乾いた街角で
露骨に残酷な描写があります。
暴力描写が苦手な方はご注意ください。
何気ない瞬きと、複数の乾いた音が聞こえたのは殆ど同時だった。傍から見たら、ぼくが音にびっくりして目を閉じたように見えたかもしれない。瞼という幕が上がると、ぼくの斜め前、朽ちかけた空き家の門にいたドミニクが、ヤジロベエになっていた。
両肩から下、左足も股関節から下が丸々吹き飛ばされて。吹き出した鮮血が地面を、壁を、ドミニク自身を赤黒く染めていく。彼は、右足だけで器用にバランスを取って乾いた大地に立っていた。
もう一度瞬きする頃には最後の支えも失って、目の前に、ごろん、と真っ赤な達磨が転がった。
顔が残っているだなんて、彼はどれだけ運が良いだろう。達磨とは言っても、都合良く四肢だけ欠損しているわけがない。脇腹は抉られ。背骨は砕かれ。零れた内臓は、剥き出しの肉は、飛散した肉塊は正午過ぎの日の光を受けてテラテラと煌めいた。連中ときたら、視界に入ったあらゆる動物を文字通りミンチにする気だ。
一昨日、人気の無い裏通りで、野良猫であったらしい肉塊を見かけたことを思い出す。
どす黒い水溜まりの中からぼくを見上げる猫の目と、真っ赤な全眼コンタクトレンズを着けたかのようなドミニクの目が、瞼の裏に交互に映った。
ドミニクとぼくは幼馴染みだ。同じ村で生まれたぼくらは、誕生日が近いこともあってか、双子の兄弟のように、否、もしかしたら家族よりも、いっしょに過ごした。
畑で仕事をするのも、森で狩りの真似事をするのも、川で釣りをするのも、長老の長い話を聞いて居眠りするのも、女の子に悪戯をするのも、笑うのも、泣くのも、怒られるのも。目が覚めてから眠るまでの殆どの時間、ぼくらはいっしょだった。
夜中に家を抜け出して丘の上に行ったのも、そこで流星群を見たのも、そこでゲリラに村が襲われるのを見たのも、原型がわからなくなった家族と会ったのも、好きな女の子が複数の兵士に犯されている現場に遭遇したのも、その輪に参加させられて蹂躙され尽くされたのも、そのままゲリラに拾われたのも。ずっとずっと、ぼくらはいっしょだった。
銃の扱いを覚えた。ガンパウダーの臭いを覚えた。人殺しを覚えた。
生き延びることを覚えた。
生ぬるい塊が右手首を撫でる感覚。違和感を覚えて覗き込むと、ぼくの右手にべっしょりと血がついていた。傷を負った覚えはない。ドミニクのそれが飛んできたんだろう。
ドミニク・・・・・・であったもの、は、もう血も流れなくなって、静かに地に横たわっている。足音も銃声も聞こえて来ない。かといって、このまま進行することは危険だろう。
後ろに控えた仲間に合図を送り、進路を変更することにした。ぽつりぽつりと見えていた物陰の仲間の姿が、ひとつ、またひとつと見えなくなる。
「アル、最後頼んだぜ」
ぼくに声を掛けて、ジミーが動き出した。彼の次、ぼくはしんがりだ。
首だけで振り返り、血塗れの骸をじっと見つめた。
「ドミニク。ぼくら、もう行くね」
右手首から零れ落ちそうな赤黒い液体をぺろりと舐めて、ジミーの後をついていく。
そういえば、涙ってこんな味だったかもしれない。そんなことを思いながら。