触れるな事件
遅くなりました!さあさあ結構進んできたところで長い話をぶち込みました。ちびちび読むもよし一気に読むもよし、感想書いていただければなお良しとよしよしよい子よゐこみたいな感じで読んでいただければ嬉しいです。じゃあ5話行きますよ!
人が儚いとは書いたもの。住めば都とは言ったもの。
強いも弱いも書けるし言えるのならば、変えてみるのが人だろう。
ならば変えぬ、変えられぬのが世だろう力だろう。
「情けないわね、あんた。」
と言う薊さん。目の前に斬首されて山に放置されたような死体があるというのに、しかし、彼女には気にするだけの道徳心が欠けているのだろう。僕の困った顔(そりゃ目の前に死体があれば困った程度じゃないだろうが。)を見て大笑いしていたが、僕は流石に不味いと思ってこれからどうすのかを聞いてみた。
「薊さん、これからどうす・・」
「とにかく笑って保健室に行け。」
まるで鋭いもので刺されたかのような痛みとマズい音が鳴り響く、指を踏まれているのだ。
「意味が分か・・・」
「笑え。」
「はっはっはっは。」
すぐに扉を開け放って外に出た。
後ろに振り返ってはいけないような気がして手を後ろに回して扉を閉めた。何というかやはり小倉さんらしいと言えばらしいのだろう。悪意でもなく敵意でもなく"嫌い"をそのままぶつけられると恐ろしいのだ。こういうとまるで僕こと雨村 聡がガラスどころか飴細工並みの心の持ち主のように見えてしまうかもしれないが、小倉さんや香織さんなどの特殊な人以外の人とは話さないのだ、弱くて仕方ないだろう。無口という印象が周囲に浸透したのか、影しかない男だなんて渾名が付いてしまったのは流石に困った、意味もなく暗い奴だなんて思われてるのだろう。嫌だななんて考えながら歩いていると保健室に着いた。
「先生、すいません、ちょっといいですか?」
保健室の先生こと朝子先生はこんなグッドモーニングな名前でありながら夜行性という少し変わった先生だ。お酒が好きなようで、度数が高ければ高いほど好きと言いながら市販のジンやテキーラやウイスキーを我流で蒸留して飲んでいるようだ。当然全部ストレートで飲むらしい。驚異の腎臓だが人工透析までの道はどこまでも暗いはずだ。凄く脱線したが、そんな朝子先生に用があるのは他でもない紫沢のことについてである。
「ふーん成程ね、で君たちはそんな熱い戦いをしてたのに女子生徒に蹴りを付けられたんだ。」
と言って豪快に笑った。保健室内が酒臭い、カセットコンロの火を付けたら大炎上するだろう。
「笑ってないでどうにかできませんか?」
と言うとまた笑ってこう答えた。
「どうにもこうにもそれ生身の肉体じゃないから、ほら紫沢君ならそこのベッドに居るけど?」
とベッドの方を見ると紫沢がベッドに顔を擦り付けて寝ていた。そういえば説明会の時にこの肉体は生身ではなく、データの肉体なので倒されても大丈夫ですよなんて話をしていたはずだが、僕はガン見さん・・ではなく薊さんにガン見されて聞くことすらできなかったのだ。今まで自分が他人に手加減して戦っていた意味は一体何だったのだろうか。
僕が家に帰ろうと帰り道を歩いていた時にそれは転がっていた。かっこつけて危険因子だなんて言ってみたり事件だなんて言ってみたりしてもいいがこれは本当の事件だ。
「嘘だろ・・?」
そこには能力出しっぱなし称号使いの死体が転がっていた。というよりも何かわからないような蔓を体に巻き付けられている。称号能力を見せびらかすことは退学レベルの行為だ。急いでどこかに連れて行こうと思ったが、それが間違いだったのだろう。
「うぉっ!何だこれは!」
人が見ている所に運んでしまったようだ。やむを得ないので逃げようとしたが、意外にも人は生きている方が軽いのだろうか、その死体は持って移動するには重すぎて一歩も動けなかった。その人が通報する前に逃げなくてと思ったが案外その必要はなかったようである。
「安心して、事情を話せないのは分かってるから。」
さっきの人に隠れやすい場所に来て話をしているが、ここは交番なんかじゃない。トイレでもない、プリクラの中である。
「君は、雨村家の跡継ぎ君じゃないか!」
名前を憶えられていない悲しみというのはかなり来るものがあるのだろう。今分かった。
