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偽悪者な僕は男の娘!?  作者: 魔桜
高校生編~Bパート~
35/50

食堂は貸切状態!(下)


「だったら、僕のこともちゃんづけで呼んでもらうの、やめてもらってもいいですか? その呼ばれ方だと義姉さんと被って紛らわらしいんですよね」

「もみじちゃんって、おねえさんがいたの?」

 人の話を聞かないところも、そっくりなんだよね。僕は肩を落とす。

 これ以上無駄に脇道に話が逸れないように、茜義姉さんの話題にならないように、仕向ける。家族の話はどこか気恥しい。

「ええ。そ、そんなことより僕の呼び方を変えてください。もみじちゃん以外ならなんでもいいので。そうしてくれたら、寮長さんのことも、名前で呼びますから!!」

 うーん、とわざとらしく人差し指を唇の前に持って行って、寮長さんは思案顔。

 視線は宙を漂ってはいるけれど、左手でデザートのヨーグルトを手繰り寄せている時点で、僕のことをまともな呼び名で呼称してくれるか怪しいものだ。

 僕は今のうちに、残っていたカレーを不作法ながら口の中にかっこむ。

「そうだ! じゃあ、もみじんでいいわよね! なんかもみじんって、たまに男の子っぽいしところあるし!」

 ぶっ、と口に含んだカレーを寮長さんの綺麗な顔にぶつける寸前で、なんとかこらえきることに成功した。僕は苦しみながらなんとかのどに押し込むが、食べ物が気管に入り込んだのかむせ返る。

 み、みずっ!!!

 必死の形相でお椀を口の上でひっくり返すが、何も溢れ出してこない。

 しまった、さっき全部飲み干したばっかりだった。

「もう、どうしたの? もみじん。しょうがないわね~、私がついであげるわよ」

 ポットに入っていたお茶をプラスチックに注いでいくが、その動作が遅い。

 寮長さんの優雅な仕草には見惚れるが、その美点は今となっては仇となっている。

 はい、どうぞと手渡されたお茶を喉に押し込んで、ようやく落ち着く。

「もみじん。どうしたの、いきなり。大丈夫?」

「はあ、はあ。寮長さん。そ、そのつかぬ事をお聞きしますけれど、男っぽいってどういう意味でしょうか!?」

「……寮長さん?」

 寮長さんが口を閉ざしたまま、じと目で睨んでくる。

 僕ははっとする。

 もしかして、今度は僕に他の呼び方で言えという無言の合図なのかな。なんと呼ぶか熟考するが、何も思いつかない。

 えっーと、どうしよう。

 焦れた寮長さんがヨーグルトを開けて、食べ始めたのでつられて僕もプラスチックのスプーンを手にとる。

「……もしかして、『寮長さん』っていう呼び名が定着しちゃって、私の名前忘れっちゃったとかないわよね!? 私の名前は綾城茅。最初から『ち・が・や』で呼んでって言ってるじゃない」

「ま、まさかそんなことないですよ。茅さん」

 ようやく得心してくれた茅さんには悪いが、そのまさかですっかり頭から抜けてしまっていた。

 脇に嫌な汗をかきながら、後頭部に手を当てて誤魔化すように笑う。

「……それより、男っぽいってなんですか!?」

「んー、だってもみじんって、担任の先生に半期を翻した時に、凄く男っぽかったじゃない。目つきも険しくなって、やってることが男前だった……っていうかそんな感じ。まあ、例えるならタチねタチ」

「タチ……ですか!?」

 タチってなんだろう? ……太刀かな!? でも、どうしていきなりそんな単語が飛び出してきたのかが分からない。

 うんうん、と訳知り顔で頷いている茅さんには意味が聞けずに、僕もわかっている態で頷き返す。

 でもなぜか、僕を見つめたま茅さんが黙り込み、空白の時間が流れる。

 あれ? もしかして僕、対応の仕方間違えっちゃたのかな!?

 茅さんも、僕の反応が信じられないかのように瞠目している。 

 僕は一気飲みして空になった茶飲みを補給して、もう一度飲む。こうでもしないと、なぜかこの気まずい空気が耐えられなかったからだ。

 すると、ようやく茅さんが躊躇いながらも、重く門扉を閉ざしていた口を開く。

「ねえ、もみじん……」

「はい、どうしましたか? 茅さん」

 どうも、この言い方には慣れないな。僕はお茶を口に含みながら、和やかな空気が流れるのを祈る。

「……今日、私と一緒に寝ちゃう!?」

 僕は今度こそ口に含んでいたものを、思いっきり噴いた。


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