第11話
遠目で魔物が見えた。
「猪?」
まだその猪との距離はあるのに、それでも大きいと思う巨大な猪。
あんなのが50匹くらいいるのか、本当にリーリンさん達は大丈夫なんだろうか?
裕也はリーリン達を心配した。
あんなやつの突進をくらえば、トラックに跳ねられるのより酷い事になるだろう。
「ファランクスボアだね。大きさからして、標準的な群れだと思うけど、50匹くらい・・・・・・数が少ないね」
「少ない?」
「うん、普通なら100匹以上の群れになって行動するはずなのに、うーん何でだろ?」
何かが起きたのか?
そう考えようとしていると、ファランクスボア達がリーリン達の防衛ラインに接触した。
裕也は考えるのをやめて、戦闘を見ることにした。
戦闘が始まって、裕也は思った。
「み、見えない」
リーリン達に近づいたファランクスボア達が、真っ二つになったり、頭が吹き飛ばされたりするのは見える。
だがリーリン達が何をしているのかが見えない。
各々の武器で戦っているだろう事はわかるのだが、その武器を振る速度が速すぎて、敵が死んだところしかわからないのだ。
「そっか、裕也はまだ魔力を使えないから、普通の人と同じなのね」
裕也の状況を察してくれたシーリャは、護衛のみんながどの様に戦っているのか説明してくれた。
だがその説明はメルーはハンマー、レムは素手、タリスは短剣、シャールは爪、ウメは斧、リーリンは剣で普通に戦っているという物で、参考にならなかった。
RPGのキャラみたいに、見た目では強さがわからない。
それはわかっていたのだが、それでも護衛のみんなはこの世界の普通の兵士とかよりは、強いのだろうと思わされた。
「終わったね」
みんなの強さについて考えている間に、50匹くらいのファランクスボアは、一匹も防衛ラインを超える事無く全滅していた。
時間にして、たぶん10分ほど。
そんな短時間であの巨大な猪を、50匹も殺しきったのだ。
「あれ今日のお昼ご飯にしよっか」
「魔物って食べれるの?」
「うん、こいつも普通に買おうとすると、そこそこの値段するんだよ」
魔物を食べれるのか、小説とかゲームだと美味いっての多いよな。
「ちょっと楽しみだな」
「いっぱいあるから、お腹いっぱい食べれるから期待して待っていてね。っとその前に、あれを倒すのがさきだね」
あれ?
あれとは何だろう。
そう思っているとドスン、ドスンっという大きな音が聞こえてきた。
「ファランクスボアがこんな場所を走ってたのと、群れの数が少なかった理由。 サイクロプス」
10メートルくらいの大きさの巨人。
1、2、3、・・・8匹か。
「あれに捕食されないために逃げてきたんだろうね」
サイクロプス達は、ファランクスボアの死体とリーリン達をニヤリと笑い、走る速度を上げてきた。
手にはこん棒を持ち、俺達を殺すために迫ってくる。
リーリン達を信用していないわけじゃない、だけどブルリと体を震わせてしまう。
「怖い?でも大丈夫だよ、リーリン達ならサイクロプスくらい、簡単に倒せるから」
シーリャはそう言い、裕也の手を握ってくれた。
無くならない不安、だけど先ほどよりは少しましになる。
裕也の不安がまだ全て取り除かれて無いと感じたシーリャは、リーリン達に命令した。
「リーリン以外は馬車の防衛に戻って。リーリン、少し本気でやっていいよ」
命令を聞くと、瞬時にメルー達は馬車の周りに戻り防衛体制をとる。
リーリンは鞘に納めていた、片刃のサーベルを抜刀する。
チラリと裕也の不安そうな顔を見たリーリンは、迫り来るサイクロプス達に向って走った。
先頭に居たサイクロプスは、攻撃範囲に入ったリーリンに向って叩き潰すためにこん棒を振り下ろした。
潰される。
轟音を上げて振り下ろされるこん棒に、リーリンが潰されると思い顔を逸らそうとした。
だが、その前にサイクロプスの手とこん棒が宙を舞った。
「え?」
リーリンは振り下ろされるこん棒が自分に当たる前に手首を切り落とし、こん棒事蹴り上げたのだった。
「グォォォォォォォ」
痛みで手首を押さえ、叫ぶサイクロプス。
リーリンは地を蹴り跳び上がると、サーベルを振り下ろし1匹目を縦に両断した。
巨大な自分達を両断するリーリンを見て、にやけた顔で狩りを楽しもうとしていた、他のサイクロプス達も止まり、警戒するようにこん棒を構えた。
魔物など、ただ暴れ、殺し、食らう、そんな者だと思っていた。
だけどこのサイクロプス達は味方を殺されると、警戒する動きに変わった。
本能だけではない、何かを感じさせられる。
最初に殺したやつは警戒していなかった為、楽に殺した。
だが残りの7匹は違う、リーリンを警戒し、間合いを計りながら動いている。
リーリンだけで勝てるのだろうか?
