序曲 荒野で出会った少女
果てしなく続く荒野を少年は歩いていた
自分が何者なのかも分からずに歩いていた
時々見える影に怯えながら
やがて疲れたのか少年は歩みを止めて座りこんだ
自分が何者でここがどこなのか分からなくてもいい
ただ一人は辛い、誰でもいいから人と会いたい
せめて、人に会いたいのだ
少年は眠気に身を委ねて目を閉じた
次に目覚めた時に夢が終わっていますように――
どのくらいの時間が経ったのだろうか?
少年はふと目を覚ました
夢じゃないのか―
絶望とともに少年の中に小さな決意が生まれた
こうしちゃいられない
歩こう
立ち上がると少年は歩きだした
五分くらいだろうか
目を凝らして前を見ると人影らしきものが近づいてくるのが見えた
人だ
少年は喜んだ
だがしかし、冷静になって考えてみる
はたしてこんな所を歩いてる人が自分にとって害が無いとはいいきれるだろうか?
ならば逃げるか?
否、今さら逃げても追い付かれるだろう
ならば覚悟を決めよう
そう考えていると人影は目の前まで来ていた
そして姿を確認する事が出来た
女の子?
自分と同じくらいの年、そして感情のない目
緋色の目
その目は綺麗でいつまでも見ていたい、そして恐怖すらも覚えた
少年は動けずにその目に魅入っていた
どうしよう、何か話さないと
しばらくの沈黙
先に口を開いたのは少女だった
「あなた、だれ?」
「えっ?」
突然の質問に少年は戸惑った
答えられるはずがない
何故なら記憶が無いのだから
やがてそれを察したのか少女は呟いた
「そう。 あなたも同じなのね……」
「え? 君も?」
少年は目をパチパチさせた
「記憶がない 自分が何者でここがどこなのかも分からない」
「そっか、お互い大変だね」
よかった
自分と同じような子が居て
不謹慎ではあるが少年はそう思わずにはいられなかった
だから油断していたのかもしれない
そこからが本当の
「だけど―」
「えっ?」
「だけど大変なのはこれからみたい」
「何を―」
始まりなのだと
序曲 ―完―