商売はじめ
市場は熱気に満ちていた。
あちこちに露店が立ち並んでおり、商売に励む商人の声が市場を包んでいた。
天気は良好。いい商売日和だ。
よ~~~し。塩・砂糖・コショウ。売って売って売りまくってやる。うはうはだー。
さて、まずは、ショバ代を払って場所を確保するか。朝、神社を出るときに巫女ちゃんから準備費をもらっている。彼女から、恩をうけるのは怖いが仕方なかろう。こっちの金なんて持ってないんだから。
キョロキョロと市場の関係者を探す。
キョロキョロ、キョロキョロ。
キョロキョロ、キョロキョロ。
「おい、兄さん。店を出したいんだろ?」
近くにいたガタイの大きい男に話しかけられる。本当にでかい。身長は、2mを超えていそうだ。だが、いくらガタイがでかくてもしっぽとけもみみがあるから、どこか、威圧感というよりは、いあつかんだよーという感じに見えてしまう。
「そうですよ」
「そうだろう、そうだろう。で、大きさはどれくらいだ? 小・中・大・その他とあるが」
「小でいいです。そんなに量があるわけではないので」
「そうか、なら、1大銀貨だな」
そう言うと、けもみみおっさんは近くの建物に入っていき、シートのようなものと木札を持って戻ってきた。おそらく、あの建物が市場関係者関連施設なのだろう。
「ほらよ。1大銀貨と交換だ」
俺は、1大銀貨をけもみみおっさんに支払い、シートと木札を受け取った。
「これは?」
「こっちは、地面に敷くシートだ。その面積がお前に貸し出す面積になる。それから、こっちの木札が許可書代わりになる。分かったな。それじゃあ、ついてこい」
おっさんは、ずんずん歩いていく。俺は、しずしずとついていく。
ずんずん、ずんずん。しずしず。
ずんずん、ずんずん。しずしずしず。
ずんずん、しずしず、ずんずん、しずしず。
・・・・・・。
「ついたぞ。ここにシートを敷いて、商売をしてくれ。それじゃあな、兄さん」
けもみみおっさんはそういうとささっと来た道を戻っていった。ふむ。このけもみみおっさんもなかなかのせっかちものだな。
よ~~~し。場所は確保できたぞ。次は、開店準備だ。商品の売値の調査に道具類をそろえるぞ。
まず、商品の売値?卸値?だ。これは、しっかり調べるように巫女ちゃんから、ガミガミ、ガミガミリンと命令を受けた。市場を混乱させてはいけないらしい。あと、目立つなということらしい。
てくてく、うんうんと調査することにした。
てくてく、うんうん。
てくてく、うんうん。
ぴかーん。なるほど、どうやら、塩と砂糖は、グラムあたり2銀貨と5銅貨で売っているらしい。巫女ちゃんが買値は5銀貨だといっていたから、売値? 卸値? はその半分くらいということか。
てくてく、うんうん。
ぴかーん。コショウは、グラムあたり5銀貨で売っているらしい。どうやらこっちも、買値の半分のようだ。
ふんふん。
次に、道具をそろえるぞ。俺は、袋売り・容器売りするつもりだったけど、ガミガミ、ガミガミリンと巫女ちゃんから言われてしまった。「そんな袋に容器なんかないのじゃ。市場は、混乱するのじゃ、大パニックじゃ。目をつけられるのじゃ」と。
というわけで、塩・砂糖・コショウを麻かなんかの袋に入れて、売ることにした。で、袋売りしないということで、計量器具が必要になったのでそれもそろえることにした。
袋を探す
フクロ―、フクロ―。どこかな。
あった。麻袋を3つ買う。じゃりん。代金を支払い、麻袋を受け取る。
計量器具を探す。
ケイリョーキグ、ケイリョーキグ。どこかな。
あった。計量器具を買う。天秤で図るようだ。じゃりん。代金を支払い、天秤を受け取る。
開店準備終了だー。うるぞー、うるぞー。
◇
「へい、らっしゃーい。へい、らっしゃーい」
俺は、客の呼び込みをする。
でも、なかなかお客さんは来ない。
来ない。お客さんは来ない。
来ない、来ない、来ない。
しばらく待っていると、一人の男性が俺の店に近づいてくる。そして、立ち止まってこう聞いた。
「おや、何を売っているのかな?」
「塩に砂糖にコショウです」
「ほう。少し見せてもらえるかな?」
「はい。どうぞ」
そう言って、麻袋の口を開いて彼が中身を見れるようにした。
「!? いくらかな?」
その男性は、少し驚いたような顔をして問いかけてくる。でも、すぐに平静に戻る。
何かあるのだろうか? 珍しくはないはずだよな・・・・・・。さっき、売値を調査したときには、塩・砂糖・コショウを売っている露店は他にもあったし。まあ、いいか。
「塩と砂糖がグラムで2銀貨と5銅貨になります。それから、コショウがグラム当たり5銀貨です」
「買いだ。それぞれ、1kgづつもらおう」
「まいどあり」
天秤でそれぞれ量を測り、男性が差し出してきた袋に商品を入れていく。
