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真夏の深海   作者: れの
2/2

夏の半孤独

難解な読みの字

枳殻からたち

あずさ

浅木沢あさぎざわ

風向かざむかい

 外はどうやら、かなり暑いらしい。

 エコだ、省エネだと世間では騒がれているけれど、俺は正直あまり気にしていない。糾弾される可能性大だが、だったら企業とかそっちが頑張れよと言いたい。いや、頑張ってるのかも知れないけど、よく分からない。頑張ってる人達ごめんなさい。

 ともあれ俺は頑張ってない。俺を努力してる人の部類に入れる人は居ないだろうし、居たとしたら、逆にお前はどれだけ非省エネルギーな行動をしてるんだと聞いてみたい。何だろう。同じ部屋にエアコンを二つ付けて、それぞれ暖房と冷房でバトらせてでもいるのだろうか。無駄すぎだろ、そいつ。

 まあどうでもいいことに頭がいったところで現実に目を戻すと、俺は惜しげもなくエアコンから冷たい風を送り出し、暖房モードのエアコンと戦わせる代わりに、熱風の如き外気によって温度が上昇しそうな部屋の空気と戦わせていた。今のところ優勢だ。当然だけどな。

 今日は土曜日。まあ、とある夏の土曜日ってとこである。俺は高校一年生なのだから、本来なら運動部であれ文化部であれ部活動に精を出しているはずだ。なのに、何故こうして二階にある自室のベッドの上に仰向けに寝ころんで、昨日下校途中に寄った書店で買った文庫本の活字を追っているかと言えば。

 勿体ぶるまでもない。まごうことなき、誉れ高き完全なる帰宅部だからである。

 家で勉強するわけでもなく、塾に行くわけでもなく、習い事をするわけでもなく何でもなく。ただ面倒だっただけなのだ。特に特技も趣味もない俺にとって、半強制的に何かをやらされる部活動というのは全くもって向いていない。部内の調和を乱すこと間違いなしだ。

 故にこうして、ぼんやりと本を眺めている。趣味と言うほどでもないが、まあ活字を追うのは嫌いではない。暇つぶしにはぴったりだ。

 正直、高校はあまり魅力的ではない。

 行きたい高校なんて受験の時から無かったし、当然今通うこの高校に行きたいなんて、毛ほども思っていなかった。

 初めて会う人間ばかり。

 どれもこれも、なんとなしに人当たりの良い人格を演出している。

 演じない人間なんていないし、それは悪いことではない。寧ろ調和を保つ面ではかなり重要なのだろう。しかし、俺にはそんな器用な真似は出来なかった。だから話しかけられない限りは黙っていた。別に自分から話しかけたい奴なんていないし、話しかけたい奴は別の高校に行ってしまった。

 まあ、そりゃそうだが少々周りからは人が消える。声をかけてやろうとする心優しい無謀な勇者も、やがては消えた。

 積極的に輪に入らない。でも、はぶられてもいない。そんなポジションに俺はいる。

 どの高校に行ったって同じだっただろうけど、現在の俺が通う高校はここなので、どうしてもこう思ってしまうのだ。

 こんな高校、来なけりゃ良かったと。

 こんなことを思ったって何一つ変わりはしないし、やっぱり俺はこうやってごろごろと本を読んでいるだけなんだけど。

 土曜日の午後は過ぎていく。

 カーテンをぴったりと閉めているため、昼間から煌々と電気をつけている。お陰で快適なことこの上ない。だから外になんて出ない。暑いし。

 言い訳みたいに頭の中で呟いて、本を読み進めていた。昼前から読み始めた厚手の文庫本は、もう半分も残っていない。さてこれを読み終えたなら、今日とおよそ変わりない一日になるであろう日曜日をどう過ごせばいいのか、考えなくてはならない。

