24話
…やっぱりあのまま、雨宿りしておけば良かった。時間を巻き戻したい。
◇
「何を言う、ついでだ」
「大丈夫なんで、じゃ失礼しますっ。センパイも気を付けて帰って下さい」
傘をさすと、伊達は明石から逃げるように早足で歩き出した。
しかし明石は「待て」と言いながら伊達の後を付いて来た。
「待つんだ、伊達氏。行き先は一緒の方向だ」
「え、」
と明石の言葉に立ち止まり振り返った。その時、伊達の後ろから猛スピードで車がやって来た。
腕を掴まれ引き寄せられる。
「わっ」
横を車が通り過ぎた瞬間、暗くて見えづらいが大きな水たまりが道路に出来ていたらしく、二人で仲良くタイヤが巻き上げた水を全身に浴びた。
「「………」」
びしょ濡れになったまま、どちらからともなく謝り合う。
「先輩、すいません」
「伊達氏、それは俺の台詞だ」
◇
気づくと伊達は、明石が借り始めたばかりだという、バス停近くのアパートまで来ていた。
何でこうなったんだっけ…
伊達は部屋の前まで来ても、まだこの展開が飲み込めていなかった。
「どうした?あがってこい」
「先輩、濡れてるんですけど…」
「そんなの気にするな、まあ入れ」
あの後、ずぶ濡れになり明石がまだ寒い時期じゃなくて命拾いしたな!ハハハと笑うと、よし、俺の家に行くか。と提案してきた。
電気のスイッチを押し、先輩は「やはり、付かないか…」と進む先輩の後を追い、濡れた靴を脱いで、お邪魔しますと中へ入る。
廊下にはいくつかの段ボールが積まれていた。避けながら通り抜けると、部屋の中央、ひときわ目立つ水色の…オブジェ、のようなものがひっそりと光っていた。
「なんですか?コレ…」
「ああ、それはな友人の3Dプリンターを少々拝借して作ったんだ。どうだ、なかなか良く出来ているだろう」
「そうですね、なかなか奇抜で…一度見たら忘れないと思います…」
「面白い造形をしているだろう、これは俺が今主に専門として研究に携わりたいと思っている、腐生植物の代表とも言える、タヌキノショクダイという植物だ。秘境の地ボルネオ島で見られる青のレア版を模してみたんだが、腐生植物といっても様々な花があってな…」
…タヌキ……
喋り続ける明石の声を聞きながら、伊達は前に感想を頼まれたレポートに書いてあったのはこれか、と思い出していた。
聞き慣れないワードばかりが並ぶ明石の言葉に、段々と理解を深めている自分がいる。
「前にくれたレポー…っしゅん」
喋りかけた伊達がくしゃみをすると、明石が言った。
「俺の着替えを貸そう。まだ着てないものがあったはずだ…」
「いや、何でもいいんで、おかまいなく」
「とりあえず、濡れた服は軽く洗ってハンガーに、掛けておくか…」
「そーですね…」
◇
外はまだ雨が降っている。
雨音を聴きながら交代で水風呂しに行った明石を待つ伊達。
時刻は10時過ぎ、11時近い。
このまま明石の部屋にお世話になるんだろうな、と雨音をききながら伊達は強烈な眠気に耐えていた。
しかし、先輩の部屋シンプル…というか、家具が無い。
伊達が殺風景な部屋を見渡していると、戻ってきた明石が濡れた髪を乾かしながら声を抑えて言った。
「何もないだろう。実はな、全ての荷物をまだ運びきれていない。
故にまだ実家の方で寝泊まりしている、だが、伊達氏心配するな布団はあるぞ。我ながら準備がいいな」
って一式だけかい。いや、それはそうか…
伊達が敷かれた布団に心の中で突っ込んでいると、明石は布団の隣に雑魚寝した。
「いや、センパイ。そこで寝ないで下さい」
「俺は自慢じゃないが何処でも寝れるんだ。伊達氏遠慮は要らんぞ。寝たまえ」
「(えー…)さすがに…家主差し置いてムリです。俺が隣で雑魚寝します」
………
結局、布団を差し置いて雑魚寝した。
「今更だが家の人への連絡は大丈夫か…伊達氏」
「はい(くー兄には連絡したし)」
「そうか…」
「先輩、心配しないで下さい。大丈夫です」
「そうか」
隣りにいる明石を半分落ちた瞼で伊達は見た。
「先輩って…意外と、意地っ張りですよね…」
「…?それは褒め言葉か」
「はい…褒めてます。今日は…色々ありがとう、ございま…」
「…」




