9話
「センパイ」
「どうした伊達氏、恋煩いか」
「ちがいます、これ二番に持っていくので、ドリンクお願いします」
「ああ、承知した、任せろ」
今日は明石と一緒のシフトだ。
接客中は明石も極力絡んでこない。
真面目気味に黙々と業務をこなしている。
腐が絡むとなると話は別だが。
閉店間近。客の居なくなった店内。
後片付けをしている最中、明石に話しかけられた。
「なんだか今日はそわそわしているようだな、伊達氏」
「おれがですか?」
「そうだ。説明すると、今日は特に笑顔が普段の1.5倍増し、そして何度も時計を見返している。それに何だか俺に優しい気もするんだが…」
「気の所為です」
とは言いつつも、今日は祝日で、昼間のみの営業だ。なので、この後伊達は予定を入れていた。
あと十分程で終わるため、時計をチラチラと見てはいた。
気取られるくらいわかり易く態度に出てたかな…気をつけよう。
「初めてのデートか…」
洗い物を終えた明石がぼやく。
食器を拭いていた伊達が、本気なのか冗談なのかわからない明石に、不服そうに訂正を入れる。
「違います、あと初めてって決めつけないでください」
「照れることはないぞ、相手がどんな人物か詳しく、イヤとことん教えてくれてかまわない。例えば一匹狼、チャラ男、転校生、保険医、もしくは生徒会で言うと誰にあたるかでもいい。…どれも捨てがたいな」
と脱線し始めた。
見当違いな方向へ向かう明石に、伊達はつい口を滑らせた。
「この後、久しぶりに会う人と約束をしてるだけです」
「ブフォッ、デ…デートじゃないか?!キタコレ」
「弟(みたいな人)です」
間髪入れずに伊達が言うと「そうか、弟か…」と一気に鎮火した。
もっと突っ込んで来るかと思ったのに、明石はそれ以上追及してはこなかった。
そういえば…先輩から家族の話、聞いたことないような…
ふと浮かんだそれは「閉めよっか」
という店主の言葉で何処かへ消えた。
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