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スラムコード

怨讐少女 スラムコード/クラスレジーム OUT組

作者: 凛1129
掲載日:2026/09/30


「今日は新しく転校生を紹介します、入って」


 天井では大きな金属羽根の送風機が低い音を立て、壁際の校内放送機には橙色の小さな灯りが点いていた。

 教室へ足を踏み入れた途端、クラス中の視線が刺さるように向けられた。

 それは決して、転校生への好奇心に目を輝かせているようなものではない。


 教壇側から生徒たちを見渡せば、一目瞭然だった。私を牛耳ろうと品定めしている者、特に興味はないが周囲に追従する者、そして最初からその輪に入れてもらえていない者。


 日が長くなり、昼間なら窓を開けていても寒さを感じなくなってきた時期だというのに、教室の空気だけは妙に冷えている。


「ネラ・メイリックさんです。みんな仲良くしてくださいね、では歓迎の拍手」

 拍手も疎らだ。どうやら私の転校理由は既に知られているらしい。

「ネラさん、みんなに挨拶できる?」

「私の席はあそこですか?」

「え、ええ」

 私は黙って席へ向かい、そのまま座った。

 教師は戸惑っていたが、やがて諦めたように授業を始める。

 これから起きることは分かっている。

 歓迎ではなく洗礼。そんな連中を相手に挨拶なんて御免だ。


 この初等学院には、罪を犯しても裁けない年齢の子どもも多く入っている。私もその一人だった。

 戦争によって町は荒廃し、孤児と犯罪児童が残った施設へまとめて押し込まれている。この学校で教わる程度のことに興味はなく、私は本を開くと、その日の授業が終わるまで読みふけっていた。


