第8話
裕也の足を治すため、馬車は村に向かって走った。
途中で昨日オークから逃げた丘の近くまで来た時、外を見て裕也は少し震えた。
そこにはオークはもういない。
だが、心の中の傷はまだ消えない。
その事を忘れるために、裕也は頭を振った。
嫌な事は忘れよう、それよりもシーリャを知る事が・・・・・・。
シーリャを知ろうと考えた時、ふと朝の出来事を思い出してしまった。
少女の赤いネグリジェから見える肌。
抱きつかれた時に感じた、胸の感触。
その少女は、目の前に座っている。
意識して、シーリャをじっと見てします。
昨日の服とは違い、今日はシンプルな白のブラウスに、紺色のミニスカート。
なんでミニスカートなんだろうっと思ったら、目の前でチラチラとスカートから白い物が見える。
見られているのはわかっていると思うのだが、シーリャはなんとも思っていないようで、ニコニコとしている。
シーリャの隣に座るリーリンさんを見ると、少し疲れてような顔をしている。
これは狙ってやってるのか。
俺も男だ、スカートの中は気になる。
だけど、それだけなら召喚された時の浮かれて、馬鹿な事を考えてた時と同じだ。
とにかく、昨日聞けなかった事。
他にも知りたい事はある。
今の間に色々知って、もし一人になってもどうにかできるようにしないと。
「シーリャ、ちょっといいかな」
「どうしたの?」
「俺はこの世界に疎い。だから色々知りたい」
「そっか、そうだね、知らないって不安な事だよね。じゃあ、僕とリーリンでわかる事なら、何でも教えるよ」
教えてくれると聞き、裕也はほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとう。じゃあ最初の質問なんだけど、シーリャって何者?昨日は獣王国の者って事しか聞いてないけど、それだけじゃないよね?」
「あれ、言ってなかった?」
「はい、昨日は獣王国の者とだけ言いました」
「あーそっか、オルジーンって名乗ったから、それでわかると思い込んじゃったかも」
「オルジーンって?」
「えっとじゃあ改めまして、僕は獣王国の王女シーリャ・オルジーン、14歳の黒狐族です。ほらリーリンも」
「獣王国、近衛騎士団長リーリン・ベール、猫族です」
「ちなみにリーリンは、20歳なんだよ」
「シーリャ様、年齢は言わなくていい気がします」
「そうかな?」
こんな良さそうな馬車に乗っているから、ある貴族なのかと思えば、王族だったのか。
「僕は年齢は大切だと思うよ。だって若い方が男の人としてはいいでしょ?」
「え?まあ、そうだけど」
「昨日はこっちも色々聞けなかったから、裕也もう1回自己紹介して」
「えっと、朝霧 裕也、26歳です」
「趣味とかはも聞きたいな」
「趣味か・・・、ゲームとかネット小説を読む事だったから、この世界じゃできない事だから、今は趣味はないと言えるかも」
「獣王国に着くまで時間はいっぱいあるから、その間に新しい趣味を見つけるのも良いかもね」
「そうだな、そのうち探そうかな。それよりまだ聞きたいことがあるんだ、俺に魔力があるって言ってたけど、実際どのくらいなの?」
そう聞くと、シーリャはうーんと考え出した。
「裕也の魔力香って凄く濃いんだ。僕達もこれだけの魔力香は初めてだから」
「凄い魔力はあるけど、どれだけかはわからない?」
「うん。僕の推測だと賢者に近いくらいかなっと思ってる」
賢者に近い魔力。
それを聞き、裕也は少し不安が和らいだ。
賢者に近いか、それなら魔術を覚えれば、一人でもこの世界を生きていけるかも。
現代社会とは違い、力がいる世界。
力がある、それは昨日のようにオークなどに襲われても、自分の身を守る事ができる。
それは凄く良い事だ。
「魔術ってすぐに覚えれるものなの?」
「僕はその辺よくわからないんだ、リーリンお願い」
「魔術はすぐ覚えれる人もいれば、そうでない人もいます。つまり個人の才能次第と言えます」
「なるほど・・・、膨大な魔力を持っていても魔術を覚えれない人もいると」
「はい。ですが覚えれないと言う事はないので、その辺りは時間で解決できるかと思います」
時間か、獣王国まで距離があるらしいし、着くまでに魔術を覚えればいいかな。
「魔術習得には二つの方法があります。一つは魔術書を読んで覚える方法、もう一つは魔術を使える者の弟子になり覚える方法です」
「やっぱりそんな感じなのか、じゃあリーリンさんかシーリャから魔術を習えばいいか」
そう裕也が言うと、二人は少し済まなさそうな顔をした。
「裕也ごめんね。ここにいる人で魔術を使える人はいないんだ」
「回復魔術が使える人がいないだけじゃないの!?」
「僕はいちよ攻撃魔術のような物を使えるけど、それは黒狐族の術であって、普通の魔術とは違うから参考にならないんだよ」
「でも、その黒狐族の術をしれば、もしかしたら魔術が使えるようになる可能性も」
裕也は諦めず聞いてみたが、シーリャは首を横に振った。
「たとえば裕也は今背中に羽が生えたとして、飛べると思う?」
羽が生えたら飛べるか、そう聞かれ考える。
自分に今まで無かった器官を動かす・・・。
「長い時間があれば飛べると思う」
「可能性としては、飛べる可能性は0じゃないと思うね。だけどそれは、確立として低すぎると思うんだ」
「不確かな物より魔術書を読んだほうがいいって事?」
「うん、僕はそう思う」
「私もそう思います。基本、獣人は魔力を放出する事自体が不得意です。遠距離魔術に近い物を使える種族もいますが、その種族は才能だけでその力を使うので、人に教えるなどできません」
「天才は人に物を教えるのにはむかないって感じか」
「そうですね。変に知識を覚えるよりは、大きな街に着いた時に魔術書を買ったほうがいいでしょう」
すぐにでも魔術が覚えれる、その期待はあっけなく砕かれた。
だけど、まあいいかとも思えた。
焦る必要はなよな。
時間はまだあるんだ、とにかく順にやることを片付けていこう。
まずは、足を治す事だよな。
そう思っていると、目的の村が見えてきた。
「馬車は村の外に止めて、シーリャ様と裕也様はそこで待っていてください。ポーションの方は私が探してきます」
「俺達は村に入っちゃダメ?」
「この馬車は目立つので、このまま村に入るのはよくないかと思います。それに裕也様は足を怪我されているので、安静にしてるほうがよろしいかと」
「わかった、シーリャと二人で留守番してるよ」
「ポーションと必要な物を買いすぐに戻ります」
馬車を村から少し離れた、森の近くに止めると、リーリンと護衛の二人は村に向かった。
護衛の人は外だし、ある意味シーリャと二人っきりか。
ちらっとシーリャを見ると、尻尾をフリフリ凄く嬉しそうな顔をしていた。
朝の事もあるから、何も起きない事を祈ろう。