 今日のうちに新しい本を買いに行くべきか、はたまたしばらく読んでいない古い本を読み返すか。

 そんなことを思案していると。

「梓ー」

 ………名前を呼ばれた。

「梓?ちょっと降りてきて」

 一階で母上が呼んでいるようだ。やれやれ、召喚されてしまった。

 今行くよ、と返事をして、俺は読みかけの本に栞を挟むと枕元に放り出した。むくりと起き上がって伸びをする。

 何か手伝えと言われるのだろうか。まあ、どうせ暇だし別にいいのだが。

 ベッドから降りる仕草は、自分でもそうと良く分かるくらい面倒くさそうだった。髪の毛をわしゃわしゃといじりながら部屋を出て、階段を下りる。

 梓。

 枳殻 梓。

 俺の名前だ。父方の祖父がつけてくれたらしい、俺の名前。

 だからどうってわけでもないけど。ああ、どちらも植物の事じゃんか、くらいは思ったこともあるのだが、自分の名前に文句を付けるような人間では、無いのだ。ひとまず俺はそう自負している。

 そんな全くもってどうでもいいことを考えながら、階段を下りる。廊下はむわっと暑かった。さっさとリビングに入ってしまおう。暑くてかなわない。

 ぬるくなった金属のドアノブを回して、リビングへと通じる扉を開く。中から冷たい空気が漏れてきた。

 …………おや?

 疑問を感じたがともかく一度仕舞い込んで、冷気を逃がさないようにしっかり扉を閉めてから、もう一度リビングを見渡して思う。

 …………………おや、珍しい。

 土曜日なので父は家にいる。ソファーに座って、手に持っていた新聞紙を読む訳でもなく持って、処理に困ったように少し腰を浮かせていた。まあ、それもそのはず、背の低いテーブルを挟んで父の正面には、父方の祖父と祖母が座っていた。

「ああ、梓君、久しぶり。大きくなったねえ」

 親戚の常套句を言ったのは腰の曲がった、いかにも可愛いおばあさんといった雰囲気の祖母だ。

「うん、久しぶり。大して背は伸びてないけどね」

 俺にしては愛想良く言って、台所へと向かう。背を向けていながらも、祖父と祖母が笑顔で俺を見ていることが分かった。唯一の孫である俺は猫可愛がりされているのだ。俺とてそれを鬱陶しく思うほどドライではないし、悪く言えばその好意を利用する形で時折臨時収入を得ているのだから、鬱陶しく思えるはずもない。空から降ってきた突然のセールスチャンスである。無駄には出来ないのだ。

 母親は大きめの皿を出して、その上に丁寧にお菓子を並べているところだった。その脇をすり抜けるようにして食器棚からグラスを取り出し、冷蔵庫から出したばかりでよく冷えた麦茶を注ぐ。

「梓、ちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶した?そういうとこちゃんとしないと」

「したした。したよ」

 勿論だ。

 心の中で一言付け加えて、台所を脱出する。リビングと繋がっているからさして温度に違いはないはずなのだが、やはり狭い所為か心なし暑い気がする。

 どこか居心地悪そうにもぞもぞしている父親の隣に座って、ひとまず麦茶を一口。

「それにしたって久しぶりだねえ。前会ったのはいつだった?」

「前は……確か正月だったかな。それ以来」

 祖父と祖母の家は、俺の家からはどう頑張っても近いとは言い難い。北東の方向へ行き、県境を越えるのだが、これがなかなか到着まで時間がかかる。そう容易に行き来できる距離ではないのだ。よって、頻繁に行くことも出来ない。精々盆と正月に遊びに行く程度だ。