「転校初日から難しそうな本を読んで授業も聴かねえ。お前いいご身分だな? 転校生」

 放課後、早速このクラスの男児が私の席へやってきた。

 後ろでは女児が四人、こちらを見てニヤニヤしている。

 あれがここのボス女か……。


「お前、殺人でここに来たんだろ? 普通子どもが殺しなんてするか? このサイコパス転校生が!」

「なんだ? 怖いのか? こんな小さい女を」

 私は男児の顔を下から見上げ、笑って見せると周囲の空気が変わった。

 後ろで笑っていた女どもから笑みが消え、男児たちも露骨にこちらを睨み始める。


 すると、そのさらに後ろにいた一回り図体のデカい男児がやってきて、私の机を蹴飛ばした。

「ここでは、罪を犯して入ってきたやつは事件のことを話すのがルールだ。男も女も罪を犯したやつは変わらねーし、殺しだろうがここに入ったら通用しねーよ?」

 男児は私の胸ぐらを掴み、椅子から強制的に立たせた。

「政治的戦略だ。答えたぞ? 理解できる頭を持っているかどうかまで、私は責任持たんがな」

「な、なんだとぉ? このクソガキ!」

「そろそろ、その汚い顔を離してくれないか? 育ちの悪い口臭は耐え難い」


 次の瞬間、拳が顔面に入った。

「ガデムさん! イキナリ女に顔面はヤバいっすよ」

「うるせー! ここのルールをきっちり教えてやる必要があんだろ? それが俺たちだろ?」

 ガデムと呼ばれた男児は怒りが収まらないらしく、倒れた私の腹を数回蹴りつけてから、他の児童たちと教室を出ていった。


 ◇


 施設へ戻ると、腫れた顔を見た職員がすぐに駆け寄って事情を聞いてきたが、無視して部屋へ戻った。

 話したところで解決するわけもない。教師へ話が回ったところで、子ども同士の揉め事として穏便に処理されることは分かりきっていた。


 夕食時になると、事情を知ったテオが頼んでもいないのに食堂で話しかけてくる。


「聞いたぜ? ガデムにやられたんだってな? その顔」

「……」

「アイツは立ち悪いからな。一個下の俺たちもめんどくせー奴だと思ってんだよ。ネラのクラスは特に犯罪者が多いからな。仲良くなるには時間が必要だぜ?」

「私はお前とも仲良くなった覚えはないがな」

「おまっ、そー言う事言う? 同じ施設のよしみで親身になってやってんのに」

「私がこの施設に来たのも一月前だろ」

「相変わらず可愛気がねーの。まあ、なんかあったら施設軍団で助けに行くからよ。気軽に言えよ」

 テオはそう言い残し、食べ終わった食器を片付けに行った。


 ◇


 翌日、学校へ行くと机の中は早速ゴミだらけになっていた。放課後に起きたことは既に広まっているらしく、初日よりさらにクラスの児童との距離が開いている。

 こちらとしては面倒が減ってせいせいしているのだが、お節介を焼く者も中にはいた。


「ガデムに逆らっちゃダメだよ。あと、後ろにいつもいる女、クリスがガデム操っているからね」

「あんたは?」

「ああ、私はマリー。よろしく。一応、中立な立場のつもりだから安心して」

「中立?」

「私は戦争孤児だから、ここに五年通っているのよ。簡単に言うと、そんな感じで別れているの。孤児組と……」

「気にするな、続けてくれ」

「ええ、アウト組と呼ばれているの。これは先生側がなんとなく分けているからだと思う。孤児組に手を出すと処罰されるからかな。メンツって言うのかな? 逆にアウト組同士は放っておかれるというか」

