妖精さん拾ったよ パート1
カーカー、カーカー。
どうやら、今日も一日を無事に終えたようだ。
カラースが閉店の時間を告げている。
「はー、今日もつかれたスラねー、ご主人様」
メタ子がたゆうんと駆け寄ってきて、俺の方を見上げながら言った。
俺の身長はフツ―だけど、メタ子がちっこいのでそういう形になる。
メイド服からのぞくたゆゆんとした部分から俺は目をそらして、
「そうだなー。でも、メタ子のおかげで助かってるよ」
メタ子をねぎらっておく。
基本的にメタ子は俺のあまーい味方だけど、ペットにはよしよししないと。
けっして、玩具ではない。ペットだ。
そこをはき違えてはいけない。
でも、メタ子はジトっとした目をして、
「なんだか、いつものご主人様とは違うスラ。きもち悪いスラー」
なんてことを言いやがった。
くそー。
「缶詰の支給数を減らすぞ!」
「!? そんなのずるいスラー」
「ずるくないよー」
若干、メタ子のものいいに怒りんこしたのでからかってやった。
すると、
「あれがないと、はーはー、あれが、ないと、はー。もう、メタ子はメタ子は、じゅわじゅわ、はーはー」
おや、メタ子の様子がおかしいぞ。
じゅわじゅわ、しゅわしゅわ、じゅわじゅわ、しゅわしゅわ。
やばい、さじ加減を間違えたようだ。
「うそうそ、うそに決まってるだろ」
「・・・・・・・、スラ~~~~~~~。びっくりすること言わないでスラー」
・・・・・・、火の取り扱いには注意しましょう。
てんてん。
そんな感じでメタ子とじゃれあっていると、ドアが開く音がした。
巫女ちゃんがやってきたようだ。
あっちも終わりかなーと思って様子を見ると、何かを両手ですくうようにしている。
その両手の平からは光がピカピカと輝き、ぴょこーんと羽が見える。
巫女ちゃーん、それ何。それ何なの?
はてなー、と俺が眺めていると、巫女ちゃんが俺の前までやって来た。
「どうしたの? イナリさん。それ何?」
俺は、巫女ちゃんに尋ねた。
「妖精じゃー」
◇
「妖精?」
と、俺は聞き返した。妖精だと―。
「そう、妖精じゃー」
彼女は、そうじゃーと言う。
妖精って? あの妖精さんかー。
ちっこくて、ぱたぱたとお空を飛んで、人にいたずらをするというあの。
う~~~んと俺は考え込む。
巫女ちゃんは、両手の平を俺の目の高さまで上げてきた。
で、ほいっとするので俺は彼女の手のひらを覗き込んだ。
・・・・・・、巫女ちゃんの手のひらの上には妖精がちょこんと横たわっていた。
「お~~~~~~~~~~~~~~~~~」
俺は、おどろきの雄たけびを上げる。
体長は両手のひらに乗っかるほど小さい。
それから、ぴかぴかと発光していて、羽が背中から生えている。
服は、ん~~~? ちっさい布に穴をあけてそっから頭を出している感じ。で、腰にはひもが巻き付けてある。
かわいいから、女の子だろう。
「この子、どうしたの? イナリさん」
「むー。わしが社で祈りをささげていたら、突然、空から落ちてきたのじゃー」
「墜落って・・・・・・、それやばそうなんだけど、けがとかしてない?」
「大丈夫なのじゃー。地に衝突する寸前でわしがキャッチしたのじゃ」
おー。妖精が空から落ちてくるなんて、なんてファンタジックなんだ。
・・・・・・、いやいや。まず、この妖精を安静にしてやらないと。
俺は、キョロキョロと店内を見回し始める。
キョロキョロ、何かないか。キョロキョロ、何かないか。
そうだー。
がさごそ、がさごそ。ゲットー。
がさぞそ、がさごそ。ゲットー。
俺は、店内からちっこい段ボールとティッシュペーパーをゲットした。
「何をするスラ―。ご主人様」
急にキョロキョロし始めて、段ボールとティッシュペーパーを持ってきた俺にメタ子が、なになにーとしてくる。
「まあ、見てろって」
そんなメタ子に軽く答えて、俺は作業を開始した。
まずは、カウンターの上に段ボールを置く。それー。
次に、ティッシュをどんどん箱からだすよー。やー。
最後に、出したティッシュを段ボールに知れるよー。とー。
さー、完成だよー。
「あーっという間に、ベッドの完成だー」
「お~~~、スラー」
「お~~~、じゃー」
その簡易ベッドに巫女ちゃんはそっと妖精を置いた。
普段から想像できないしんちょうさだ。
「イナリさん。さっき、落っこちてきたって言ってたけど、妖精ってそんなもんなの?」
鳥みたいな感じで俺はそんなものなかのかーと巫女ちゃんに問いかける。まあ、ファンタジーだし。
「ふ~~~む。そんなもんじゃないはずじゃけど」
「なんだか、はぎれが悪いようだけど?」
「妖精は普段、一目につかないようにひっそりと暮らしているから、よく分からないんじゃー」
「へー」
よく分からない妖精がなぜか店の横に落ちてきた。
これは偶然だろーか?
ぐるぐる、ぐるぐると俺は考える。
ぐるぐる、ぐるぐる。
ピコーン。
そうだ、起きるまで待とう。
てんてん。
よ~~~し、妖精さん起きないかなー。
◇
通常閉店していた異世界屋プログラマ。
いつものように開店し、いつものように閉店した。
でも、通常ではないものが降ってきた。
それは、ファンタジックな妖精さんだった。