第9話
そういえば、女の子と二人きりになるのなんて、何年ぶりだろ?
裕也は、今までの人生を思い出していた。
小中高、女友達は少しは居た。
だけど、二人っきりになったり、彼女になったりする子もいない。
専門学校時代もそうだ、男友達は結構居たが、女の子とは殆どかかわらなかった。
こういう時、どんな事を話せばいいんだろ?
シーリャは目の前で嬉しそうにしている。
何がそれだけ、嬉しいのかわからない。
でも、この状況から考えるに裕也と一緒に居る事が、彼女にとっては嬉しい事なのだろう。
嬉しいと思っているシーリャに対し、裕也の方は先ほど思い出したとおり、女の子と二人っきりになった経験がないため、どうすればいいのかわからないと言った様子、そうして数分二人は、無言で見つめあう事になった。
今まで裕也は、女の子扱いが上手い友達を見ても何も感じなかった。
だけど、今はその友達を羨ましく思えた。
俺も女の子の扱いがうまかったら良かったのにな。
話のネタも思いつかない。
ずっとこのままだと、そのうち愛想を尽かされるのかな?
また、捨てられるのは嫌だな・・・。
「はぁっ」
愛想を尽かされる、そう考えていたら、ため息が出ていた。
「もしかして、僕と二人っきりで居るの嫌だった?」
ため息を聞いたシーリャは、耳がたれシュンとした表情になっていた。
すぐさま、そんな事ないと言おうとした。
だが言えなかった。
ここはすぐに否定して慰めるところだろ、なんでそれが言えないんだよ。
思っても、どう言葉にすればいいのかがわからない。
どうすれば良いか悩んだ。
わからないなら、行動で示せばいいんだ。
行動で示す、それはどういう事をすれば良いのかもわからなかった。
言葉も行動も、どちらも思いつかない、だけど自然とシーリャに手を伸ばし頭を撫でていた。
「裕也?」
不意に頭を撫でられ、きょとんとした顔で裕也を見てきた。
それを見て、上手く話す事を考えるのをやめ、思った事を言葉をそのまま伝えた。
「嫌じゃないよ。ただ今まで女の子と二人っきりになった経験が無くて、どうすれば良いかわからなかったんだ」
なんか俺って、だめなやつだな。
思いついた言葉、それはなんとも情けない物だった。
そんな情けないの物が、今の裕也とも言える。
無理矢理召喚されて、自分がネット小説の主人公のように、勇者になれると知って舞い上がっていた自分。
何でもできると思っていた自分。
だけど、聖剣を抜けず捨てられオークに追われ、自分が無力だと知った。
シーリャには凄い魔力があると言われたが、実感がわかない。
こんな駄目な俺だけど、シーリャは好意を寄せてくれている。
二人っきりになって、何も起きない事を祈ろうなんて事をするよりも、俺はもういろんな事を努力するべきなんだ。
「情けない事言ってごめんな」
「ううん、いいんだよ。そういう事なら徐々に慣れていけばいいんだよ。それより、もっと頭撫でて」
「ああ、いいよ」
シーリャに言われ、もう一度頭を撫でた。
目を細め、気持ち良さそうな顔をしている。
猫なら喉をゴロゴロと鳴らしそうな感じだな。
そうしていると、シーリャは急に裕也の首に腕を回し、抱きついた。
クンクンと裕也の首筋を匂うと、頬を擦り付けてきた。
慌てて引き剥がそうと思ったが、こういう事にも慣れるべきなのかなっと思い、引き剥がすのをやめた。
ドキドキと心臓がなる。
シーリャにも聞こえるんじゃないかと思うが、自分ではどうしようもできない。
リーリンさん、早く戻ってきて。
先ほどいろいろ努力すると思ったが、流石にすぐに慣れたりするわけでもなくいので、リーリンが早く戻ってきてくれる事を祈った。
そうやって、30分くらい経った頃、リーリン達は戻ってきた。
「リーリンお帰り、どうだった?」
「申し訳ありません、この村にはポーションはありませんでした。変わりに薬草を何種類か購入してきましたので、そちらで代用したいと思います」
ポーションが無かった、つまりはまだまだ歩けない日々が続く。
少し憂鬱になった。
「後もう一つ報告があります。魔物や亜人の動きが活発化しているようです」
「かなりやばい感じなの?」
「狩りに行った者が、何時もは魔物が居ない場所で遭遇するという案件があるようです。他には裕也様のように、オークと遭遇した人もいるようです」
「オーク・・・」
裕也はオークと聞き、不安になった。
「裕也、大丈夫。僕が守るよ」
「シーリャ・・・、ありがとう」
裕也は不安になってる自分を、励ましてくれるシーリャを心強く思った。
「裕也様の足の治療をしましたら、早めに出発しましょう」
「次の街までどのくらいだっけ?」
「普通に行けば7日くらいですが、警戒を強めて行きますので、9~10日といったところでしょうか」
それを聞いて、シーリャは少し考えるような顔をした。
「できれば、魔物達と戦闘しないように行こうか」
「了解しました。それでは裕也様、足の治療をします」
ズボンを捲くり、リーリンに見せる。
そうすると、他の護衛が準備していた、薬草をすり潰した物を足に塗っていく。
動かない足に、少しヒンヤリとした感触があった。
塗り終わると、包帯を巻いてくれた。
これで、早く治ってくれたら良いんだけどな。
そう思っていると、湿布を張った時と同じような感じがしてくる。
「これで少しは治りが早くなると思います」
「リーリンさん、ありがとう」
リーリンは裕也の治療を終えると、すぐさま出発の準備を開始した。
次の街まで10日間。
足はまだまだ治らない。
動けなくてもできる事が何か無いかと考えた。
まだ魔術書はないので、魔術の練習もできない。
それ以外で、今自分にできる事。
考えて考えて、思いついた事があった。
そうだ、シーリャ達のまだ知らない事を知ろう。
あとはもっとこの世界について知ろう。
10日間、自分が何をすればいいか決めた。
そうしていると、移動の準備が終わり、リーリンが馬車に戻って来ると移動を開始した。