「ところで、君の腕についてるそれは何だい?」
ん?腕?腕にはそりゃ筋肉がついてるに決まってるじゃないか、何を馬鹿げたことを。
「うおっ!何だこれは!」
デジャヴとはまさにこのことだろう数分前にやったやり取りをまた繰り返そうというのか。そんなことより自分の体がどうなっているのかを今認識した。感染だろうか、蔓が筋肉よりも太く巻き付いている。さっきも何もなかったのに一歩も歩けなかった。ならなぜだろうと考えてみるとこの植物に養分を吸い取られていたからだった。
「カッターありますか?」
と聞いてみたが、その人はにこやかに
「鉈ならありますよ。」
なあ、鉈で腕の蔓切るってどんな気持ちか分かるか?手の汗が凄いぜ。と考えているうちに見守るその人がめんどくさそうな顔で
「さっさとやろうよ」
と言って鉈を奪い取られて豪快に切られた。
こんな大変なことが学校にあったのなら学校に連絡しなければ、と学校に電話をかけてみたもの、ガチャッと音がしたが、音が何もしない。行かなければ。
千駄ヶ谷高校の外観は植物に乗っ取られ、なんてことはなく。いつもより数段、静かだった。下駄箱を走り抜け、周りの人を見てみるも、周りにいたのは植物に乗っ取られた何かばかりだった。
「ああ、あそこか。」
体育館の扉を開くとそこには辛うじて人の形を保った人の紛い物ともう人とは区別されるべきな植物の区分に入るべき何かが居た。僕はその何かを知っている。1人1人を独り独りにする力。他とは区別されるべき力を。「小倉さん!なんでこんなこと・・。」するとその植物は奇妙な色に変化しはじめ、こちらに蔓を打ちつてけてきた。明らかに小倉さんの能力だが、誰かに乗っ取られているのが分かる。
「助けてあげなくちゃ。」
『あんた』から始まるセリフが頭の中を駆け巡り、リフレインする。フラッシュバックの様にバンッと思い出されるのではなく炎が燃えるようにゆっくりと思い出される。
あんたあんたあんたあんたあんたあんたあんたあんたあんたあんたあんたあんたあん・・・・・
「ころしてでもたすけてあげなくちゃネ・・・。」
僕の中の何かが出てきて薊さんに振り下ろされるような感覚があった。
「kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk!!」
木々怪々は蒼い炎を纏った大樹のハンマーで薊さんの頭を粉々に砕いた。
はずだった。砕け散ったのは逆に大樹のハンマーでむしろ薊さんは微動だにしていなかった。
『彼女の眼には何が観えている?彼女の眼には薊と枯れた花が見えている。僕の拳は?拳?そんなものがあったのか。済まぬ、見えぬな。』
と低い声が聞こえた。空耳だろうか。薊さんは故意に使い魔を使ってはいないのだろうが、薊さんの使い魔は目の前の全てを"独り"にしてしまった。もう意識をしなければ薊さんを見ることはできない。
「薊・・・さん。」
僕は僕を木々怪々ではない最初の使い魔を出した。
「花菖蒲っていうんだ。花言葉は希望。」
頭の中身はもう真っ白で何も残っていない。記憶自体が独立しはじめた。
「もう一つの花言葉はメッセージ」
何も考えず、もう植物と言っても過言じゃないくらいの薊さんの体に触れた。
「最後の一つの花言葉はよい便りっていうんだ。」
使い魔は柔らかい紫色の光を出し始め、意識を送った。
「小倉さんにメッセージを送るよ、ごめんね、独りにさせて。」
そう、彼女はいつも独りだった。父は事故死、母は行方不明。迷走しながらここまで来たものの、友人なんてできやしなかった。いつも独りだったから、下手に人の温もりを知ったから。こんな風に暴走してしまったのだろう。
「独りにしないからさ。」
と言うと植物が魔法がとけるように消えていった。周囲の人達も植物から放たれ、自由になり、静かだった学校も五月蠅い叫び声がいろんなところで聞こえ始めた。そしてやっと薊さんの植物はすべて無くなった。
薊さんは泣きながらこちらを向いて
「独りにしないでよ・・・・。」
と呟いた。が、再び倒れてしまった。
かなり遅れてきましたね・・何話まで行くか楽しみですが、自分はちびちび書いていきたいところです。あと再び一万円生活の到来です。カロリーが特に必要な冬なので個人的には泣きたいところですが塩分は過多しちゃってます。目分量って怖い。