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花火 君に決めた

 ある日の昼頃。


 「あー、ひまじゃー。ひまじゃー」

 お昼休みに近所の食堂で昼食を食べていると、いきなり、巫女ちゃんがそんなことを口にした。

 おや、なんだか、不穏な言葉が出てきたな。

 このまま、実力行使かー。

 やだなー。


 スルーする。

 華麗にスルーするぞ。


 俺は、巫女ちゃんのひまじゃー宣言を軽く聞き流して、もぎゅもぎゅと食事を口に運ぶ。

 もぎゅ、もぎゅ、聞いてませんよー。

 

 でも、そんな俺の心情を知ってか知らずか巫女ちゃんは続ける。

 「ひまじゃのー。せっかく、玩具を拾ったのに、なんとかならんかのー。おもしろいことないかのー」

 そんなことを言いながら、巫女ちゃんはにっこりと笑ったけど、お目目はギロヌとこっちを見ている。

 なんか、器用だな。俺は、そんなことできないけどなーとか、現実逃避してみる。


 「今日は、天気がいいねー、イナリさん。午後からどっかいってきたら」

 俺は、華麗に巫女ちゃんに提案してみる。

 

 すると、

 「あほなのじゃー。あほなのじゃー。わしは何か玩具にしてもらいたいと言っておるのじゃー。わしはもう出ていくのじゃー」

 と、じゃじゃをこね始めた。

 やばい、華麗にスルーをしたはずだけど、見事に火に油をそそいでしまったようだ。

 なぜか。なにが悪かったのかなー。分からない。


 うーん、うーん、と俺がうなっていると、同じ席でじゅわじゅわ缶かんを食べていたメタ子が巫女ちゃんに物申す。

 「イナリさん。ご主人様に無理をいっちゃダメスラー。お仕事忙しいスラー」

 ・・・・・・、これは、いままでにない展開。下手をしたら場はますます混乱する。

 俺は、うーん、うーんがうー、うーという感じになってくる。


 フンスー、フンスーとなんか聞こえてくる。

 おや、と俺が巫女ちゃんを見るとお顔を真っ赤にしている。

 けもみみとけもしっぽの毛が逆立っており、ひじょうに鼻息荒く興奮しておられるご様子。

 おやおやー、ふんかかー、ふんかかー。

 しくしく。


 「まったく、イナリさんはこんな無理ばかりご主人様にこれまで言ってきていたスラー。どうしようもないスラ」

 メタ子―。何言ってるんだ―。メタ子―。


 どっかーん。巫女ちゃん、どっかーん。

 「うるさいのじゃー。うるさいのじゃー。新入りに何がわかるのじゃー。拾い拾われた仲なのじゃー」

 「拾い拾われた仲って何スラー。いつまでも恩着せがましいスラー」

 ・・・・・・。


 「・・・・・・・・・・・・!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・(# ゜Д゜)」

 なんだか、2人がののしりあいを始めてしまった。

 他のお客さんたちはなんだー、なんだーとこっちを見ているし、店員さんは迷惑そう。

 状況は混沌としてきた。


 ふむ。これが噂に聞くところの男をめぐっての女同士の戦いというやつかー。

 いやー、なんていうかいいもんですなー。いままで生きてきて初めてだよー、こんなことは。実に気分爽快。

 ・・・・・・・。

 

 とは、ならない。

 胃がいたいよー。胃がいたいよー。

 誰だよ、ハーレムは素晴らしいなんていったの。

 ぜったい、こうなるじゃん。せったい、こうなるじゃん。


 なんだか状況が混沌としてきたし、この戦いに終止符を打つ経験値を俺は持ち合わせていないけど、これ以上、店に迷惑をかけるわけにはいかない。

 ここは一世一代の解答を出すしかない。

 果たして、この難解な連立方程式に解が存在するのかと思ったが、俺は、いつものようにグルグル考え始めた。

  

 グルグル、グルーん。

 グルグル、グルーん。

 ピコーン。そうだ。

 

 「まあまあ、まあまあ。二人ともちょっと落ち着いて」

 と、俺は伝家の宝刀「まあまあ」を繰り出す。

 俺にはこれしかできない。

 

 「まあまあ、イナリさん、なんか考えておくよ。メタ子もどうどう」

 伝家の宝刀「まあまあ」攻撃で、巫女ちゃんとメタ子をまあまあとする。

 

 よし、これでなんとかなるはずだ。

 なんとか、ならないはずがない。


 しかし、

 「どっちの味方なのじゃー」

 「どっちの味方スラー」

 ・・・・・・、どうやら、混沌は解決しなかったようだ。

 