 まあ何というか、少し暇だから土日にアポ無しで来るというのは滅多にない……というか前代未聞な訳で。

 何も用事がない……なんて事はないだろう。寧ろ大切な用事があって来たとみるのが正解だ。

 手にしていた麦茶の入ったグラスをテーブルに置く。祖父と祖母と父の分のグラスは、既に水滴が伝っていた。

「ええと……それで、今日はどうした?」

 俺からはもう話す気がないとみて、父がおずおずと切り出した。

「どうしたって言われてもなあ……。梓が高校生になってから一度も会って無かったと思ってな」

「しかし……」

 冗談めかして言った祖父の顔を見て、当然父は不満そうだが言葉尻を濁した。

「なら、畑はどうしたんだ?」

 父の言葉に俺は心の中で頷く。

 祖父と祖母は果樹園を営む。収穫の時期ではないとしても、毎日仕事が尽きることはないし、一日中放っておくのはリスクが大きすぎる。

「お隣の孫が結婚したらしくて、旦那さん連れて帰省してきてるからね。人手が余ってるって言うんで最低限は頼んできたよ」

 何とも用意周到な事だ。

 にこにこして一向に答えようとしない二人の愛すべき老人を前にして、父は途方に暮れ始めた。

 その時、丁度母がお菓子を盛った皿を持ってやってきた。この状況では、父にとっては救世主だろう。あくまで父にとってであって、知らぬ存ぜぬを決め込んだ俺にとってはそうでもない。

「あらあら、お構いなくって言ったのにねえ」

「まあおばあちゃん、そんな訳にいかないもの。うちの馬鹿がいつも迷惑かけてますしねー」

「そんな事はないのよ。梓君お行儀良くて」

 俺のことかよ。ばあちゃんの言う通り、とっても行儀いいだろうに、何が馬鹿だ。

 ……セールスチャンスでヘマをするものか。外面はいいんだよ、外面は。

 どうぞどうぞ、とお菓子を一通り勧めてから、母はにこりと笑って祖父と祖母に本題を切り出した。

「ところで、いきなりどうしたの? 来てくれて嬉しかったけれど、少しびっくりしたわ」

 父がうんうんと頷いている。

「いやなに、少し家の事で話があってな」

「……家?」

 祖父の言葉に、父がほんの少し身を乗り出した。

 まあ、土地のことなら俺には関係ないな。

「家ったら……枳殻の?」

 そりゃあ苗字が枳殻なのだから枳殻の家に決まっているのに、父はわざわざ確認した。しかし祖父は訝しむ様子もなく頷く。

「なんでまたいきなり枳殻の家のことを言い出すんだ……?」

「ここ最近、誰のものでもなかったからな…そろそろいいんじゃないかとなぁ」

 話が読めないんだが。

 ふと目だけを動かして盗み見ると、母も首を傾げて怪訝そうにしている。土地の話なら母が知っていそうなものだが…

「だから、梓ならどうかと思ってなぁ」

 …待て待て爺さん。

 どうしてそこで俺の名前を出すんだ。折角知らぬ振りを決め込もうと思っていたというのに。

「と言うのも、家から便りが来てな、そろそろ誰か入った方がいいと」

「なるほどな……それで梓か」

 親父も頷いてるんじゃねえよ。

 いい加減聞いてない振りも限界で、まさに口を挟もうとしたとき、やっとこさ我が母上が会話に入ってきてくれた。有り難い。

「ちょっとちょっと、梓がどうしたって?言っときますけどおじいちゃん、こいつ、さっぱり役になんか立たないんだからね?」

 一瞬でも有り難く思った俺がバカだったぜ。なんて言い草だよ、おい。

「いやいや、こればかりは梓じゃなくちゃなあ。家のご指名だし」

 家が指名なんてしないだろうに、祖父はやけに楽しそうに言う。

 俺は呆れたような顔を作って、氷が溶けて些か水っぽくなった麦茶を口に含んだ。祖父は父親と何故か頷きあっているし、祖母は背を丸めて(まあ元来丸まっているのだが)にこにこと笑っている。

母親といえば……必死に何かを思い出そうと奮闘していた。忘れっぽい母のことなので、スルーしておく。

 それから数分の沈黙の後、不意に母親が顔を上げた。

「家ってさ……」

 ……言い掛けてやめるか。

 心の中で思わず突っ込みながらも、俺は表面では、相変わらずどうでも良さそうな、心底興味のなさそうな顔で明後日の方を見た。

「家ってさ…んー…ずっと前にお父さんが言ってたやつだっけ。古い家がどうたらこうたら」

「それだよ。…まあ、枳殻の家をどうたらこうたら扱いってのは微妙に頷けないけどなあ」

 父は思わず苦笑している。

 正直、親や親戚が土地の話をしていようが、何の話をしていようがあまり関係ない。知らぬ存ぜぬで通せばいいわけだし、大したことでもないのだ。精々枯れ木も山の賑わいよろしく置物と化しているのが常だ。

 これで、俺の名前さえ出なければなぁ……

 心の中で頭を抱えていると、今まで様子を見守って微笑んでいた祖父が口を開いた。

「そういうわけだから、梓、住んでみないか」

「……はい?」

 何に?どこに?は?