「だから中立?」

「そう。派閥に属さない、けど良くしようと……違うな。アウト組のルールは害さないって言うのかな」


 マリーの話では、犯罪を犯して入ってきたアウト組は完全な縦社会で、力がそのまま序列になるらしい。

「では、なぜクリスはこのクラスを牛耳っているのだ」

「それは……」

 言葉を濁したマリーの様子だけで、なんとなく察しはついた。

「恋人関係か」

 そう聞くと、マリーは恥ずかしそうに肯定した。

 他の女どもより妙に大人びた雰囲気を持つクリスを思い出せば、その関係性は理解できる。


 話している間も、ガデムとクリスはこちらを見ていた。それでも邪魔をしてこないところを見ると、マリーの言う「中立」という立場には、それなりの効力があるらしい。

 ただ、教師が子どもたちを孤児組とアウト組へ厳密に分けて管理しているわけでもなさそうだった。

 線はある。

 だが、その線を守っているのは教師より子どもたちの方なのかもしれない。


 ◇


  この学校で唯一よいところは、図書室に雑多なジャンルの本が揃っていることだった。

 紙の本だけではなく、戦前の新聞や行政記録を縮小撮影したフィルムも残されている。机ほどの大きさがある閲覧機へフィルムを通し、白く光る画面へ拡大して読む代物だ。


 調べてみれば、この初等学院は元々、低年齢の問題児を預かる自立支援施設として運営されていたらしい。

 ところが戦争によって多くの行政施設が破壊された。

 残った施設へ孤児と低年齢の少年犯罪者をまとめて入れ、そのまま教育まで担わせるようになった。

 多くの犠牲者を出したことで、大人の数も全く足りていない。

 初等学院と中等学院が同じ敷地に併設されているのも、ここにしか大人数を収容できる土地と建物が残っていなかったからだった。


 戦争勝者の国であっても被害は甚大だ。

 昔のように、学校の授業を聞いていればそれなりに大人になれた時代とは違う。

 幼いころから教育には厳しかった私の家でも、ここまで学校そのものが崩れる未来までは想定していなかっただろう。


 授業は恐ろしく簡単だった。

 現在行っている内容は掛け算だが、それはアウト組だけだった。授業が始まると学力に合わせて三つの班に分けられる。

 アウト組には、まともに教育を受けていない者が多い。そのため年齢に関係なく、低年齢向けの内容から始めるのが習わしのようだった。

 窓の外では厚い上着を脱いで校庭を走る児童が増え、授業が終わる頃になっても外はまだ明るい。

 テストも五分ほどで解き終わった私は、腕を組んで机に伏せた。


『ネラちゃんは将来どんな大人になりたいの?』

『えー私? 多分お父さんみたいな政治家にさせられると思うよ〜? 私んちきびしーから』

『ネラちゃんちきびしーのぉ?』

『うん。学校の速度じゃダメだーって言って、帰ってからも勉強ばっかさせられるよ〜』

『うわー。ヤダなぁ〜。勉強ばっかさせられるのー』

『そんなことないよ。うちにくるせんせーたちはね。面白い人ばっかだから、たのしーよ。人の心理とかね、対話術ってのもあるの』

『しんり? なにそれ?』

『そうだなぁ……』


 ――――――――――


「はい、テストそこまで。終わってない人もそこでやめてください」

 教師の声で目を覚ました。

 夢か……随分と昔の……。

 平和だった頃のことが夢に出てきたことを、私は少し情けなく感じた。あの頃の自分と今の自分を比べても意味などない。

 

「おいネラ、そろそろみかじめ料だせよ?」

 ガデムの子分らしい男児が席へ来ると、私のパンを掴んだ。

 この学院では十分な量の食事は与えられない。

 施設でも決して多くはないが、それ以上に学校で出される食事は粗末だった。

「みかじめ料? なんのみかじめだ?」

「ここを仕切っているガデムさんに渡すのは当たり前だろ?」

「管理された覚えはないのだが? お前、意味も分からず使っているだろ? その言葉」

「う、うるせー。生意気なんだよ! いいから寄越せ」

 男児はそのまま私の食事を奪っていった。

 周囲を見渡せば、何人かの食事も同じように取り上げられている。

 嫌々渡す者もいれば、抵抗することを諦めている者もいる。

 全員ではないところを見ると当番制のようで、奪われていない者が仲のよい児童へ少しずつ分けてやっている姿もあった。


 ここにも序列がある。

 その序列によって腹を満たせる者と、空腹に耐える者まで分けられていた。

 子分はガデムのところへ戻ると何かを指示され、再び私の席へやってきた。


「お前は、みかじめ料、毎日、全部だ。変な反抗するからだ」


 今度はプレートごと持っていかれた。

「施設軍団なんか呼んでも無駄だからな」

 ガデムの腰巾着は捨て台詞を吐くと戻っていった。

 ガデムの前には、大量のパンと果物、肉が集まっている。

 主に食べているのはガデムとクリスだった。


 食べ切れるのか……?

