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第4話

裕也が平原に捨てられた翌日の昼過ぎ。

聖王国で1台の馬車が西門に向かって走っていた。


馬車には見慣れない家紋。

馬車の前後にいる騎乗した護衛の騎士も、外套を着ていて顔が見えない。


馬車と護衛の騎士を見て、街の人達は少し不審に思う。

だが、その馬車が王族か大貴族でもなければ所持できないような、高価な馬車であった。

どこかの王族か大貴族がお忍びで聖王国まで来ていたのだろう。

そう思いながら街の人達は馬車を見ていた。


街の人達が思った通り、馬車には王族とその護衛が乗っていた。

その王族とは、獣王国王女シーリィ・オルジーン。

そして、護衛の近衛騎士である、リーリン・ベール。

何故、獣王国の王女が聖王国にいるのか、それは聖王国は勇者召喚を行う半年前に、王族、大貴族に勇者召喚の後に行われる、勇者のお披露目パーティの招待状を送る義務があった。

そのため、建前として国と認めている獣王国にも、招待状が送られていた。


馬車の中、リーリンは疲れた顔をしているシーリャに、労いの言葉をかける。

「シーリャ様、お疲れ様です」

「ほんと疲れた。 文献に載ってた賢王って呼ばれていた聖王達と比べたら、ほんとダメダメな聖王だったよ」

そうシーリャは言い、パーティ会場での出来事を思い出し、リーリンに話し始めた。



パーティ会場前。

初めての聖王国でシーリャも、少し緊張していた。


お披露目パーティに出席できるのは招待状を送られた王族、大貴族の娘に限られる由緒あるものだ。

昔は王や当主が来ていたのだが、パーティ内で勇者の強引な勧誘をする者が多く流血沙汰になり、魔族と戦う前に人類同士で戦争が起きかけたのだ。

そんな前例があるため、当主の娘に限定しのだ。


シーリャは、この由緒あるパーティに、普段では絶対に着ない白のドレス着て、参加しようとしていた。

何故ドレスを着ているのか、その理由はもし何時も着ている獣人族の正装で参加したのなら、聖王から「ドレスも着ることができない獣には、このパーティには不相応だ」と難癖を付けられ、追い出されるであろう事は推測できたからだ。

そのためドレスを着て、ネックレスなど装飾品を付けて参加したのだ。


パーティが始まる少し前に、自分の身形を再確認し、万全だと確信して会場に入った。


会場に入ると、シーリャを見た参加者達が驚き、奇異の目でこちらを見てきた。


まあ、そうなるよね。


獣人というだけで注目を集めるのだが、シーリャにはそこにもう一つ目を引く要素があるのだ。


黒狐こくこ


この世界の人間は何故か黒髪の者がいない。

勇者との子供を産んだとしても、子供が黒髪になる事はなく、せいぜい灰色の髪になるくらいだ。

しかし、獣人族だけは勇者との子供が、黒髪になる事がたまにあった。

その中でも狐族と勇者の黒髪の子は、黒狐と呼ばれ特異な存在だ。

シーリャの親は勇者ではないが、母の家系に昔黒狐がいたため、先祖返りしたのだ。


この世界では黒髪とは、勇者の象徴とされ、崇拝される。

だが、そんな象徴となる黒髪の獣人、それがこの会場にいる全員の驚きの原因になっているのだ。


こうなる事がわかっていたので、ぎりぎりの時間に会場に入った。


数分ほど周りから奇異の目見られていると、会場入口から聖王の来場告げる声が高らかに会場に響いた。


「聖王ランドル様、ご来場!」


シーリャを奇異の目で見ていた者達もその声を聞き、会場に入ってくる聖王を見た。


聖王は護衛の騎士を連れ、会場に用意されている玉座の前に立つと、会場の者に告げた。


「このたびこの由緒ある、勇者様をお披露目するパーティに集まってくれたことをうれしく思う。 だが皆に残念な知らせしなくてはならない」


残念な知らせとは何だろうと、会場内がざわざわとしだした。


それを見た護衛の騎士は、持っていた剣の鞘で地面を打った。


キーンという音が会場に鳴り響き、会場が静まり返る。


静まり返るのを確認すると、聖王は続きを話し始めた。

「昨日、勇者召喚は行われた。 だが勇者様は召喚されなかった。 このことから、魔族の動きが活発になっているがまだ召喚時期ではなかったということだ。 再度召喚の儀式をするには、時間が必要なため、再召喚の日取りがきまり次第、追って通達する。 そのため今回は人類の連携を強化するため、参加者の情報交換の場とする」