そう思いシーリャ達を見るが、誰も心配そうな顔をしていない。
一人で確実に倒しきるという信頼。
その信頼されるリーリンに向って、囲むように展開していたサイクロプス達は動いた。
こん棒の攻撃間合いギリギリから、全力ではなく、だが人を殺すには十分と言える威力で振り下ろす。
最初の攻撃を横に飛び避け、反撃しようと走ろうとした。
しかし、避けた位置に絶妙のタイミングで、他のサイクロプスのこん棒が振り下ろされる。
視覚ではなく、気配などで相手の動きを察知していたリーリンは、その攻撃も楽に避ける。
だが7匹のサイクロプス、味方の攻撃の隙を連携して埋めてくる。
リーリンはヒラリヒラリと攻撃を避けるが、連携の精度が高く反撃できないように見えた。
「ふぅ・・・」
ため息が聞こえた気がする。
周りにいるみんなからじゃない、あの怒涛の攻撃を回避している、リーリンから聞こえたような気がした。
サイクロプスが攻撃する、それをリーリンが避ける。
その繰り返しだった状況が動いた。
今までは前後左右に避けていたのを、攻撃を避けると同時に、上に高く跳び上がた。
普通は空中では軌道を変える事はできない。
サイクロプスはリーリンが苦し紛れに空に逃げたと思い、勝ったと思ったのだろう、7匹が全力でこん棒を振るった。
縦から横から殺到する、命を刈り取ろうとする一撃。
もしかしたら、もう少し上手く戦う方法があったのかもしれない、だがサイクロプスはリーリンが跳び上がったのを好機と思った、それが敗因になるとも思わず、ただ1歩確実に殺すために、深く踏み込んでいた。
一瞬の攻防。
振り下ろされたこん棒が当たる直前、リーリンは持っていたサーベルを鞘にしまうと、こん棒を素手で受け止めとそれを後ろに引いたながらこん棒に乗った。
前に崩れるのを耐えようとした、だがリーリンの力はそれを許さず、サイクロプスを崩した。
崩れたサイクロプスの顔は、先ほどまでリーリンの位置まで無理矢理に引っ張られる。
その位置は、仲間の渾身の一撃が通る道。
他の6匹も仲間の顔が来た事はわかっている。
だが全力で振っていた為、途中で止める事ができず、仲間の頭を粉々に粉砕した。
それを確認したリーリンは足場にしたこん棒を蹴り、一番近くに居たサイクロプスに跳んだ。
仲間を殺した事に一瞬動揺するサイクロプス顔の横をすれ違い様に、頭部を真ん中から両断し、肩に剣を突き刺す事で着地すると、次の獲物を決め、即座に再度跳んだ。
動揺していたサイクロプス達も、数秒で状況を再確認するとこん棒を盾にしながら後ろに跳んだ。
だが、それは遅かった。
一撃目でこん棒を両断すると、そのまま切れたこん棒を足場に再度跳び、相手を絶命させる。
「すごすぎ・・・」
避けていただけ、そう思っていたリーリンは、数手で不利を覆し次々に敵を殺していく。
「さーって、ファランクスボアを回収してお昼にしよっか」
まだサイクロプス後3匹は立っている。
それでもシーリャは、もう戦闘に興味がないみたいで、ファランクスボアの死体の回収を命じていた。
少し呆れながら、リーリンの方を見ると、最後の1匹が跳んで来るリーリンを横一文字にこん棒を振り迎撃しよう押しているところだった。
鋭い一撃だった、だがそれをかるく凌駕するリーリンの一撃で、こん棒と共にその命も切り刻まれていた。
「終わったのか?」
ファランクスボア約50匹、サイクロプス8匹という数を戦ったはずだ。
それなのにこのあっけない幕切れ。
こんな数をこんなにあっさり倒していいのか?
そう思っていると、リーリンが馬車まで戻ってきた。
「ただいま戻りました」
裕也からすれば、ものすごい戦闘をしたように見えた。
だがリーリンは、何事も無かったかのような顔で帰ってきた。
「大丈夫なのか?」
本当は、苦戦していたとかそういうのがあるのかと、少し心配しているような言葉を言ってみる。
「裕也様、ありがとうございます。 ですが、何も問題ありません」
「そっ・・・・・・そうか」
本当に何でもないことだったんだな。
そう思っていると、メルー達が1匹のファランクスボアを担いで戻ってきた。
「うーん、少しきたないなー」
持ってきたものを見た、シーリャは土で汚れているそれを見て、少し文句を言った。
「シーリャ様、申し訳ありません」
リーリンは深々と頭を下げて、謝罪した。
え、なんでリーリンが謝るの?
裕也は何故リーリンが、謝っているのかわからなかった。
「リーリンさんは、何もしてないから謝らなくてもいいんじゃない?」
わからなかった、だからリーリンをかばうように言った。
だけど、リーリンは首を横に振った。
「サイクロプスの攻撃で土煙が上がり、汚れる事を考えるのを忘れていた私の落ち度です」
「そうだね、はじめから4割くらいの力で戦って、一瞬で終わらしていたらよかったね」
「はい・・・」
「でも、いいよ。だってリーリンがああやってわかりやすいように戦ってくれたおかげで、裕也も少しは何かわかったんじゃないかな?」
そういわれ、裕也は少し考えた。
最初のファランクスボアの戦いは良くわからなかった。
だけどその後のサイクロプスの戦いは、思うところはあった。
それならば、それはリーリンのおかげなんだ。
「そうだね、ありがとうリーリンさん」
「私の不手際でこの様な事になったのに、お礼を言っていただけるとは、裕也様ありがとうございます」
そういうと、少し照れくさそうに尻尾を揺らしていた。
「さてと、皮を剥いだら普通に食べれるだろうしお昼の準備しちゃおっか」
シーリャがそういうと、メルー達は昼ご飯の準備をはじめた。