 そう思える量であった。


 ◇


 ある時、マリーが席へやってきた。

「ねえ、大丈夫? 毎日食事取られて。誰かに相談したりしている?」

「いや……」

「そっか。アイツら立ち悪いからね。多分、中等部の人の所に行かないと終わらないよ。これ」

「中等部?」

「うん。アイツらのさらに上の先輩。中等部と仲良くなると食事を取られたりしないのよ」

「仲良く?」

「そう。それだけじゃなくて、イジメもなくなるんだよ。そうすればネラちゃんも平和な学院生活が送れるようになるよ」

「……」


 マリーはそう言うと、孤児組へ戻っていった。

 中立を名乗るわりには、随分と詳しいものだ。


 ◇


 ある日、孤児組の女児たちから騒がしい声が聞こえてきた。

「えー、なにこの手紙。マジで誰なのよ」

「三人、中等部の体育館裏に行かないとって……」

「こんなの……アウト組の誰かが?」

 私は本を読みながら、そのやり取りを聞いていた。


 やがて孤児組の中にいる学級委員の男児、ミハイルが代表してガデムへ聞きに行くことになった。


「君たちかい? こんな手紙をカリーナの机に入れたのは?」

「はっ? なに言ってんだ? そんなもん知らねーよ」

 ガデムの腰巾着たちも、何のことか分からないという顔をしている。

「とにかく、こんなこと孤児組から出せない。君たちの要求を全部飲むことはできない」

「だから知らねーって言ってんだろが。痛い目みてーのか!」

 それ以上の話にはならず、ミハイルは逃げるように孤児組へ戻っていった。


 ◇


 翌日、マリーが「おはよう」と教室へ入ってくると、孤児組の視線が一斉に集まった。普段ならすぐに話しかけていた女児たちもよそよそしく、誰もマリーへ近づかない。

 異変に気づいたマリーも大人しく自席へついたが、それを待っていたように孤児組は再び話し始めた。

 断片的に聞こえてくる話から、先日の手紙はマリーが書いたものだという噂が流れているらしい。


 早朝から教室にいた私は、その理由を知っていた。

 カリーナの机には、怪文書とは別に告発文が入っていた。

 そこには、犯人としてマリーの名前が書かれていた。

 マリーはガデムではなく、中等部の生徒と恋人関係になっている。

 その男から「女児を三人連れてこなければ関係を終わらせる」と言われ、三人を体育館裏へ呼び出すため怪文書を入れた。


 告発文には、そう書かれていた。

 もちろん証拠などない。

 それでも、孤児組の中に疑念を生じさせるには足りたらしい。


 ◇

 

 昼休みになると、壁際の配膳機から金属製のプレートが一枚ずつ押し出されてくる。戦時中に大量の兵士へ食事を配るため作られた設備を、そのまま学院で使っているらしい。

 私の食事は相変わらずガデムたちに取り上げられていた。

 食事を失った私の前へ、マリーが座った。

「ねえ、なんかあったのかな? ネラちゃん、なにか知ってる?」

「ああ、知ってはいるが、それをマリーに答えなくてはならない義理がない」

「えっ?」

「お前……ガデムの手下だろ? 孤児組と称して都合よく行き来する。私の情報を流しているのもお前だ」

「そ、そんなことないよー。先生たちもキッチリ分けているでしょ? そんな得のないこと態々しないって――」

「随分とおしゃべりになるな」

 マリーの顔から余裕が消えた。

 そして、そのやり取りを孤児組が見ていることも分かっていた。

 私は本を開き、それ以上マリーとは話さなかった。


 ◇


 それから数日経っても、机や教科書への嫌がらせは続いていた。

 いい機会なので教科書は捨てた。

 持っていたところで内容の水準が低すぎて不要だったし、お陰で鞄も軽くなった。代わりに読みたい本を詰め込み、授業中もそちらを読んで過ごした。

 学力については教師たちも既に把握しているらしく、特に咎められることもなかった。

 変わったのは、マリーについての情報を求めて、孤児組の児童が少しずつ私のところへ来るようになったことだった。

 今の標的はマリー。クラス全体がそうなっているが、確かな証拠はどこにもない。


 噂だけが真実として歩き始めている。


 やがてアウト組からも、窃盗などの軽微な犯罪を繰り返してきた男児が私のところへ情報を聞きに来るようになった。

 中等部が絡めば、ガデムにとっても都合は悪い。

 自分たちに覚えのない事件が広がり、それを理由に中等部から何かを要求されることを恐れているようだった。


 誰も互いを信用できなくなっていく。

 その代わり、どちらにも属していない私のところへ確認に来る者だけが増えていった。


 ◇


 一ヶ月も経つ頃には、私の食事が奪われることはなくなっていた。

 相変わらず他の児童からは持ち回りで取り上げられている。ただ、私から情報を得たい者が増えたことで、ガデム側も簡単には手を出せなくなったらしい。

 それでも、中等部から何をされるか分からないという不安は消えていない。


 そんな中、また怪文書が流れた。

《みかじめ料問題を解決すれば中等部の脅威は消える》


 廊下の窓から外を眺めていると、学級委員のミハイルとカリーナが私のところへやってきた。


「怪文書のことは、知っているね」

「ああ、聞いてはいる」

「どうしたら良いのかな? 君はアウト組の事情も詳しいだろ? ヤツラのみかじめ料はどうしたら収まるんだい?」

「……一個しかないな」

「あるの?」

 カリーナの声が明るくなった。

「犠牲者を出すことだ。食事に困った犠牲者を。それならば大人も動かざるを得ない」

「食事? どういうこと?」

 カリーナは意味を理解できずに聞き返してくる。

「簡単だろ? 腹が空けば人は衰弱する」

 私はそれだけ答え、教室へ戻った。


 ◇


 教師たちが動き出したのは、それから一週間後だった。普段なら教師たちは別室で昼食を取っているが、この日は食堂を離れられないらしく、自分たちの食事まで持ち込んでいた。

