夜の赤か
私はその日、用も無くぶらついていた
場所は夜の学校であり
理由は、先ほども言ったが、特に無い
しいて言えば、面白そうだと言う所だが
しかし、この言葉の意味に何らかの理由をつけるのであれば
私はただぶらついていたよりも
逃げていると言うべきだろうか
それは、別段特定のなにかからではなく
形容詞しがたい雰囲気とでも言ったところか
私は、休みの前の日
いつもよりもみな早く帰ることを予想して
この日に学校に隠れることにした
場所は三階の理科室であり
ここの合鍵を姉にもらって持っていたのであるが
ようやく役に立つ時が来たようだ
私は一週間練った計画を実行すべく
鍵を大事に鞄に入れ
学校に向かったのが今朝のこと
授業中は
なんだかふわふわとした感じで
ろくに集中できず
何度も先生に見目をつけられた
そんな事でも給食はおいしく
休み時間は楽しく過ぎていく
刻一刻と実行時間が迫っている
今は、後二時間で下校となる
図工の授業であった
この時間だけ、他の先生が担当することになっていて
今日はどうやら、教頭のようだ
こう言うのもなんだが、えらい役職でご苦労なことである
わたしは、作りかけている木でできた、ピンボールを完成させるべく
一週間前に、下書きして置いた板に、絵を乗っけ始めた
そんな事を、しているうちに
また一時間が過ぎる
最後のあいさつのとき
何も思ったのか
「この学校には七不思議があります、知っていますか」
先生がそんなことを話し始めた
そう言えば、読書週間でも
他の先生は、それっぽいものを読むのに対して
この人は、ドラキュラ伯爵ホラー文庫を、チョイスしている
もうじき夏休みだし
そんな関連でのことなのだろうか
「その中に、図工室があります
今皆さんが座っている机に
色々落書きが彫られていますね」
四つくらい授業の机を合わせたようなでかい木の机には
確かに、彫刻刀かなんかで彫ったであろう落書きがある
「夜になると、その文字から血があふれ出します
何でも、小学校の時の魂が
彫った文字に刻まれて
今でももがき苦しんでいるとか
皆さんも、妙なことはしないように
それと、悪口は帰ってきますから
すべてに責任を持って行動するように
では、起立・・えーーと、今日の当番は・・」
何やら最後の方は、お説教にも似ているが
しかし、物事はすべてがだいたい教訓とセットでなるものだ
しかし・・・
私は文字を見た
この中に卒業生たちが・・・
私はその怪談をあほらしいと思いながら
元の教室に戻った
私は放課後になり
一つの誤算にぶち当たった
それはつまり、暇だと言う事だ
これは予想外であった
計画中は、先生からいかに見つからないかを考えていたが
こういうことは、問題にしていなかった
私はじりじりと過ぎる中
外で聞こえている声に
耳を澄ませた
あれほど緊張して
理科室に忍び込んだというのに
あれほど考えてここにいるというのに
私はひどくムカついていた
なんてバカなんだ
どうしてそういうことを
私はいらいらとしながら
時間を待つ
しかし外は暗くならない
何度外に出ようと思ったか
しかしその度に
廊下を誰かが歩く音が聞こえる
私は、理科室の奥にある
暗室で、暗闇を待っている
そんな時、私はふと
あることを思いついた
寝てしまおう
寝てしまえば時間は、早く過ぎる
しかしそれも実に難しいことである
いくら暗室といっても
その温度は、外と変わらず、それどころか
密室のため、実に暑苦しく息苦しい
私は床に体育座りしていたが
もう嫌に成り立ちあがると
なんとなく部屋の中に目を向ける
そこには、何時使うかわからない流し台
鷹の標本、骸骨
それを見て何も思わないが
しかし、どうしてここにいるのだろうと
恐怖とは別の疑問が芽生える
しかし、まだ外は暗くならない
ちっとも進まない時間のまま私はただ
そこにいた
大分たったように思う
しかし実際にはどうだろう
私は、その場所で横になっていたら
いつの間にか眠ってしまったようだ
察するに、一週間前からの計画の疲れでも出たのであろう
