な事を言って後輩を和ませる、できる先輩である。


「居候が言うな」


「てへぺろ」


三人を置いて一足先に洗面所に向かった、確認したいことがあったからだ。洗面所に入り、上着を脱ぐと


「……まぁ、予想通りだわな」


俺の腹部はドス黒く変色していた。

ボクシングとか言ってたから内蔵破裂ぐらいは覚悟してたが、そうはなっていないようで安心した、毎日筋トレだけはしといて良かった。


「夕陽ー?」


バレたらあとが物凄くめんどくさいので、早々に洗面所に置いてある部屋着に着替える。

一応、雨斗さんにに見てもらうか、内蔵関連だし。なにか起こったらまた雨乃達に迷惑かけることになる。


手と顔を洗い、タオルで拭いて洗面所を出た。

リビングに向かうと質問攻めを受けている雨乃が救助の目をコチラに向けていたが、放置。

少しばかり部屋で休ませてもらおう。


階段を登り、自室のドアを開けるなりベッドにダイブ。

今日は心身ともに疲弊しきっている。とゆうか、明日どうしよう? 多分、ここ最近で一番の痛みが襲ってくるぞ。

無理だったら月夜先輩の所か夢唯の所にでも逃げ込むか、死にかけながら授業受けれる気しないし。


「あーったく、めんどくさい」


とゆうか、あのリーダー格の奴、一撃一撃がヤバすぎるだろ。世界狙えるんじゃねぇの? あの拳。


「先輩、入っていいですか?」


などと、下らないことを考えていると勢いよく扉が空いた。


「もう、入ってんじゃねぇか」


えっと、車内で髪の色が自然な方が冬華だって言ってたな。


「冬華か?」


「はい! 覚えてくれたんですね」


「いんや、ほぼ勘だ」


どうやら、少しは元気になったらしい。

ずっと泣かれてたんじゃ気まずいからなぁ。気持ちの切り替えが出来るタイプで夕陽さん安心です。


「ふふ、先輩って面白いですね」


「面白さと煽りスキルはピカイチだと自負してるよ」


寝転がっていた体制から、体を起こす。

俺の部屋って椅子なかったなぁ、勉強する時はリビングか雨乃部屋だし。

キョロキョロと探していると、一個だけ椅子的な物があったのでベッドの近くまで持っていく。


「あぁ、どこでも適当な所に座ってくれ」


「はい、じゃあ遠慮なく」


冬華は何の迷いもなく、俺の隣…つまりはベッドに腰掛けた。

静かに、俺が冬華と向き合うように椅子に腰掛ける。


「なーんか、短い間に随分警戒が薄れたなぁ」


「当たり前ですよ、命の恩人みたいなものですから」


「んな、大げさな」


まぁ、命は取られないかもしれないが。きっと、あのままだったらいろいろと取り返しのつかないことにはなっていたかもしれない。


「…本当に本当にありがとうございました」


「いいって、別に。めんどくさいから気にすんな」


「私達は馬鹿でした…調子に乗って。最初は軽く脅かすつもりだったんです、夜中とかにバイクの音がうるさくて眠れなかったから。かるーい悪戯のつもりで夏華と一緒に不良グループに仕掛けたんです」


ポツリポツリと冬華は事の経緯を話し始めた。


「そしたら、凄く慌て始めて。その光景が面白くなったんです「あぁ、あんなに強がってた人達があんなに怯えてる」って」


「それから段々とエスカレートして行ったのか?」


まぁ、予想通りではあるな。痛い目見せてやろうぐらいで仕掛けたら思いの外、楽しかったんだろう。そりゃそうだ、慌てふためく様子みて面白くないわけない。


「はい」


苦々しげにそう呟く。どうやら、本気で反省しているようだ。まぁ、自分達がやった事の後始末を先輩がしたんじゃそうなるわな。

挙句、怪我人まで出てるって聞いてるわけだ。


「そしたら…なんか、少しづつ自信がついてきて。不自然に染まったこの桜色の髪の事も、自分達の事も」


「………」


「髪色のせいで、中学校の頃に苛められてたんです。結構酷いイジメで、その時の私達は何もせずにやられるがままでした。きっと、そんな当てつけもあったんだと思います。中学三年の春頃には私達は自分達を虐めてた子達に復讐をしました」


とゆうことは、不良共に仕掛け始めたのは最低でも中二の冬頃か、約一~二年ぐらいの期間やり続けてたのか、頑張るな。


「それからはずっとずっとやりたい放題やってました。私達は特別なんだって、誰にも怯えなくていいんだって」


きっとコイツらも追い詰められていたのだろう、そして自分達の中にある『力』に頼った。

依存して、どんどん心を蝕まれていったのだろう。そう考えると、俺は幸運な部類に入るのか? 依存できるほど大層な者じゃないし。


「なぁ、冬華」


「はい?」


「お前はその力を『能力』だと思えるか?」


俺の問いかけに冬華が首を力強く振る。


「俺も雨乃も死にかけてるんだよ」


「え?」


「病気が発症してからさ、雨乃はすぐに頭の中に入ってくる人の心に耐えきれずに頭パンクして倒れた。俺は痛みを感じない事をいい事に調子に乗ってたら全部一年後に帰ってきて死にかけた」


まぁ、俺のは自業自得だな。


「………」


「俺さ、能力ってのは自分が使いこなせるものの事だと思ってるんだ」


冬華が話したんだ、俺だって何かしら話さなきゃ不公平もいいところだ。


「だから、こんなに俺達を苦しめるモノは『能力』なんかじゃなくて『病気』だと思う。別にソレを使うなって言ってるわけじゃないんだよ、よく言うだろう? 「病気とは上手く付き合いましょう」って、だからさ冬華もこれだけは分かっといてくれ」