 その内容は、子どもたちのものとは比べものにならなかった。肉も果物もあり、量そのものが違う。

 数人の教師が壁際に立ち、子どもたちが食事を終えるまで見張っている。

 そして教師たちの前には、いつもの子どもたちの食事とは比べものにならないほど豪華なものが用意されていた。肉も果物もあり、量そのものが違う。


 二日前からマリーは学校を欠席している。

 犠牲者となったのはマリーだった。


 孤児組の者たちが、学校だけではなく彼女が暮らす孤児院でも食事を取り上げたのだろう。

 日頃から食料を奪われている児童がいることを知りながら、教師たちは見て見ぬふりをしていた。

 だが、実際に一人が衰弱し、学校へ来られなくなれば話は変わる。

 そして、その原因が食料不足だと知られれば、自分たちだけ子どもより豊かな食事を取っていたことまで隠し通すことはできない。

 ようやく、大人が動かざるを得ない事情ができた。


 ◇


 昼休みを知らせる電鈴が鳴り終わり、壁の放送機から雑音混じりの音楽が流れ始めた。


「こんなことを頼むのは柄じゃねーんだが、お前に一つ聞いてーことがあんだよ」

 私の席の前に来たのは、あのガデムだった。


 普段なら腰巾着を何人も連れ、隣にはクリスがいる。だが今日は一人だった。

 食堂にいる児童たちもその異変には気づいているらしく、騒がしかった声が少しずつ小さくなっている。


 私は返事をせず、食事を口へ運んだ。


「中等部の先輩にクリスが取られた。食いもんを渡せなくなったからだ。俺はおもちゃにされているクリスを救いてーんだ。なにか知恵はねーのか? お前、最近頭が良いって言われてんだろ?」


 辺りを見渡せば、確かにクリスの姿はなかった。


「ほう。やっとゴミが排除できたか」

「な、なにを言ってんだ? お前……」


 私の返事を聞いた周囲から、食器の音まで減っていく。

 以前ならガデムが声を荒らげれば、それだけで子分たちが集まってきたものだが、今日は誰も席を立たなかった。


「ガデムよ。前に言ったはずだ。頭が悪いと」

「最初の頃か? そりゃ俺だってそう言われたら……」

「そうじゃない」

「……ど、どういうことだ?」

「都合よく怪文書なんて生まれるわけないだろ」


 ガデムの顔から、クリスを失った苛立ちとは別のものが浮かび始めた。

「お、お前の仕業か! やっと犯人が分かったぞ。みんなにそれを――」

「言うがいい」

 私は食事の手を止めなかった。


「それで、お前の言葉を信じて、前のように飯を取られる生活へ戻りたいやつがいるのだろ?」

「な、なにを……」

 ガデムは周囲を見たが誰も何も言わない。

 孤児組も、アウト組も、かつてガデムの周りにいた男児たちですら動こうとはしなかった。


「それで、お前の女が戻るのだろう?」

「そ、それは――」

「何度でも否定してやるよ、ガデム。貴様ごときの知能くらい、アリを踏み潰すほど簡単なことだ。中等部? 所詮は子どもだ。その程度の者を相手に、好きな女も取り戻せないお前などな」

 ガデムは口をモゴモゴしている。

 不愉快なので私は目を食事に向け直した。


 怪文書の犯人を見つけたはずなのに、誰も自分についてこない。私を殴れば黙らせられた頃とは、もう何もかもが違っていた。


「……お前は……取り戻せるのか……」


「お前?」

 ガデムは何かを言い返そうとして、やめた。


「いや……ネラ……さん」

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