第43話
人攫いなんてする前は、帝国の貴族の息子だった。
親父は文官だったが、文官の出世とはなかなか難しい物があったようだった。
それを踏まえて、自分の力だけではこれ以上家を大きくするのは難しい。
そこで親父、実力主義の帝国で一番わかりやすく家を大きくする方法である、自分の息子を軍にいえれるという事を考えた。
軍は実力さえあれば、出身が何処であろうと関係なく、出世が出来る。
親父は俺を軍に入れるために、帝国でも有数の剣の使い手を雇い、3歳から剣の稽古をつけた。
剣の才能があるかなんてわからなかったのに、俺は毎日毎日剣を振った。
剣を毎日振り続けた結果、俺は15歳で軍に入り、18歳の時には第五大隊副隊長に任命されていた。
そこから2年堅実に軍で働き、剣の腕磨き、隊長よりも上になっていると思っていた。
だが俺が隊長になる事はなかった。
自分よりも劣る者が隊長?ふざけるな!親か何かの権力を使って、隊長になっているんだろ。
そんな事お思いながら、1年、2年と耐えたが、3年目で耐え切れなくなった。
隊長が死ねば自分が隊長になれる。
そんな事を考え、親父と結託して隊長を毒で暗殺した。
これで俺が隊長になれる、そんな馬鹿な事を考えていたが、すぐに俺達が暗殺した事がばれた。
捕まれば死刑、そんなのは嫌だ。
親父を囮に使い、自分だけ帝国から逃げ出した。
何が実力主義だ、俺より弱いやつが上にいる、実力主義なんて嘘だ。
西へ西へと逃げる間、実力があっても意味がないそう思いながら逃げ続けた。
中立商業都市についた時にはもう手持ちのお金なんてなかった。
持っているのは昔から使っている、ショートソードが一本。
金を手に入れる為に、冒険者になろうかと思った。
だが冒険者にはならなかった。
冒険者も実力があれば簡単にランクが上がるといわれていた。
それが俺には信用できなかった。
だから俺は、盗賊になった。
相手を殺せば全てを奪える。
それは凄くわかりやすくて、良いものだと思った。
逃げている間、剣の修行などはしていなかったが19年の積み重ねのおかげで、どんなやつでも楽に殺す事ができた。
そんな事を続けていくうちに、仲間になりたいという者が何人も集まってきて、もっと楽に稼ぐ方法を考え、そして獣人専門の人攫いとなった。
金を手に入れ、装備を整え、強くなった気になっていた。
力任せに剣を振るい、あれだけ磨いてきた剣の腕も錆付いてしまっていた。
そんな俺の前に今、勝てない相手が現れた。
これで俺も終わりかっと思ったが、この子は俺に剣士として死にたい?そう聞いてきた。
それを聞かれた時に、自分の中の19年が思い出された。
師匠に剣を習っていた日々、軍で働いていた日々。
ああ、俺の根っこは剣士なんだ、そう思った。
だから剣士として死にたかった。
いや、誰かに剣士としての自分を見て欲しかった。
だからこそ名を名乗った。
そして正々堂々、尋常な勝負を開始した。




