8話
先日家に来た友人の伊達。
抵抗感もあったはずだが、服を着てくれとダメ元で頼んだら、案外あっさり承諾してくれた。
その後勉強してる最中、ふと伊達に
『意外と押しに弱いんだな』と言うと
『違う。七瀬くんだから』と見返され、…そうか、としか返せなかった。
見た目で遠ざかる人も少なくない中、いつの間にか近くにいる存在。
話す前は、ぼんやりとした印象しか無かったが、話してみると案外楽しい。
七瀬の趣味を知った時も「つくったの?ほお…」と感情の乗った表情をする。普段がややあれなので、見ていて面白い。
二人でいる時、無言で過ごすこともある。七瀬は趣味に没頭し、伊達は窓の外を見たり、寝てたり。
接していく内に気付いた。本人は自覚していないだろうが、時々、淋しそうだ。
七瀬はその瞳を見るのが嫌いではない。と言ったら何か色々誤解されそうだが。ほんの少しだけ魅入ってしまう。
伊達はよくぼんやりしている。
この前家に来た時もそうだ。
いつも眠そうに隈を携え登校してくる。
最近夢見がどうとか言ってたな、…それも関係あるのかもしれない。
礼は後日談と言っていたがそういうわけにもいかない。
一つは決まったが…
何がいいか、中にラベンダーを入れたサシェを作りながら考えこんでいると、ドアをノックする音で我に返った。
「兄貴、オレだけど」
「順か…どうした入れ」
ドアが開いて順が顔を出す。
「あのさ、この前の…服まひろが礼言いたいって…」
順の横からまひろが、ひょいと顔を出した。
「お兄さん、おじゃましてます」
「ああ、いらっしゃい」
「服、ありがとうございました。早速着て、じゅんくんとクレープ屋さんに行って来ました」
そう言ってスカートの部分を引っ張り見せてくる。
順が「おい、まひろ…、」といって止めようとしたが、服を着て喜ぶまひろを見て黙った。
「お、着てくれたのか。少しだけ見せてくれないか?」
そう言って作りかけのサシェを机に置くと、丸椅子を寄せて近寄った。
「もちろん!あ、おじゃましまーす」
そう言って入ると、くるっとまわってみせた。
「かわいいですよね、これ。ここのボタンもキラキラしててお気に入りです」
「はは、お世辞でも嬉しいな」
「お世辞じゃないですよ!順くんにも、似合うって言われて。…もう最高でした、今日はクレープも食べれて…見ます?」
これ、ここです!と、いつも以上に喋るまひろについ笑みがこぼれる。
そんなまひろを見たこともない顔で弟が見ていることにも。
幸せそうだ…。
二人から溢れ出るオーラに思わず七瀬もホッコリする。
それじゃあ、失礼しましたー。と言って出ていく順とまひろ。
帰り際に順がありがと、ぼそっと言って出ていった。
………あ、伊達甘いもの好きだ。確か
それから次の日の放課後、伊達を誘ってみた。
いつもより表情筋が豊かに、通常の倍にこにこする伊達に、誘ってよかったと七瀬は胸をなで下ろした。
店に着くと、伊達は真剣な表情で悩みだした。
さっきからずっとメニューの同じところに目線が行き来している。
七瀬は少し考えて提案した。
全部は食べれないから食べて、と伝えた後の伊達の顔。
ついさっきの顔を思い出して笑いそうになった。
抑えきれていなかったらしく、伊達に七瀬くんどした?と問われる。
「いや、…なんでも。あ、伊達、手出して」
「…?」
「それ、枕元に置くとよく眠れるらしいぞ」
「きれい…いい匂い」
ラベンダーの刺繍が施されたその袋に鼻を近づけてそう言うと七瀬を見た。
「もらっても、いい?」
「伊達に作ったやつだしな」
と七瀬は頷いた。
「大事に使う」
と伊達は存外穏やかな声で言うと、嬉しそうに微笑んだ。
「…おう」
「帰ろっか」
「…、ああ。…そういえば、この店。まひろちゃんに教わったんだ」
「え…!そうなの?」
「順とこの前の服着て、食べに来たらしい」
「そ、…そうなんだ…」
「写真も見せてくれたな…仲良さそうだった」
「…どんな風に、げふん」
「どうした?」
「…、んーん。」
帰り道を伊達と喋りながら歩く。
こころなしか、話を聞いている間、クレープが届いた時のように伊達の瞳が輝いて見えた。
伊達との時間はあっという間に過ぎてしまった。
いつもと違い、無邪気な伊達の一面を見た七瀬は近々またどこか誘うか、と静かに湧き立つ想いに穏やかに微笑んだ。