片方に重りをのっける。もう片方に塩をのっける。調整する。ふむ。塩を袋に入れる。
片方に重りをのっける。もう片方に砂糖をのっける。調整する。ふむ。砂糖を袋に入れる。
片方に重りをのっける。もう片方にコショウをのっける。調整する。ふむ。コショウを袋に入れる。
俺が、商品を男性に手渡すと、すぐに彼は立ち去って行った。
ふむ。残りは、塩・砂糖9kgとコショウ1kgか。なかなかいいスタートを切れたようだ。
待つのも商売。待つ。待つ。待つったら待つ。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
数時間待っていたら何人かお客さんが来てくれて、コショウは完売。塩と砂糖も残すところ5kgずつになっている。商品を見たお客さんはなぜが皆おどろいなような表情をするが・・・・・・、まあいいか。
うは、うは。金銭袋がうなっている。どらくらい、儲けたかを計算してみる。塩・コショウが5kgずつとコショウが2kg売れた。
となると、う~~~ん。ぴこーん。
3プラチナ貨と5大金貨ぶんに稼ぎになっているはずだ。つまり、日本円に直すと、3500万円也。
ぎゅあーーーーーー・・・・・・。
「すいません。いいですか?」
「はい?」
分かっていたこととはいえ、あまりの稼ぎに俺がフリーズしていると誰かが話しかけてので、そっちを見る。
すると、そこにはなんと、超絶なイケメンが立っていた。形容するなら、何もかもを飲み込んでしまうようなイケメン。何もかもを焼き尽くしてしまいそうなイケメンだ。大きなカバンを横掛けしている。このイケメンもこの場にいるということは、商人なのだろう。
おや? しかも、このとんがった耳は・・・・・・。まさか、エルフか。エルフ故にイケメンなのか、イケメン故にエルフなのか。だめだ。あまりにも、イケメン過ぎて思考がパンクしている。
「あの~、大丈夫でしょうか?」
「・・・・・・、あぁ。はい。大丈夫です。何か御用でしょうか?」
あまりの出来事にまたフリーズしてしまった。変な人間に思われていないだろうか?
「ええ。ええ。塩と砂糖があまりにも見事なものでね。それでいて、普通の塩と砂糖と同じ相場でさきほどから売っておられる。不思議だなーと思いましてね」
「見事って、どういうことですか? 普通の塩と砂糖を売っているつもりなのですが?」
ふむ? と思い、俺は、イケメンエルフに尋ねる。
「おや? おわかりでなかったのですか。てっきり、何か意図がありやっているものと思っていましたが・・・・・・。そうですね。では、お教えしましょうか。その塩と砂糖は実にきれいで細やかなのですよ」
「きれい? 細やか?」
「そうです。普通は、もっと黒っぽかったり灰色っぽかったりするものですし、もっと粒度が荒かったりします。それに比べて、あなたの商品は、真っ白で粒度が細かい。すると、希少価値はもう少し上がることになります」
「いかほど?」
「だいたい、2倍くらいの価値になるのではないでしょうか。 一般の方に売るときがグラム当たり大銀貨1まいぐらいになりますから、卸値は銀貨5枚ほどでしょうか」
で~~~ん。どうやら、かなり損をしてしまったようだ。でも、スーパーでの仕入れ値に比べると大儲けだ。気にしないとはいわないが、まあ、いいか。
それより。
「なぜ、あなたはわざわざそんなことを教えてくれるのですか? そんなこと言わずにさっさと買って、どこかで売れば大儲けのはずなのに」
疑問すぎる。ただのいい人なわけではないだろうし。そう思い、イケメンエルフに尋ねた。
「それは、ですね。そうした方が私にとって利益になると判断したからですよ。商人というのは金銭的利益を最大にしようと行動します。私も例外ではありません。では、あなたに教えたのはなぜか? それは、ここで商品を買って儲けるよりも、あなたと縁を結んでおく方が私にとって、利益になると考えたからです。このような商品を仕入れることのできるあなたと知り合いになっておいた方が、長い目でみて利益を得られると判断したのですよ」
イケメンエルフはそういってウィンクしてきた。やはり、ただのいい人ではなかったようだが・・・・・・。
「それより、この残りの商品を全部ほしいのですが、売ってくれるのでしょう? もちろん、適正価格で買いますよ」
「分かりました。商談成立です」
右も左もよくわからない世界。こういった人物と縁を結んでおくのもいいだろう。なんだか、巫女ちゃんだけだと不安だし。
イケメンエルフとの商談が終わった後、シートと木札を返して、神社に帰宅することにした。
初めての商売。うまくいかないこともあったけど、いい人物?に会えた。
それに、じゃらんじゃらんと袋の中でうなっている硬貨。
うはうは。ヤッホーーー。
まだまだ、異世界での生活は始まったばかり。明日からも、楽しみだなー。