表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

便利な能力

 「目が覚めた知らない天井だ」

 いちおう、ファンタジーのお約束をかましてみる。


 目が覚めたので巫女ちゃんでも探してみるか。

 俺は部屋を出て、宿泊施設内をキョロキョロとどれどれと歩き回る。

 キョロキョロ、どれどれ。

 すると、すぐにちょっと広い部屋にでた。


 「こっちじゃ。こっち」

 その部屋には巫女ちゃんがいる。今日も今日とて、白衣に緋袴の巫女スタイルだ。両方のけもみみをピコピコ動かしながら、こっちこっちと手招きしている。

 巫女ちゃんがいるテーブルには食事が並んでいる。どうやら、これから朝食のようだ。

 彼女のいるテーブルに近づいて、反対側の席に俺は座る。


 「巫女ちゃん、おはよう。早いね」

 「むう、その巫女ちゃんというのはなんじゃ」

 巫女ちゃんはどうやら”巫女ちゃん”と呼ばれるのはお気に召さないようだ。プクーとほっぺたを膨らませて、抗議してくる。

 「だって、巫女ちゃんは巫女なんでしょ。だから、巫女ちゃんって呼んでいるんだけど」

 「いや、わしはちゃんなんて呼ばれる年ではないぞい」

 フンスーと巫女ちゃんは鼻から息を吐きだして言う。

 「え・・・・・・。18歳くらいじゃないの?」

 「えーい、何を言うか。これだから、落人は・・・・・・。いいか、この世界の人種はお前らのようなヒューマンだけではないぞ。ヒューマン・ミニヒューマン・エルフ・ドワーフやワシ等のような獣人がいるんじゃ」 

 巫女ちゃんは、フンスー、フンスーとどうやら興奮している様子だ。

 

 ここは、とりあえず、あやまっておだてておいた方がよいか?

 「いやいや、ごめん、ごめん。あまりにも、若く見えたものだから。で、何歳なの?」

 「謝っておいて、年を聞くとはの。まあ、少なくともお主よりは年上じゃの」

 「え、そうなの?」

 「そうじゃ。我らの種族は長生きで数百年はいきるからの」

 やれやれといった感じで巫女ちゃんは、ため息をつく。

 「すいません・・・・・・というか、ははーというか、申し訳ありません」

 「はぁ、まあ、いいわい。それと、言葉使いは今まで通りでいいぞい」


 「で、巫女ちゃん」

 「巫女ちゃんというなというに。わしの名前は、イナリ=フォックスじゃ」

 巫女ちゃんは薄い胸を張り、名乗りをあげた。

 「イナリ=フォックス?」

 ぷくく。イナリ=フォックスだと? 笑ってはだめだ。きっと、これがこちらの標準なのだろう。さすが、ファンタジックな世界。

 

 「そういうお主の名前はなんというんじゃ?」

 「うーん。俺の名前は、グラマ=プロだよ」

 日本語的名前はこの世界だと不便そうなので適当に名乗ってみる。

 「グラマ=プロ? ふむ。あちらの名前としては変な感じじゃの」

 そう言って、巫女ちゃんは首を傾ける。右耳がピコリとお辞儀をしている。

 「ああ、まあ、俺の村、特有の名前だよ」

 この世界に名前を合わせたつもりだが、どうやら杞憂だったようだ。逆に、変な感じになっている。そういえば、たまに落人が来るといっていたしな。

 でも、そうだとすると、外人的なものはやってこないのだろうか?

 「ほー」

 どうやら、巫女ちゃんは納得してくれたようだ。


 そんな話をしながら、食事をする。朝食は、黒っぽいパンとスープのようだ。黒パンは硬くて食べにくく、スープは薄味で食べにくかった。あまり、期待をしていなかったけど、この食事にはなかなかなれそうにない。

 モグモグ、モグモグ。ズーズー、ズーズ。

 ・・・・・・・・・。

 そんな感じで食事を食べ終わる。巫女ちゃんの方を見る。どうやら、彼女も食べ終わったところのようだ。

 

 「そうじゃ。お主のやる雑事じゃが、今日は、掃き掃除・拭き掃除・お供えをお願いするかの」

 「掃き掃除に拭き掃除はわかるんだけど、お供え?」

 お供えって食べ物を神様に献上することだよな。そんなこと俺がやってもいいのか。

 「そうじゃ、お供えじゃ。このパンをお供えするのじゃ」

 巫女ちゃんはそう言うと、パンを1つ俺の前に置いた。まあ、ここの責任者である彼女がいいというんだからいんだろう。

 「お供えは昼頃に本殿に持って行って献上するんじゃ。本殿に行けば、昨日のお供えが置いてあるところがあるから、そこにあるパンと今日渡したパンを交換するのじゃ。今日、わしは外に用事があるから、頼んだぞ」