「はい、ありがとうございます先輩」


冬華はそう言って、涙を流しながら満面の笑みで笑った。

俺程度の言葉が何かしら響いてくれたんなら、これ程嬉しいことは無い。涙と笑顔はその証拠として、胸の中にしまっておこう。


「あぁ後、その桜髪」


「はい?」


「結構可愛いと思うぞ? 俺の茶髪なんかより」


「先輩の茶髪、私好きですよ?」


「おう、さんきゅ。よし! 涙拭いたら飯食おうか、今夜はカニ鍋だ」


「いいんですか? 私達も」


「鍋は人数多い方が楽しいしな、カニも材料もしこたま有るよ」


今の俺はキチンと先輩出来ているのだろうか? カッコつけるだけカッコつけてしまった、これ寝る前に悶え死ぬな。


階段を降りてリビングに行くと、泣きながら笑う夏華と夏華の頭を優しい表情で撫でる雨乃がいた。冬華と一緒に、その様子を扉越しに観察して、落ち着いた所で部屋に入る。


「ゆるゆりの所悪いが入っていい?」


「ばーか、良いわよ」


入室の許可が出たので、部屋の中に入る。すぐに夏華がこちらに走ってくるなり、俺に深々と頭を下げた。


「ありがとうございました、夕陽先輩!」


「ん? もう気にすんな」


そう言って頭を上げさせる。なんか、自分より歳下の女の子に頭下げさせるのって俺が悪いことしてる気になる。


「雨乃ー、飯」


「……まったく、夕陽は」


「カニ鍋だカニ鍋! 鍋は人も量も多いほうがいい」


「はいはい、分かったわよ」


苦笑しながら雨乃がエプロンをつける。


「あ、お前ら二人共親に連絡したか?」


「「あ、まだです」」


息ピッタリだな、さすが双子。うむ、双子は双子でもこちらの双子の方が可愛い。あのクソ姉共は滅ぶべし。


「んじゃ、早くしろよ? 親御さん心配するから。そんじゃ雨乃、俺風呂入ってくるから」


「一番風呂?」


「今日一番の功労者なんでソレぐらい許されてもバチは当たらないと夕陽さん思うんだけど?」


「冗談よ、そういうと思ってお風呂にお湯張ってあるわ」


「さっすが。んじゃ、お先に」


一度部屋に戻り、着替えと下着をとって風呂場に向かう。服を洗濯機の中にダンクシュートして浴室に入る。

パパッと頭や身体を入念に洗って、広く温かい湯船に浸かった。


「あぁぁ」


不思議と気の抜けた声が漏れる。暖かいお湯は直ぐに身体を包み込むと少しずつ体の芯にまで侵食してくる。

それにしても今日は疲れた、一日通してイベント目白押しだったよなぁ。それにしてもあの双子は犬みたいで可愛いな、特に冬華は餌あげたくなる。


ボーッと一日を振り返る、今日はカッコつけすぎたな、うん。ちょっと張り切りすぎた空回りしていないといいが。

次第に視界の隅が黒に占領されていく、入ってくる光の量も格段に薄くなり、気づけば意識は微睡みに包まれていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※

騒がしさに目が冴える。


「ん、少し寝ちまったか」


風呂場についている電子時計に目をやると、もう十五分も経っていた。風呂場の窓を開け夜風を浴びながら、そろそろ出るかと決心した瞬間、風呂場のドアが勢いよく空いた。


「不味い!」


腹の痣を見られたら折角復活してきた暁姉妹がまた落ち込む可能性がある。それだけじゃない、あの雨乃にまで心配を掛けてしまう! あれ? もしかしてめっちゃ優しくなるんじゃね!? くっそ! 馬鹿なこと考えてる時間は無い!



立ち上がり風呂から上がろうとしていた身体を湯船の中に再び沈めると、ガラス越しに何やら叫ぶ声が聞こえる。


「おーい、何やってんだ!?」


疑問を投げかかけた次の瞬間、Tシャツ姿で恐らくは下を履いてないであろう……履いてないと信じたい! 暁姉妹が風呂場に侵入してくる。


「は!? 何してんの!? いや、ちょっと待って!?」


「「夕陽先輩! お背中流します!」」


え、まじで!? 良いの? なにこれ、神様って実は超優しかったりする?


「させる訳無いでしょ!?」


次の瞬間、雨乃まで風呂場に突入してくるという考えうる最悪…いや、やはり最悪か。

つか、まじで何があった!?


「ちょ、何してんのお前ら!?」


そして、現在に至る。


※※※※※※※※※※※※※※


「先輩! 私達はお世話になった先輩に恩を返そうとですね!?」


と、随分必死な冬華。


「とゆう訳で浴槽から上がってください」


明らかに好奇心でニヤニヤと笑う夏華。


「お前ら今日は本気で不味いから出てけ!」


腹さえ真っ黒じゃなかったらもしかしたら背中を流してもらった可能性はあるな。だが、今は不味い。


「夏華! 冬華! いいから出るわよ! その性獣が何しでかすか分かったもんじゃない!」


なんでこの状況で責められてんの? おかしくない? 俺悪くないよね? 雨乃さん、聞いてます!? 僕悪くないよね!?



その後、抵抗虚しく暁姉妹は雨乃に引きずられて出て行った。とゆうか、Tシャツの下から見える太股が素晴らしかったと思う、なんやかんや言いつつ幸運だな俺。


「まぁたまには御褒美があってと罰は当たらんよなぁ」


いつもより騒がしい一日に区切りをつけるようにそう呟いて、カニ鍋を食すべく、浴槽から上がった。

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