 一体どこをどうすればそんな支離滅裂でぶっ飛んだ流れになるんだ?いや、まずいきなりなんなんだ?住むって?どこに住めと言うのかしっかり明かしてくれないと会話にならないって。

 突然、じかに火の粉が降りかかってきて大混乱である。

「…まあ、俺も別に良いと思うけどな。どうせ指名されてるわけだからな」と、父。

「住むって?あの何とかの家ってとこに?」と、母。

「梓君なら大丈夫」と、祖母。

 涙が出てきたぜ。どういう流れだよ。説明しろっていうか、そもそも何の話をしてるんだよ。

 急展開もいいとこ過ぎる。

「待て待て、俺は何の話をしてるかすら一切把握してないんだぞ。住むとか何とか知らないけど、まずは俺にも分かるように説明するのが先じゃないのか」

 クーラーから出る風がヤケに冷たい。軽く鳥肌が立った。麦茶の入ったコップはもう水滴だらけで、テーブルの上はとうに水浸しだ。

 祖父と祖母は、何故かもうすでにやりきった感満載の顔で椅子に深く座り直している…ので、仕方が無いなあと言わんばかりに父が身を乗り出した。

「うちの家系…枳殻家だが、枳殻家は代々、とある歴史ある家を保護しているんだよ。住んでいるってことじゃなくて、管理人みたいなものかな」

 ……ふむ、その古い家が枳殻の家なのか。しかし古いとは……

「古いって、どのくらい前からあるんだ?」

「詳しい資料なんかは残ってないな。ただ、江戸時代にはもうあったんじゃないかって話だ。それでも建築様式はそこまで古くもないのが驚きなんだが。…とにかく、家には枳殻の人間は基本、初代以外は家主になっていない。管理人と家主は違うんだ。管理人は代々枳殻の人間が務めて、家主が現れるまで家を管理する。家主が現れたら、家主は当然家に住むから、管理人である枳殻の人間は家の権利を全て家主に渡す。そして何らかの事情で家主が居なくなったら、次の家主が現れるまで管理人が家を管理するんだ」

 何だかヤケに面倒だな。管理しているのが枳殻の人間なら、枳殻の人間が家主になればいいじゃないか。そうすれば、権利がどうとか、そんな話は出てこない。

 そう父に言うと、父は当然のように頭を振った。

「家主に、勝手にはなれないんだ。家が選ぶんだ」

 祖父が今さっき言った言葉が蘇る。

 俺が選ばれた、と。

 家に選ばれたと。確かに祖父はそう言っていた。さっきはそんな馬鹿なことがあるものかと思っていたが……今は、笑えない。

 家が選ぶ?んな馬鹿な。

 うん、相変わらずそんな荒唐無稽な話を信じてはいない。家は家、あくまで住居だ。人間の建造物だ。意志など持たない。となれば、選んだのは、家に住んでいる人間。

 枳殻の人間は管理人であって、選ばれない限りは住まないと言っていた。それはいい。家主が選ばれたら、一切の権利を一時的に譲渡すると言っていた。それもいい。

 だが、家主が1人で家に住めとは言っていない。第一、今管理人役を務めているのは祖父と祖母だろう。枳殻の家がどこにあるのかなんて知らないが、この二人は年も年だし、果樹園の仕事がある。並行して古くて普通の家より多くの手間を必要とする木造住宅を管理するのは、現実的に考えて不可能だ。となれば、家に管理する人間が住み込みで手入れをしていると考えるのが普通のはず。