聖王は話し終わると会場から退場しようとしたのだが、何かを思い出したかのように話し始めた。


「ああ、そういえば、この会場に相応しくない獣臭い者が混じっているようだな」

そういうと、聖王はシーリャを睨みつけた。

「獣はさっさと山に帰れ」


シーリャは聖王の馬鹿な発言に頭を痛めながら、理性的に返答した。

「ええ、そうさせて頂きます。 失礼いたします」

そう言い残し会場を出た。




リーリンはその話を聞き頭が痛くなった。

「シーリャ様、よく我慢ができましたね」

シーリャは笑いながら言葉を返した。

「普通だったら絶対怒ってるよ。 でもね聖王の護衛にいた騎士があの騎士団長、聖騎士アルタルシアだったから冷静に対処できたのかな」

「そんなに聖騎士は強いのですか?」

「うん、あれは凄いよ。 騎士なのに魔力香まりょくこうがしなかったもん」

「えっ、騎士で魔力香まりょくこうがしないのですか!?」


獣人族には生物から漏れる魔力を匂いとして感知する能力を持っている、その魔力の匂いを魔力香まりょくこうと呼ぶ。

普通の人であれば魔力香まりょくこうを垂れ流しになるのだが、最高位の魔術師になれば魔力香まりょくこうを消すことも可能だ。

しかし、騎士となると魔力制御が完璧な者は殆どいない。

どれだけ強い騎士でも普通なら少しは魔力香まりょくこうがするものだ。

魔力制御が得意な獣人族であり、近衛隊長であるリーリンでも魔力香まりょくこうが少し漏れてしまう。

それなのにアルタルシアは完全に魔力香まりょくこうを抑えている。

つまりは、騎士でありながら、最高位魔術師と同等の魔力制御能力を持っていることになる。

魔術師の場合、魔力制御能力が上がれば、魔術の精度と威力が上がる。

対して騎士は、自信の魔力を身体強化に使い戦うため、魔力制御能力が上がれば無駄な魔力の消費が無くなり、効率的な身体強化が可能になる。

簡単にいえばパワー、スピード、持続力が上昇するという事だ。


アルタルシアの魔力量次第では、もしかしたら・・・。


シーリャはニヤリと笑った。

「下手したら、僕と同じくらいの実力があるかもね」

そうシーリャは言った。

たがリーリンはそれを否定した。

「ご冗談を、シーリャ様と互角だとすれば、魔族側を除けば勝てるのは両手数ほどの人数しかいないという事になります」

「うーん、まあそうなんだけどね、魔力総量次第なんだけどそこがわからないから、魔力量を多く見積もって言って見たんだ。それにね、王が話してる時に、殺気は出さないで、手、足、視線、気配で8回、聖王を狙うような素振りをしてみたけど、襲ったとしても全部防がれてたね」

「シーリャ様がそれだけ試して全部防がれると思うとは・・・、魔力を抜きにしてもかなりの手練という事ですか、それならば魔力量次第では剣帝クラスの実力ですか?」

このリーリンの問いにシーリャはくすりと笑った。

「ないない、それはないよ。剣帝クラスって事は父さんと同等って事になるんだよ、聖騎士はあそこまでの化け物じゃないよ。 さっき防がれるって言ったけど、私とまともに戦えそうなレベルなだけだよ」


リーリンはシーリャのその答えにほっとした。

「あ、リーリン一つ忘れてるね」

「え?」

「聖王国には聖騎士の双璧となる瞬風がいるじゃん」

「あっ、そうでした。四聖ですね」

「うん、今代の四聖、聖騎士、瞬風、炎熱爆雷、鉄壁は歴代最強って言われてるけど、聖騎士であれなんだから、他3人もかなりな手練だろうね」

「はぁ・・・、それだけの手練が、なんでそんな馬鹿な王に忠誠を誓うのか謎です」

「そこは勇者伝承の中心にある国だから、なんか卑怯な気もするけどしかたないよ」

しかたないと自分で言いながらも、シーリャもハァっとため息が出てしまった。

「結局勇者には会えなかったけど、聖騎士の力の片鱗は見られたし、完全な無駄足にならなくて良かったよ。これからの方針としてうちの国も戦力強化を考えないとダメだろうね。帰ったら父さんにそのあたりの話しないと」

