26話
洗濯物をたたみ終え、伊達は置いていたスマホを手に取ると、玄関へ向かった。
昨日ずぶ濡れになったスニーカーに足を突っ込む。
……、え。濡れてない
生乾きを覚悟していた伊達は自分の足元を目を丸くして見た。
センパイって魔法も使えたりするのかな…
乾いている靴を不思議に思い、明石なら出来なくも無さそうだ、と突拍子もない事を考える自分に笑い、扉を開ける。
鍵をしめて郵便受けに入れると、そうだ、と伊達は明石にメッセージを入れておく事にした。
定刻通りに来たバスに乗って揺られうとうとする伊達。
いつものバス停で降りた所で「いーくん」と聞き慣れた声に伊達は振り向いた。
「遥…、」
「ちょうど家に寄ろうと思ってたんだ」
「こんな、朝早くに…?」
「うん、先輩の家追い出されちゃってさ。近くだし、いーくん家行こうかなって」
どっか行ってたの?と遥に訊かれ、伊達は昨日の事を掻い摘んで伝えた。
休日の朝はまだ静かで、少し声をおとしながら話す。
「そっか…あーあ、オレがいーくんと同い年か先輩だったらなあ」
迎えに行けたのに…と少し口を尖らせ言った遥の隣で、伊達は「何言ってんだ」といいつつ、擽ったそうにはにかんだ。
昨日とは打って変わり空は澄んでいる。人けのない道を遥と並んで歩く。
伊達はまた眠気がやってくるのを感じた。
「ね、いーくん。お腹すいた」
「あ、そう言えば俺も…空いたかも」
ご飯の事を考えると、急に胃が空腹を訴えてきた。
伊達のお腹が小さく鳴った。
…昨日、店でまかないを食べてそれきりだから…、そういえば、センパイご飯の事も言ってたっけ。
伊達は明石の部屋のテーブルに置かれていた栄養ドリンクや、固形の栄養補助食品を思い出す。
あの人、食べ物とかこだわりなさそうだもんな…。と、伊達はぼんやり考える。
「いーくん」
「何…?」
「帰ったら、何か作って」
「…、いいよ。何がいい?」
「いーくんの食べたいのでいいよ」
「―そしたら…」
…冷蔵庫の中身と相談だな…
朝ごはんは和食にした。
ご飯は冷凍だ。お味噌汁と付け合わせのお浸しと焼き鮭。
お浸しは作り置きしておいたので、なめこ入りのお味噌汁と鮭だけ焼いた。
お腹が鳴る。遥はすぐそばで盛り付け終わるのを今か今かと待っている。
「よしっ、遥ゴー」
「ラジャっ」
二人で料理を居間へ運ぶ。
直ぐに皿は空になり、遥が食器を洗ってくれるというのでお言葉に甘える伊達。
行儀は良くないがその場で倒れ込むように寝転ぶと、すぐにでも寝れそうだ、とうつらうつらとしてきた。
しかし、通知の音にビクリと目を覚ました。
だれだろ…、くー兄かな…
食欲が満たされ動作もゆったりとしてしまう。
画面を開いて見ると明石だった。
"伊達氏君は魔法が使えるのか"
―…いや何で…?
届いたメッセージの文面のわからなさに伊達が無意識に口元を緩めていると、遥が戻ってきた。
伊達の横に寝転ぶと、遥は言った。
「ねー、いーくん。今度さ…店行ってもいい……?」
「店?」
「うん。バイトしてる所、いーくんが。だめ…?」
「え、別にいいけど」
「あと…、いつもぬいぐるみくれる人、いーくんの友だちにもオレ、会ってみたい」
「…七瀬くん…?」
「…うん」
「いいけど…?」
「やった、楽しみー」
「何で…?」
「ん?」
「んーん、伝えとく。予定教えてね」
「わかった」
遥は、伊達の疑問をわかっている。
でもあえて言わないのは、それを伊達が知る必要が無いからだ、と判断し触れるのをやめた。
歯を磨きながら、自分の思い過ごしかもしれないし、と伊達は楽観的に捉えていた。