 家が選ぶ……という到底有り得ない言葉も、その住み込みで手入れをする人間が、家主を選ぶ決定権を握っているという意味にとれなくも……無いようなやっぱり無理なような。

 まあ、俺の残念な脳味噌で想像出来るのはここまでだ。だから、そういうことにしておく。じゃないと頭が痛いぜ。何だってこんなに難しい話になったんだ。

「……それで?結局何なんだ。簡潔に言ってくれないと分からないぜ」

 そろそろ俺も限界だ。

 この時の俺の考えとしては、ここでさらっと話の結果のみを話してもらって、ふんふんなるほどなと流して別の話題に変えてしまおうという、なんとも浅ましい魂胆だった。到底無理な話なのだが、日常的に小難しいことを考えることに慣れていない俺は、とにかく何でも良いからこの話を終わらせてしまおうとしたのだ。

「まあ一言で言うと、その家に住んでみないかって話だ」

「…誰が?」

「梓がだよ」

 ……え、マジかよ。まさかの、一家で引っ越しか?

「引っ越しなんてしち面倒くさいことは嫌なんだが。じゃ、今住んでるこの一軒家はどうするんだ」

「梓……当然、一家で引っ越しなんてしないさ。お前が1人で、枳殻の家に住むんだよ」

「…冗談だよな、父さん」

「冗談なもんか」

 急に頭痛が。

 俺が、1人で?冗談だろ?一人暮らしなんてしたことないし、第一俺はまだ高校一年生だ。

 まさかこんな窮地に追い込まれるとは。

 何としてでも回避せねばなるまいだろう。こればかりはいくら何でも不可能だ。

 祖母はさっきから、自分の麦茶のコップに付いた水滴をいじっている。祖父は息子の説明に満足したのかご満悦だ。

「…母さん、何とか言ってくれ」

 さっきまでは父の救世主だった母は、遂に俺にとっても救世主となるのだろうか。

「んー…その家、どこにあるの?」

 おお、もっともな疑問だ。これは期待できる。

「じいちゃんばあちゃんの家がある方に向かって、過ぎるんだよな。車で二時間…三時間かな。山に囲まれた盆地で、名前は風向市だよ。隣町は、確か浅木沢市だったな」

 浅木沢なら聞いたことがある。かつて大層人が沢山いた街だったらしいが、今となっては廃墟と化したビルが目立つと聞く。その街と比べれば、風向市の方が僅かながらも都会に違いない。

「ふぅん。これで飛行機を使って行くようなところならアレだけど、かかって車で三時間かぁ……あんた、行ってくれば?」

「母さん、俺に言ってんのか?」

「当たり前でしょ?あんたの話なんだから。第一あんた、だらけすぎなのよ。ちょっとキツい生活すれば怠惰癖も何とか改善されるんじゃない?」

 そんな酷過ぎだろ…。行ってくれば?みたいなスーパーに行くノリじゃねぇんだよ!

 ああ、母親に頼った俺が馬鹿だった!

「じゃ、決まりだな、梓」

 決まりじゃねえよ、父さん。

「大丈夫。梓君なら」

 何を根拠に言ってるんだよ、ばあさん。

 ……ああ、万事休す。完敗だ。こうなったら、俺を指名しやがった住み込みの管理人とよろしくやるしかない。まあ、完全なる一人暮らしよりはマシか。

「……で、家には俺以外にどんな奴が住んでんだ?」

 声はブルー一色、暗く沈んでいることが自分でもよく分かる。学校は転校する事になってしまうのだろうが、大して悲しくも惜しくもない。通学時間が短くて済むところに高校があることを祈るばかりだ。

 がっくりとうなだれた俺に、祖母の容赦ない一言が降り注ぐ。


「枳殻の家には、誰も住んでないけどねぇ……」


 死にてえ。



 こうして俺は、夏休みに入ってからたった1人で引っ越しをする事になった。ここまで絶望を味わったのは人生で初めてだろう。

 新たな住居で出会ったのは、どうにも理解しがたい出会い達だった。

 俺の、安寧の半孤独は、終わりを告げる。

プロローグはとうに終わっていますが、第二のプロローグのようなものです。まだ、何も始まっていませんし!


全てこれからです。


これから、色んなものと絡んでいければと思います。


それでは、本格的に話が始まる次話でお会いしましょう。

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