第7話
裕也はリーリンに案内されながら、小学校の時のキャンプで使われたような、2~3人が入れるくらいの小さなテントを想像していた。
だが、案内された先にあったテントを見て、感嘆の吐息を洩らした。
想像とは違い、10人が入っても余裕があるような、大きなテントが目の前にあった。
昔テレビで、こういうの見たことあるな。
たしか、モンゴルの遊牧民が使ってるような、あれ名前なんだったけかな。
テントに移動する時に、遠目に見た馬車も、豪華なものに見えたし。
獣人としか聞いてないけど、シーリャは獣人でも身分の高い人なのかな?
「裕也様、このテントをお使いください。私は他の者と交代で、護衛をします」
「え、一人で使っていいの?」
「はい、シーリャ様は馬車でお休みになられるので、このテントは裕也様一人で使っていいとのことです」
この大きさのテントだ、他の人と一緒に使うと思っていたのだが、一人で使っていいとは、広すぎる気もするけど、まあいいか。
「ありがとう、遠慮なく使わしてもらうよ」
「中に毛布なども、ありますので、ご自由にお使いください」
裕也はテントの中に入ると、毛布を探した。
「お、毛布発見。枕もあるのか」
昨日は何も無い草原の真ん中で、寝る事になった。
不安しかない、夜だった。
それに比べて今日は、テントで寝れるうえに、護衛の人までいる。
「今日は安心して、眠れそうだ」
そう言うと、すぐに毛布に包まり寝ることにした。
異世界に来て、最初に嫌な事があったけど、これから先どうなるのかな・・・。
先の不安はあった。
でも、今は寝る事にした。
本当に疲れたな。
目を閉じ、いつもならすぐには眠れないのに、疲れていたからだろう、数分後にはすうすうと寝息をたてていた。
疲れきっていた為、裕也はいつも以上に深く眠っていた。
寝てから何時間経ったのだろうか、夢を見た。
夢には実家で飼っている、茶トラの猫のミーちゃんが出てきた。
「ミーちゃんどうした?」
「ニャー」
ミーちゃんは甘えるような声で鳴くと、足に擦り寄ってきた。
実家でしていたように、擦り寄ってきたミーちゃんを撫でてあげた。
凄く嬉しそうに、喉をゴロゴロ鳴らし、お腹を見せて寝転がってきた。
お腹を撫でていると、嫌な事を少し忘れる事ができた。
このままずっと、撫でていた。
そう思って、ミーちゃんを抱っこして撫でていた。
どのくらい撫でていたのだろうか、さっきまでゴロゴロと喉を鳴らしていたミーちゃんから、猫とは思えない声が聞こえてきた。
「うんっ・・・・・・あんっ・・・だめ・・・」
これって喘ぎ声?
不思議に思ったが、このモフモフとした手触り、撫でる事をやめれなかった。
撫でる事をやめれなかったがふと、思った。
あれ、俺いつの間に実家に帰った?
そんな事ないはずだ、これは夢?
聞こえる喘ぎ声。
ミーちゃんの毛の手触りが、現実の物のように思えてきた。
何かやばい気がする、起きないと。
まぶたが凄く重かった。
でも、無理矢理起きるために強引に目を開けた。
目を開けると黒いモフモフした物を抱いていた。
何だろと思っているとその黒い物から声がした。
「おはよー」
黒い物の後ろを見ると、そこには肌が透けて見える赤いネグリジェを着た、シーリャがいた。
「ぎゃぁ!?」
驚いて裕也は悲鳴をあげてしまった。
それを見て、クスクスと笑うシーリャ。
「裕也の撫でかた、気持ちよかったよ」
「え?あ・・・その・・・」
裕也が混乱しているのを見ると、シーリャはぎゅっと抱きついてきた。
「僕のお婿さんになると、この尻尾を毎日撫でる事ができるよ」
裕也が尻尾を気に入ったのだと思いそういった。
シーリャのネグリジェから透けて見える肌を見て、これは不味いと思い、シーリャを引き剥がした。
「ちょっとまって、シーリャそんなことより服着て」
「着てるよ」
「そんな肌が見えるようなの、服とはいえないよ」
「むー、まあ、いいや着替えてくるね」
そういうとシーリャはテントを出て行った。
テントを出たのを確認すると、ほっとした。
手を出そうなどとは思っていない。
だが、女の子に免疫が無い裕也は、何かの拍子に我慢ができなくなって、襲ってしまうかもしれない。
そう思ってしまったのだ。
シーリャに抱きつかれて、心臓がドキドキしている。
お日様のようないい匂いだったな。
先ほどの抱きつかれた時の感触を思い出し、下半身の息子が大きくなっていた。
やばいやばい。
自分で頬をバチンと叩き、大きく深呼吸をして、忘れようとする。
・・・・・・よし。
起きるため、毛布をとると、立ち上がろうと足に力を入れた。
普通に立ち上がろうとしたはずだ。
そのはずなのに、立ち上がる途中で前のめりに倒れてしまった。
「あれ?」
もう一度立とうとする。
またバタンという音と共に倒れてしまう。
「裕也どうしたの?」
倒れた音を聞いて、シーリャとリーリンがテントに入ってきた。
「なんか、立てないんだ」
足が痛いわけでもない、なのに立てない。
裕也は不思議に思い、首をかしげるた。
「あれ?」
「裕也様、足を見せてもらえますか?」
「わかった」
リーリンが足を見てくれるようなので、ズボンをまくり上げた。
するとそこには、青く腫れ上がった、足があった。
「なんだこれ!?」
何か病気?
寝てる間に、変な虫に刺された?
驚き、不安になる裕也。
それに対し、リーリンは冷静に対応した。
「触りますね」
足の状態を、確認するため、色々な場所を触ってきた。
「痛くありませんか?」
「痛くない」
「足が折れてるような感じはないですね。たぶん、昨日オークから逃げるために、無理をしすぎたのが原因だと思います」
「あー、なるほど」
リーリンに言われ、裕也はすぐに納得した。
「どうしよ、すぐには治らないよね」
「ポーションか回復魔法を使える者がいれば、すぐに治療できるのですが、獣人は回復魔術などが不得意でして・・・」
「今回の聖王国に来てるメンバーには、回復魔術が使える子がいないんだよ」
「え、でも魔術が使えなくても、ポーションで治せるって」
「ごめん、ポーションは持ってきてないんだ」
ファンタジー小説などの知識から、普通何かあった時のためにポーションは持っているは普通だと思っていた。
「獣人は回復魔術は使える者が少ないけど、獣人全員が、魔力で自然治癒力を強化することができるんだよ。だから腕とかを切り落とされない限り大丈夫だから、今回ポーションは持って来てなかったんだ」
疑問に思っていると、シーリャが理由を教えてくれた。
獣人って、凄いんだな。
「この先に小さいけど村があるから、もしかしたら、ポーションが買えるかも」
「そうですね、すぐに出発しましょう」
裕也の足を心配して、シーリャ達はすぐに準備をはじまた。
「では、馬車までお連れしますので、失礼します」
そういうと、リーリンは裕也を抱きかかえた。
「あ、ありがとう」
女性に抱きかかえられる恥ずかしさと、リーリンの顔がすぐ近くにあり、少しドキドキした。
リーリンさんの顔を確り見るのははじめてだな。
茶色い耳と髪に細い尻尾。
猫の獣人なのかな?
そう思うと夢に出てきたミーちゃんを思い出し、少し心が安らいだ。