第15話
さっきまで飯美味かったなとか思っていたのが、宿に着く頃にはもう頭の中は魔術の事でいっぱいになっていた。
魔術、魔術、魔術、魔術。
やっとだ。
勇者になれなかった、チートを手に入れられなかった。
そのうえ、聖王国からは捨てられた。
でも、ついに魔術書を手に入れた。
これで、俺の魔術チートが始まるんだ。
部屋に入るとベットに座り、魔術書を紙袋から取り出し、早速読み出した。
裕也は魔術書を熟読するように、1ページずつ読み進めていった。
ページをめくり読み進めるにつれ、裕也の顔は真っ青になっていった。
まさか・・・・・・、こんな落とし穴があるとは・・・。
どうする、どう解決する。
このままじゃ魔術を覚えられない。
解決策を考えていると、シーリャとリーリンが裕也のために紅茶の入ったティーセットを持って戻ってきた。
「紅茶持ってきたよー」
シーリャ・・・リーリンさん・・・、あっそうか。
解決策を思いついた裕也は、じっとシーリャを見た。
「裕也、どうしたの?僕の顔に何かついてる?」
「何もついてないよ、そうじゃなくてその・・・」
これは、ある意味言いにくいな。
でも、言わないとはじまらない。
「その、実は文字が読めない」
「あれ、なんでだろ、この世界に来た人は文字とかで苦労したとか聞いたことないのに」
「日本語で書かれてるなら、読めるんだけど、元の世界にあったどの文字とも違うみたいで、まったく読めないんだよ」
魔術書には、見たことがない文字が書かれていた。
昔やったRPGのゲームで、その世界の文字まで考えて使われていた物があった。
例えるなら、それに近い感じだ。
ヒントみたいな物があれば、解読できるのかもしれないが、何もわからない状態だとどうしようもない。
「俺と今まで着た人との違いに、読めない理由があるんだろうけど、もしシーリャ達が読めるなら読んで欲しいんだ」
「そのくらい、お安い御用だよ」
裕也に何かを頼まれるという事が嬉しかったのか、シーリャは上機嫌な顔をしている。
「魔術書かして」
「ああ」
そう言うとシーリャに魔術書を手渡した。
シーリャは裕也の横に座った。
「それで、どの辺りから読む?」
「魔術の事何も知らないから最初っからかな」
「りょうかーい」
魔術書を買うときに基本が書いている物を頼むといったおかげか、あの店の店主は初心者向けの良い魔術書を選んでくれたようだった。
魔術は誰が作り出したとか、歴史がとか、は書いていない、本当に魔術の基本から書かれている本だった。
最初に書かれていたのは、魔術を使った事がない人に魔術を使わせる方法と、属性適正の知り方。
魔術を覚えるために一番重要なのは、自分の中にある魔力を感じる事。
極端な言い方をすれば、この世界の魔術は自分の魔力を感じる事ができれば、魔術を使えるという事だ。
属性適正を知る時にするのだが、手に魔力を集中させて、出ろとだけ念ずる。
それにより、手から出た物がその人の得意な属性となる。
つまりは、出ろと念ずるだけで魔術は成立するのだ。
じゃあこんな魔術書など無意味ではないのか、そう思うのだが一概にそうも言えない。
念ずるだけで魔術は使える。
だがそれだけでは一部の例外はあるが、使えるレベルの威力にはならない。
ならどうすればいいのか?
それがこの魔術書には書かれている。
魔術にはイメージする事が重要な要素の一つであり、火をイメージしながら念ずるだけでも威力が上がると書かれている。
でもそれにも限界と言うか、イメージできないとか、イメージしにくいというのもある。
その為にあるのが、詠唱魔術と呼ばれる物だ。
詠唱魔術は、言葉をはっすることにより、自分の魔力に形を与えるという手法になっている。
たとえばイメージだけで火球を敵に放とうとすると、手から焚き火のように火が出るイメージではだめだ、手から出るのではなく、手の少し上くらいにボールの様な火をイメージしなくてはならない。
しかし、この世界の人で、魔術を見たことがない人にはそれをイメージするには難しい。
詠唱魔術にあるファイアボールの魔術だと、敵に手を向け、炎よ火球となりて我が敵を討て、というだけで火球が撃ち出せる。
簡単に詠唱の内容を言うと、炎よで魔力を何の属性にするのか、火球になりてでそれをどの様な形などにするのか、敵を討てでそれはどの様な行動をするのか、というのを魔力にこめている。
魔術は効果で階級が決まっていて、下級、中級、上級となっている。
魔道全集という本があり、そこに記載されている詠唱魔術は魔力が足りていれば、詠唱するだけで魔術が発動するうえに、階級はわかりやすくなっている。
そのため、殆どの人がこの詠唱魔法を覚えようとする。
これがこの世界の魔術の基本となっている。
シーリャはここまで魔術書を読むと、一旦休憩にしようと言って来た。
丁度聞いたところまでについて考えたかった裕也は、リーリンが用意してくれた紅茶を、シーリャと一緒に飲んだ。
ここまで聞いて本には書いていなかったが、一つ詠唱魔法のデメリットはわかった。
詠唱魔法がそれだけ、普及しているということは、詠唱の一部でも聞けば相手が何を使おうとしているのかがわかる。
つまり人同士の戦いでは、例えば炎よ火球となりてまで聞けばファイアボールが撃って来るのがわかる、なのですぐに水系の魔術を詠唱を開始すれば相殺は結構簡単だろう。
たぶん、そこが詠唱魔法の限界なのだろう。
まあ、もしかしたらまだ読んでもらってない部分に、その事についても書かれているのかもと思うけど、さてどうなるかな。
紅茶を飲み終わり、そろそろ続きを読んでもらうかと思ったら、丁度部屋についている時計を見るともう晩御飯を食べるような時間だった。
「先に晩飯食べちっか」
裕也は自分から、シーリャにそう提案した。
「いいの?」
「いいよ、どうせ今日すぐに魔術を試せるわけじゃないし、ゆっくりやるよ」
やはり裕也の為に、シーリャは魔術書を読むのを優先しようとしていた。
それに甘えるのも良い。
でも相手のことも考えてあげないと、唯の駄目なやつになってしまう。
そう提案したのだ。
自分達の事を考えてくれたのが嬉しかったのか、シーリャは裕也の手に抱きつき、そのまま一緒に食堂に向った。