 「分かったよ。頼まれたよ」

 「掃除類は、宿泊施設横の用具入れにあるからの。勝手に使うのじゃ」

 巫女ちゃんは、言い終わると同時に席を立ち、バタバタとどこかに出かけて行った。まったく、本当にせっかちな巫女ちゃんである。


 さて、まずは神社敷地内の掃き掃除から始めるか。宿泊施設横の用具入れからほうきとちりとりを出し、せっせ、せっせと掃いていく。

 せっせ、せっせと掃いていく。なかなか大変だ。なかなかに広い敷地に加えて、木がいっぱい生えているから、落ち葉が多い。

 ようやく、掃き掃除が終わったかというころ、すでに世間は昼時を迎えていた。


 もう昼か。お供えをしなくては。

 俺は、お供えをするために本殿に向かった。本殿の中に入ると、パンをお供えしている台が中央付近に設置してあった。その台に近づきパンを交換する。

 2礼・・・・・・、2拍・・・・・・、目を閉じる・・・・・・・、1礼・・・・・・。

 

 目を開ける。

 ・・・・・・・・・、あれ?

 このジャングルのようにそびえたつビル群。そして、鼻をつくように香る排気ガスのにおいは・・・・・・。

 どうやら、帰ってきたようだ。


 ◇

 日本に帰ってきてからというもの、何回か、日本と異世界を行き来した。どうやら、特殊能力を身に着けたようである。

 分かっているのは、お供えをして2礼・2拍・目閉じる・1礼すると、目を開けた時に転移すること。それから、日本のそれぞれの神社は異世界のそれぞれの神社につながっているらしい、ということ。

 2つ目のことは、日本→異世界、異世界→日本で、行のときの神社と帰ったときの神社が違っていたので、そう推測している。

 で、巫女ちゃんの神社からは東京の神社につながってはいたんだけど、家から遠かったので、会社近くの神社を使って行き来することにする。

 

 ふはは、これで日本と異世界を行ったり来たりできる。でも、もう腹は決まっている。日本ではなく、異世界で基本的に生きていくことにする。

 なぜかって?

 ひとつに、こちらに仕事はもうない。

 ひとつに、両親は悠々自適の楽隠居だし、兄貴もいる。

 ひとつに、こちらに恋人はいない。

 これだけ、理由があれば十分だ。

 

 そうときまったら、何をしようとか? 賃貸を解消か? いや、こっちの拠点も必要になるかもしれないから、一応置いておくか。

 うーん。そうだ、スーパーに行って何かを買い込んで、あっちで商売でもするか。そうしよう。

 思い立ったら、スーパーへ。

 

 何を買おうか?

 そうだ、調味料を主に買っていこう。あっちで食事をしたけど、スープが薄味だった。 

 砂糖に、塩に、コショウに、これを20ずつ買うか。いや、砂糖に塩はこんなに持てない。砂糖に塩は10ずつ、コショウは20個。これでいこう。

 それから、カレー粉、これは受けるか分からんが、一応買っておくか。

 腹減ったらか最後に稲荷ずしでも買っておくか。自分用、巫女ちゃん用、お供え用。

 カートにずっしりと商品を載せて、レジに行き、金を払う。

 重たいビニール袋を2つ両手に抱えて、スーパーを出る。


 さーて、行くぞ。重たい荷物を両手にぶら下げて意気揚々と会社近くの神社にやってくる。

 稲荷ずしを1つお供えする。ビニール袋を両手首にかけて――。

 2礼・・・・・・。

 2拍・・・・・・。

 目を閉じて・・・・・・。

 1礼・・・・・・。


 目を開けると、そこは異世界だ。


 いろいろ、買い込んできたし、これから、忙しくなるぞ。

 俺は、るんるんとスキップをしながら、巫女ちゃんの神社に向かう。

 商売を始める方法を巫女ちゃんに聞いて、この世界で生きていくための基盤を作ろう。

 あっちからものを買ってきて、この世界で売って。それから、巫女ちゃんに一宿一般の恩を返して。

 よ~~~し。頑張るぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