「国に戻るまでにかなりの時間がありますし、移動の間にアイデア考えておくとします。 後は立ち寄る町で良さそうな人材を探すくらいですか」

「うん、そうだね。 アイデアのほうはリーリンに任せるよ、頼りにしてるよ」

話も終わり、シーリャは伸びをして欠伸をした。


聖王からの刺客もなさそうだし暇だな。

何か事件でも起きないかな。


そう考えながらぼーっと窓から外を見ていた。


二十分くらいは外を見て暇を潰していたのだが、行きと同じ道なのですぐに飽きてしまった。


リーリンを見ると先ほど言っていた、アイデア出しをしてるようで、ペンと紙を持っていた。


邪魔をするのは悪いのだが、暇でしかたなくリーリンを呼んだ。

「リーリン」

「どうしました?」

「尻尾のお手入れしてー」


そういうと櫛を渡し、尻尾を向けた。

リーリンは尻尾を丁寧に櫛でといていった。

シーリャの護衛として一緒にいる機会が多いリーリンは、よく尻尾のお手入れをしている為、尻尾のどの部分が気持ちがいいのか知り尽くしていた。


シーリャは目を細めながら、耳がピコピコと動く。

「やっぱりリーリンのお手入れは最高だね」

「ありがとうございます」

そうして尻尾とついでに髪のお手入れをしてもらっている間に、もし聖王国が奇襲を仕掛けて来るなら、ここだろうと思われていたポイントを全て通過し、何事もなく馬車は進んでいった。


「はい、終わりましたよ」

「ありがとう」


髪と尻尾のお手入れが終わり、ご機嫌になったシーリャはまた窓から外を見だした。

その様子を見て、シーリャもアイデア出しの続きを開始しようとした。


だが急にシーリャの耳がピンと立った。

「減速して!」


その言葉に御者は馬車の減速させた。


「シーリャ様、どうされました」

「微かに魔力香まりょくこうがする」

「聖王国の刺客ですか?」

「わかんない。この距離で匂うような魔力香まりょくこう持ってる人にも心当たりは無いし・・・、それになんだか甘くて懐かしいような魔力香まりょくこうだね」

「懐かしいですか。 魔力香まりょくこうの元を確認しますか?」

「全力ならすぐ行けるから、先行くね」


そういうとシーリャは走っている途中の馬車から飛び降り、穿つように地面を蹴り上げ、全速力で走り出した。


慌てて、リーリンは他の護衛達にこの場所で待機するように告げ、シーリャの後を追った。



シーリャはクンクンと鼻を動かし、魔力香まりょくこうを辿り走る。

1分も走らないうちに、匂いの元はわかった。

だが、近づくにつれ生臭い匂いも混じってきた。


戦闘中?


そう思い、全身に魔力を巡らせ、戦闘態勢に入る。


気配を探ると、14人ほどの気配がした。


もう少し・・・・・・、見えた!


一人の黒髪の男を囲むように、オーク達が群がっていた。

オークは悲痛の表情を浮かべ、地を這い逃げようとする男に、ニヤニヤとした面持ちで近寄っていく。

その中で、1匹のオークが我慢が出来なくなったように、男の足を掴もうとしたその瞬間、一陣の風が吹た。

男を捕まえようとしたオークがゴムまりの様に吹っ飛び、地面でバウンドするたびに手足や内臓を撒き散らしながら、肉塊となり消えていった。


そのオークがいた場所に、シーリャが立っていた。

「えっと、こういう時なんて言えば良いんだったかな? うーん、そうだ! 王子様、助けに参りました」

ドレスのスカートの裾をつまみ一礼すると、男をお姫様抱っこして、一歩でオークの包囲を抜ける。


追いかけてきたリーリンが到着したのを気配で感じ。

「リーリン、この人お願い。絶対傷つけさせないでね」

「はい」

男をリーリンに渡すと、唖然としているオークに向き直る。


オーク達はこの獣人を殺さないと自分達が皆殺しにされると、本能で理解した。


「ブヒィー!!」

オーク達は次々に叫びを上げ、持っていた斧を構え、シーリャに突撃した。


オークは最初に1匹殺したので、残り12匹。


シーリャは少し腰を落とし、一足で一番先頭のオークを自分の間合いに入れ。

オークは自分より頭一つ身長が高いため、掌をオークの胸に叩き込もうとした、だが掌底打ちをするのをやめ、すぐさま右前蹴りを放ちオークの腹に風穴を開けた。


「こんなの手でやったら、血とかがついて汚いよね」


そういうと足技を主体にして戦った。


次々と襲い来るオークを、踵落としで頭を潰し、回し蹴りで上半身と下半身を分断、斧を振り下ろした者も、その斧を利用し円の力で投げ、宙で頭を蹴り潰した。


数秒で三分の一を肉塊に変えたが、オーク達は動揺する事は無かった。

とにかくこいつを殺さねばという思いから、仲間の死を認識していないのだ。


「めんどうだね」

動揺して逃げてくれると思っていたシーリャは、面倒だが残りも殺していった。


出来るだけ汚れないように1匹の頭を砕くと、殺したオークを踏み台にして次々と頭だけを潰していった。


そうやって注意して殺していったが、終わった時には、せっかくの白のドレスが返り血で赤く染まっていた。


ドレスを確認したシーリャはげんなりとした。


ドレスが大切だったわけではない。

助けた男の人に、血まみれのドレスを着て会うのが嫌だったのだ。


怖い子だと思われちゃうかな。


そう思ったが仕方が無いので気を取り直して、リーリン達の下へ戻った。

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