ヘヴィー巫女ちゃん
「イナリさん。どうやったら、店って開けるの?」
と、巫女ちゃんに聞いてみた。
「うむ。カレー屋を開くのじゃ?」
先日の光景を思い浮かべているのか、巫女ちゃんは宙をみながらそう聞いてきた。
「いやいや、売るのはカレーだけじゃなくて、異界からいろんなもの持ってきて売りたいんだ」
さすがに、カレー屋やるつもりはない。
「ふぬ。にしても、お主のー。わしは巫女であって、それ以上でもそれ以下でもないぞ。なんでもは知らないのじゃ」
巫女ちゃんはそう言い、ため息をついた。やれやれというように、両けもみみが左右交互にピコ、ピコしている。
「でも、前に市場での露店の出し方的なものを教えてくれたような・・・・・・」
「あれは、たまたま知ってただけじゃ。年の功なのじゃ」
じゃあ、市場の露店でない店の出し方も年の功で知っておいてよと思うが口には出さない。
ギロヌが怖いのである。
「店の出し方をわしは知らんが、知ってそうな組織ならあるぞい」
にやっと得意満面なえみを浮かべて、巫女ちゃんは言った。
なんだ、どこかのコメンテーター的なものいいだな。私は知りませんが、知っている人を知っています的な。
「そうなの? なんていう組織」
「ふっふ、ふっふ、なのじゃ。ふっふ、ふっふ、なのじゃ」
なにやら、よく分からない笑いごえを発している。
「どうしたの? イナリさん」
「これが、笑わずにいられようか。今後、わしは商家つきの巫女になるのじゃ。そして、朝・昼・晩にイナリズシなのじゃー」
うん? 何か、とてつもなくおそろしくヘヴィーな言葉が聞こえたが、果たして・・・・・・。
「イナリさん。なに、その商家つきの巫女って。それに、稲荷寿司を毎日持ってくるという約束はしたけど、朝・昼・晩とは聞いてないよ」
「何をいうておる。一宿一般の恩で毎日イナリズシをじゃ。加えてじゃ、市場に行く前に金を渡したのじゃ。それで、朝・昼・晩じゃ」
おや、何やら正論っぽく聞こえるが、そうなのか? いや、そんな約束はしていない。ただ、借りただけだ。
「いや、確かに借りたけどそんな約束はしてないよ」
「何をいっておるのじゃ。お主にわしは細かいこと言わずに貸したのじゃ。なら、細かいこと言わずに朝・昼・晩にイナリズシを持ってくるのじゃ」
「うっ・・・・・・。それじゃ、商家つきの巫女って何?」
よく、分からない単語だ。巫女は神社にいるから、巫女なのではないのか? そうじゃないの? いや、そうであってほしい。
「ふむ。商家つきの巫女とはその名の通り、商家にやとわれて商売祈願をする巫女なのじゃ。商売の神をまつって、その商家のためだけに祈るのじゃ」
「えー。聞いたことないよ」
「そっちにはないのかの? そういうの。でも、安心なのじゃ。こっちにはあるのじゃ」
全然、安心できない。このままでは巫女ちゃんの面倒を死ぬまで見なくてはいけないのか? いや、下手したら俺が死んだあとも巫女ちゃんの寿命がつきるまで、代々と見なくてはならない。
「ちょっと待ってよ。そういうの、こっちにはあるとして、なんで、決定事項なの?」
「これは、WIN-WINなのじゃ。お主もWIN。わしもWIN。だから、なのじゃ」
「いや、よくわからないけど」
「仕方ないの。じゃあ、聞くがの。お主は、この町に市民権はもっておるのか?」
おや?
「持ってないけど、なんか関係あるの?」
「おおありじゃ。店を出すには条件があっての、それが市民権なのじゃ」
おや、おや?
「ちょっと、待ってよ、店の出し方しらないんじゃ?」
「何を言っておるんじゃ。店の出し方”全部”は知らないのじゃ。でも、店を出すのに市民権が必要なことは知っているぞ。年の功なのじゃ」
「じゃあ、俺出せないね」
「そこで、わしの登場なのじゃ。店を出すには市民権が必要じゃが、何事にも例外はあるのじゃ。この町にある神社の巫女を商家つきの巫女にすればいいのじゃ。これで、店が出せるのじゃ」
本当かよ。店だすのに市民権が必要なのはいいとして、ない場合の例外事項が、巫女を雇えだ―。怪しいにもほどがある。
「えー。本当? 話、作ってない? 俺が落人だからって」
「作ってないのじゃー。役所にいってもそういわれるのじゃー」
巫女ちゃんは心外だと言わんばかりにじゃーじゃー言っている。
「だとして、イナリさんもWINなの?」
「そうじゃ、WINなのじゃ。イナリズシに加えて、異界の珍しいもの見放題なのじゃー。異界のほしいもの頼み放題なのじゃー」
「仕方ないのか? そうなのか? だとしても・・・・・・。うーん」
一生のことだ。いや、子々孫々、イナリさんの寿命がつきるまでのことだ。なかなか、俺が決めれないでいると、巫女ちゃんが大きく吸い込んで言った。
「決定なのじゃー」
・・・・・・・・・。
決定だそうです。
「で、結局、その店を出す方法を知ってそうな組織ってなに?」
「おお、そうじゃった。そうじゃった。お主が、何? 何? と聞いてくるからじゃぞ!」
巫女ちゃんはまったくもーという雰囲気をだし、言った。それから、少しためてから。
「・・・・・・、聞いて驚くのじゃー。その名も商業ギルドなのじゃー」
と、言った。巫女ちゃんは、ワッハ、ワッハ、わっはっはーと、高笑いしている。
ふむ、聞いて驚くほどの名前ではないが、商業ギルドか・・・・・・。
「分かった、いってみるよ」
俺は、商業ギルドに向かうことにした。巫女ちゃんの人生を背負う覚悟が決められないままに・・・・・・。
どうすんのー。どんすんのよー。
巫女ちゃんを代々面倒みることになってしまいましたー。