 こんなところはファンタジーじゃないのかよー。 


 ◇

 それからというもの、二人の関係はなかなか回復せず、数日が立った。

 俺は、どうしようかなーと思いながらもまったく解決方法を見つけられないでいた。

 まったりしたいなー。はー。 


 で、そんな中、俺はいつものように日本に仕入れに来ていた。

 ガランゴロン、ガランゴロン。今日も、リアカーを引きずっています。


 そんな時、聞き覚えのある声と語尾で話しかけられた。

 「お兄さん、ひさしぶりアルねー」

 「あ、ひさしぶりー」

 アルっ子だ。


 「なんだか、元気ないアル。どうしたアル? 店、つぶれたアル?」

 「いや、ちがうよ。そんなことでなくて、・・・・・・」


 「それじゃあ、どうしたアル」

 「それがねー。・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺は、アルっ子に相談した。

 ここであったも何かの縁。アルっ子も女の子だしなんかいい方法ないなかー。


 「アル―。難しいアル―。何が、まあまああるか、そんなことで解決できたら世の中万事OKアル」

 「あ、やっぱり」

 やっぱり、そうかー。アルっ子にも分からないかー。

 

 「でも、やっぱり女の子はきれいなものが好きアルよー」

 ほう、きれいなものか。


 「きれいなものって?」

 きれいなもの~~~?

 そんなもの俺にはわからない。

 特に、女の子がきれいなものは何かよくわからない。


 「そんなもの自分で探すアル。バイバイねーアル。また、なんか持ってきてねーアル」

 そう言って、アルっ子はそそくさと立ち去って行った。


 う~~~ん。きれいなものって言われてもなー。

 困るなー。

 きれいなもの、きれいなものと、俺は考え始めた。


 グルグル、グルリン。

 グルグル、グルリン。

 ピコーン。


 そうだ、ちょうど今の季節にきれいなものってあるじゃないか。しかも、異世界にはない。

 そう思い、俺は、リアカーを引っ張りながらスーパーへ向かった。


 そして、いつものように品切れ品などを仕入れて、きれいなきれいなあるものも購入した。


 よ~~~し、頑張るぞー。

 と俺は、異世界に戻ることにした。


 ミーンミーンとセミが鳴いていた。


 ◇

 店にもどり、いろいろしていたらあたりはすっかり暗くなっていた。

 今は、共同ルームでみんな一緒にごはんを食べているけど、やっぱり、どよーんとしている。


 よ~~~し、頑張るぞー。

 「イナリさん。今日は、暇つぶしに付き合ってよ。メタ子もね」

 と、いやいや言っている2人を無理やりと外へと連れ出す。


 そして、日本のスーパーで買ってきたあるものを取り出す。


 で、あるものを一本取り出して、俺は火をつける。

 すると、あるものは先端から閃光をまき散らしはじめる。

 オレンジ色と赤色の光が交互に俺たちの目に瞬く。


 みんな、静かにこの光を見続けている。

 次第に、光が小さくなって、最後に消えた。 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 しばしの沈黙。


 「おお~~~、きれいなのじゃー」

 「きれいスラー」

 花火が消え終わった後、2人は顔を見合わせて、きれいだーと言っている。


 「こんなの見たの初めてなのじゃー。きれいなのじゃー」

 「そうスラ、ご主人様、これは何なのスラ」

 まるで、2人とも喧嘩していたことを忘れたようにわーわーと言って、こっちにも話しかけてる。


 「それは花火といって、俺の世界のものだよ」

 と、俺は答える。


 「「ハナビ?」」

 ふたりははもって聞き返してくる。

 「そう、花火。俺の国では夏になると、決まってこの花火を楽しむという習慣があるんだ」

 「「へー」」


 説明をしたあと、残りの花火を取り出して、2人は遊び始めた。

 その様子を見て俺は一安心していると、なんだか、まわりがざわざわいっているのに気がつく。


 ざわざわ、ざわざわ。

 ざわざわ、ざわざわ。

 

 俺はなんだーなんだーと思って周りを見てみると、なんと、子供たちがわっさわっさ集まってきていて、うらやましそうにこっちを見ている。

 で、俺が気が付いたのを見て取ると、子供たちはこっちにやってきて、「ちょーだい。ちょーだい」と言ってくる。


 「よ~~~し、一人一本までだぞー。火ー使うから気をつけろよー。終わったら、そこの入れ物の水につけるんだぞー」

 と言って、集まってきていた子供たちに俺は花火を配った。


 配ったよー。ありがとー。

 配ったよー。ありがとー。

 ずーっと配ったよー。ありがとー。

 ・・・・・・・。


 で、

 「わ~~~」

 「きゃ~~~」

 「なにこれー。きれいー」

 などと言いながら、子供たちは花火を楽しんでいた。


 ◇

 それ以来、2人は言い争いをするけど、険悪な空気になることはなくなった。よかった。よかった。

 で、その2人を和解してくれた花火はというと、なんだか、人気商品になっている。

 聞いた話によると、あの時に花火で遊んだ子供たちが家に帰って、大人たちによかったよーと話してくれたようだった。

 

 ふ~~~、疲れた、疲れた。

本当ならこんな簡単にいかないんだろうけど、まあ、ファンタジーということで。

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