そういえば、なんだか、チャイムが鳴るのを聞いて、
どこか安心して寝てしまったような気もする
下校のチャイムが鳴っても、当然、先生方は帰らない
私はそこで、黒いカーテンに、体を任せたようだ
そのまま眠った
しかし、本当にどれくらいたったのだろう
ここの来たときは、暗室と言っても
完全に暗くなったわけではない
黒いテープやカーテンで覆っていた窓から
わずかに明かりを見たような気がする
いや、見えていたのだ
それなのに、見渡す限り、何も見えない
そういえば、おじいちゃんに、人生で何が一番怖かったか聞いたとき
真っ暗闇だと言われたのだ
何でも、馬の世話で遅くなり
夜道を歩いたのであるが
あたりは木が生い茂り
空は雲が覆い
何も明かりがない
唯一の助けは
馬であったという
馬は暗闇だというのに
まるで昼間のように
ずんずんと進んでいく
おじいちゃんは
必死にその首につかまって
ようやく農業学校に帰ったという
私は、怪談話を期待したので
なーんだ
と言う気はしたが
しかし、それを目の前に
私は、早くもパニクリそうになっていた
そうだ、私はその時懐中電灯を思い出していたが
それと同時に、川でおぼれた時
その暗闇に驚いたことも思い出していた
私はそれを振り払うように
ズボンにポケットに手を入れた
「あれ」
私は何度も触った
無いと分かると、急いで下を這いずり回る
ないないないないない
私はまるで息ができない魚のように思えた
どうしようもなく怖くなったわつぃは
それでも慎重に、壁づたいに、ドアを探した
途中何か妙なものに触ったように思う
それが骨なのか
鷹なのか
それとも、水道の蛇口なのか
どちらにしても、窓ではないと思うと
すぐに手を放した
ないないないないないないないないないないないないないないないない・・・ない
わたしは、 あるを探した
しかし、ドアがあるはずの場所がわからない
確かに、角を四つ触ったような気がする
いや、焦って途中で間違って、数え間違えたのだろうか
私は気を取り直して
もう一度
普段間違えるテストなんかよりも
きっと慎重に
それを探した
それはすぐ近くにあった
どうやら、数を勝手に思い込んでしまったようだ
私はそれを探した
つまりは、ドアノブだ
・・・・・・・
そこで私は、またしてもおかしなことに気が付いた
何か音がする
はじめ、それはドアを開ける音かと、思ったが
どうも違う
そして、わたしは、あかないドアを半ばあきらめるように
窓にかかったカーテンを開ける
周りに黒いテープがあって
その剥がれかけているものを
めくる
それはなんだったのだろう
私が見たものは
赤 黒
きっとそんな感じだ
そしてどうしてそんな抽象的なことを思ったかと言えば
それは明らかにおかしかったのだ
髪が長く
目が黒く
そして女とも思えないものが
窓いっぱいにこちらを見ていた
何時からだ
あれはなんだ
私はその時
何とかドアノブが開いていた
そして、そのまま飛び出した
どうなっても知らない
あそこにいるよりは
私は、走った
とにかく
もう何が何か分からない
学校のはずが
何処かの廃墟を走っているようだ
でもそれは学校だ
足音など気にしてはいられない
私は、走った
三階から二階、一階
途中途中の消火器下のランプが
嫌に気味が悪い
しかしそれよりも
濃い暗闇の方が
私は怖い
もう窓を割って外に出ようか
何度も思った
しかし、姉からの教えで、一か所だけ、感知センサーのない場所を教えてもらっていたのだ
私は走る
もう心臓が破けてもいいくらいに
「何をやっているのだ」
私はそんな声を聞いた
振り返ると
闇から無数の手がこちらに向かっていた
黒い手だ
闇のような
「何をしているのだ」
もう一度聞いた
私は何かにけつまずき
そのまま盛大にこけた
「いったーー」
私はそこで何か妙な感じがした
まるで夢から覚めるような
私はそう感じた時
起きていた
酷く汗をかいていてべとついてはいるが
相変わらず暗い
真っ暗闇
そんな時
私は目の前の闇の一角が
四角くめくれるのを見た
あのカーテンだ
そこから見た光景は・・・・