第6話
突然シーリャに、婿になってくれと言われた。
ついさっきまで、オークに襲われたときの事を思い出して涙を流していた裕也だったが、そんな事は一瞬で忘れるほどの驚きだった。
ショックのあまり、裕也は言われた言葉を理解したはずなのに、混乱して理解できないでいた。
「へー、婿か・・・・・・え、婿?」
「うん、お婿さん」
俺は何を言われてるんだ?
婿・・・婿ってなんだた?
「ちょっと待ってくれ、少し混乱してまって、考えをまとめるから」
困惑する裕也。
少し呆れ顔のリーリン。
それに対してシーリャは尻尾をふりふりと動かしながら、満面の笑顔で裕也の事を見ていた。
顎に生えた無精髭を触り、思考をまとめようとする。
婿・・・、結婚して欲しいって事だよな・・・。
十代前半としか思えない容姿のソーリャを、チラリと見る。
清楚な感じのセミロングの黒髪、サクラの花を思わせる色のワンピースからもわかる、成長期の膨らみかけた胸。
人と違い、狐に似た耳と尻尾が生えているが、その可愛らしい容姿を引き立てるアクセントとなっていて、耳や尻尾があるからといって拒絶する理由にもならない。
エロゲーをやった事がある人から言わせれば、完璧な美少女キャラ、中学生は最高だぜと言える。
獣人といってもケモ度としては最低ランクと言えるくらいの人との差が、にわかケモナーの裕也からすれば、ケモ度が高くない事が逆に好ましかった。
普通なら二つ返事で、結婚しますといえる相手、だが聖王国での事が思い出される。
好意のあるような素振りを見せていたが、実際は裕也を見ず、勇者という存在に好意を寄せていた王女リーラ。
シーリャもリーラと同じで、自分自身を見てないのではないか?
何か裏があるのではと、どうしても考えてしまう。
理由を聞いたほうがいいのか。
でも聞けばシーリャを不快にさせてしまい、俺はまた置き去りにされるかもしれない。
理由を聞かないで、そのうち勝手に俺に失望して、何処かに置き去りにされる可能性もあるだろう。
理由を聞かないとダメだとは思う、しかし不快にさせるわけにもいかない。
同じ言葉が裕也の頭の中で、グルグルと回っていた。
数分も、何も話さず悩む裕也を見て、シーリャの満面の笑みは少しずつ、不安な顔にかわっていった。
「僕じゃだめ・・・かな?」
しゅんとした顔で、裕也に質問した。
「もしかして、胸が小さいのがだめ? それなら大丈夫だよ。 僕の母さん胸が大きいから、僕も何年かしたら、たゆんたゆんになるよ」
シーリャは自分の胸大きく見せるために、腕を使って寄せて上げてアピールしてきた。
「い・・・いや、そういうことじゃないんだ」
まだ小さいとはいえ、服の上からでもわかる大きさの胸を見て、顔を赤らめてそっぽを向いた。
「じゃあ、年齢?裕也って何歳?」
「26だよ」
「僕は14歳。12歳差なんて問題ないよ」
「いや、そういうことじゃなくて、俺達会ってまだ数時間で、シーリャの事良く知らないし、結婚って大切な事だし、相手の事を知ってからじゃないとなんとも言えないよ」
「あ、そっか」
「それに何で、歳が一回り以上離れてる俺なんかと結婚したいの?」
「裕也に一目惚れしたから」
一目惚れと言われて、凄く嬉しかった。
だけど、理由としては弱い気がする。
「俺にそんな魅力は無いから、一目惚れは無いと思ってる。だから、他に本当の理由があるんじゃないかなっと」
「えー、一目惚れってほんとなのにー、しくしく」
泣きまねをするシーリャを見て、裕也は思った。
すぐには信用できないし、どうすればいいんだ。
そう思っていると突然、シーリャが泣きまねをやめた。
「ふう、じゃあそろそろ真面目な話をしようか」
やっぱり、一目惚れは嘘だったか。
所詮そんなものだよな。
「先に言うけど一目惚れって言うのは、ほんとだからね。それで裕也は魔力香って知ってる?」
「知らないな」
「じゃあ、そこから話すね」
シーリャは獣人が、魔力香というものを感知できる事を話す。
「そんな感じで、匂いで魔力がわかるんだよ。それで裕也からは凄い魔力香がするんだよ」
自分には魔力があるのか、そう思うと同時にふと疑問に思った。
「それなら、先に聖王国の魔術師みたいなやつが、俺の魔力に気がつくんじゃないか?」
「人間は魔力感知能力は低いんだよ。でも王と一緒にいたような魔術師が感知できないのは、何か理由があったのかもね。あとはあの国は勇者にしか興味ないから、魔力が多くても関係なかったとかかな」
聖剣が抜けなかっただけで、自分達が無理矢理召喚した者を捨てるようなやつらだ、その可能性は高いな。
「獣人は魔力操作能力に長けているんだけど、種族的に魔力量が低いんだよ。それで昔から、魔力の高いもの同士で結婚して、魔力量の多い子供を産むようにしてるの。だから裕也のその魔力量は魅力的なんだ」
この子も、俺自身を見てくれていないのか。
「俺は魔力のためだけの種馬・・・」
「僕は裕也の事、種馬だなんて思ってない!」
シーリャは強い口調で、否定した。
「裕也が、理由を探してるみたいだったから、獣人としての理由を言っただけだよ。一目惚れだけど、裕也の事が好き」
好きか、嬉しいだけど。
「それが本当でも、すぐには決めれない」
「うーん、わかった。裕也は獣王国までは着てくれるよね?」
「ああ、ここにいても死ぬだけだろうし、それに聖王国の近くにはいたくない」
「獣王国まで大体3ヶ月くらいかかるから、その間に勝負しよ」
「勝負?」
「うん。獣王国に着くまでにアプローチして、裕也が結婚していいと思ったら、僕の勝ち。もし無理だったら諦める」
3ヶ月、シーリャの事を知るにはいい期間かな。
そう思うとすぐに承諾した。
「わかった」
「絶対、裕也と結婚して見せるからね」
たぶん、純粋な好意なんだろう。
話がまとまり、気が抜けたのか、大きな欠伸をしてしまった。
「今日は色々あったみたいだし、疲れているんだね。リーリン、裕也をテントまで案内と護衛よろしく」
「了解しました、シーリャ様」
本当に大変な一日だった。
今日はすぐ寝よう。
そう思うと、リーリンについていき、テントで寝る事にした。