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偽悪者な僕は男の娘!?  作者: 魔桜
高校生編~Bパート~
23/50

偽悪な教室!(上)


 窓から見える、澄み切った青い空。

 出来損ないの綿あめのように千切れた雲は、仲がよさそうに連なり、何重にも重なっているように見える。飛行機雲が真っ青な空に、ぎゅーんと、白い一筋の切れ目を入れている。

 というように空を呆けるように眺めるほど、陽気で温暖な空気は、頭の中を空っぽにさせる。

 そして、今は暇だー。

「はあ~、うぐぅ」

 生理現象である欠伸を、必死で噛み殺そうとする。机に突いていた肘を開き、教科書に口元を添える。御しきれなかった口の開きをそうして覆い隠したのは、教壇に仁王立ちする教師の、執拗な監視の目を欺くためだ。

 四月下旬、お昼ご飯後の五限目。

 担任の先生による英語の授業時間。

 入学当初の緊張感からも徐々に開放され、疲労がピークにさしかかる時間帯。しかも、空腹を満たすと異様に眠気が学生を誘惑してくる。

 特に、教科書の内容をそのまま黒板に写し、重要事項を色で分別しようともせずに、黒板を白で染め上げていくような、典型的なガッチリタイプの教師の授業となれば猶更だ。

「何か質問は? ……ないようなので次の設問にいきます」

 冷然と、生徒を突き放すような物言いは質問で、自分の予定を突き崩されてくない。……という想いが透けて見える。

 それを分かっているのか、分かっていないのか、みんな暗黙の了解のように机に噛りついたまま頭を上げることすらしていない。

 真面目に授業を受けている人間はごく少数。

 机の中に手を入れながら、携帯をいじったり、先生が何か発言していない時を見計らって、隣の人間と、飽きもせずに昨日話した会話と似通った噂話をしている人たちばかりだ。

 寮長さんに至っては、堂々と机に突っ伏しながら、微かに寝息を立てている。

 ちょっとした段差の上からなら、生徒の動向なんて手に取るように分かるはずなのだが、先生は諦観したまま授業を続けている。

 生徒が生徒なら、教師も教師だ。

 鶏が先か、卵が先か。

 生徒と教師の、どちらかが一方的に悪いわけではないと思う。授業に対する意欲が失せたのは、きっとどちらのせいでもあるのかも知れない。

 まあ、僕も真面目に受けてないから、おあいこなんだけど。

「す、すいません! 遅刻してしまいました!」

 教室のドアを開けて、平身低頭な様子で教室に入ってきたのは白鷺さんだった。

 教室に充満していた生ぬるい空気が、廊下の空気で心なしか循環されたような気がする。脳に新鮮な酸素が行き渡り、ようやく覚醒する。

「病院の診断書なんで――」

「ああ、いいからもう早く席に着きなさい」

 鞄から白い紙がちらりと見えたところで、先生は眼鏡を上げながら、腹ただしさを隠そうともしなかった。

「はい、申し訳ありません」

 きっちり頭を下げ終わると、小走りで僕の隣の席にそっと腰かけると、こっそり僕に笑顔を投げかけてくる。僕は、教科書を盾にしながら、いたずっらぽい微笑みを彼女に投げ返す。

 白鷺さんはこうして、ちょくちょく病院に通わなければならないらしい。

 午後から登校するのも、さして珍しい光景でもない。

 僕は体をすこしばかり斜めにしながら、顔はしっかり黒板に向けたまま。鞄から筆記用具を取り出している最中の白鷺さんに、そっと水を向ける。

「今日はずいぶんと遅れたんですね。体調は大丈夫なんですか?」

「はい、全然大丈夫ですよ。かかりつけの先生が、ちょっと過敏でいらっしゃるだけです」

「本当ですか?」

「本当ですよ」

 にこにこと笑みを浮かべるその様子に、嘘はないように見える。だけど、何か言いようのない胸騒ぎがするのは気のせいだろうか。

「白鷺さん、重役出勤の上、いきなりお話とは、ずいぶん余裕なのですね。だったら、前に出てきてこの問題を解いてもらえますか?」

 僕は小声で「ごめん」と謝ると、「いいえ、私が遅れてきたのがいけないのです」と白鷺さんは健気に首を振ってきた。

 ああ、胸騒ぎの正体はこれだったのか。

 もう一度だけ頭を下げようとすると、「早く壇上に上がりなさい!」と先生の叱咤の声が上がる。

 これ以上火に油を注がないよう、白鷺さんは教科書を持って駆け足。

 黒板に書かれている英文の長文を、日本語に訳す問題にさっそく取り掛かかる。

 だけど――。

「わ、わかりません」

 チョークを持ちながら、棒立ち状態。

 半分ほど訳したところで、白鷺さんの手は止まってしまった。

 答えられないのは当たり前だ。

 白鷺さんは授業をちゃんと受けられていない。それに、あの問題は少しばかりおかしい。

 消え入るような声で、白鷺さんは先生に縋りつくような目線で見上げるが、先生は知らんぷりで腕組みをしたまま。

 えっ……と、もう一度白鷺さんは困惑したまま同じ言葉を重ねると、ようやく先生は我関せずの態度を崩し、白鷺さんとの距離を縮める。

 はあ、よかった。聞こえていないだけだったのかな。



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