21話 小ネタもしも
もしも触手シリーズ
もしも伊達の元へやって来たら
今、伊達の家に久々汰が泊まりに来ている。
土日祝日であろうと、関係なく忙しい人、という認識のはずだが、珍しく、いや、もしかすると無理矢理休みをもぎ取ってきたのかも…
「一沙樹」
「はいっ」
気を抜いていた伊達は、背後から名前を呼ばれ思わずそう返事をしていた。
「ぷっ、ハイって…」と久々汰に笑われどこかバツが悪そうにむくれる伊達。
「しょうがないじゃん、基本いつもひとりだし。誰か居るのがレアだから…」
慣れない…遥は割とよく泊まりに来るけど、くー兄が泊まりで家にいるのが、なんだか不思議だ。
逆なら…、こっちからくー兄の家に遊びに行ったり泊まりに行く事なら昔は何度もあったけど…。
よくわからない、そわそわした気分だ。けど、まあ、慣れるのもすぐだ。きっと、くー兄は多分見慣れた光景だと思うけど…
どこか落ち着かない様子の伊達を見て久々汰が首を傾げて言った
「昔はよく遊びに来てなかった…?」
「頻繁じゃなかったし…たまにじゃん」
「…なんだか今日は可愛いな」
「はい?」
「いや、いつも可愛いけど。いつにも増して何かが…」
「もー寝よっか」
「つれない…、それもまた良し」
「電気消すよ」
「これが、しお対応か…」
「おやすみ」
「おやすみ。寝れるかな」
「寝なよ」
「ああ、まだ実感湧かない。夢かな」
「起きながら夢見てるの?」
「耳も鼻も目も至福とはこの事」
「…無視しないで」
「一沙樹、ごめん。無視してないよ」
「…すー……すー…」
…………、
「はあっ…寝息に寝顔頂きました」
「…、ん」
「…尊い、言葉にならないとはこの事…」
しばらく横になっていたが、全然寝れる気がしない久々汰だった。
しかし、そんなこんな伊達を観察している内にいつの間にか寝入っていた。
真夜中に目が覚めた。もともと眠りはいつも浅い。ただ、その分仮眠を取る回数が人より多い。
まあ、物音や気配に敏感な所が起因していると思うのだが。
そんな久々汰の耳に濡れた音と共に悩ましげな声がふいに舞い込んできた。
「…一沙樹?」
また隣の布団からくぐもった声がした。異変に気付くと、久々汰はこんもりしたその掛け布団を掴んで中をそっと覗いた。
「え」
そこには、着ていたスウェットをたくし上げられ、奇妙なスケルトンの物体を纏わせた伊達が寝ていた。
寝てはいるが、起きるのも時間の問題だろう。 寝苦しそうに眉を寄せている。当たり前だ、わけのわからない触手に身体を弄くり回されているのだから。
ヌルリと伊達の上半身を這う物体に、驚いて理解するまで数秒固まった久々汰。我に返ると、取り敢えず触手を引き剥がそうと掴んで引っ張る。
が、滑って掴めない。
…何だコイツ、一沙樹の身体に勝手に触って…誰の許可とってやってんだ。
ふざけんな、と思わず握力マックスで握る。
潰れるかと思いきや、放すと元に戻ってしまう。
はたと思った。
「もしや…コレが、しょく触手…。いやでもまて。なぜこんな所、しかも…はっ!」
――またとない一沙樹が見れるチャンス!この機会を逃すという選択肢は、俺の辞書には無い。
出でよカメラ――!
一沙樹には後でいくらでも怒られよう。
「……、」
ちくしょう。と、久々汰は夢から目覚め、つぶやいた。
何故今なんだ、あともう少しだったのに…!と舌打ちをしたくなったが、耳に届く穏やかな寝息に、隣に伊達が寝ていた事を思い出した。
横に寝返ると、抱き枕を抱えて脚が布団からはみ出た無防備に寝る姿―。
――朝
伊達が目を覚まし、ゆるく目をこすりながら起き上がると、パシャリとさっそく音がした。
まだ寝ぼけている伊達はふあ、と欠伸をかまし、目を開いた。
視界の端に、鼻の片方に丸めたティッシュを詰め這いつくばってレンズを向ける久々汰の姿があった。
「ふっ、おはよ。くー兄い…」
通常運転な従兄に緩く笑う伊達。
「かわ、寝惚けてる」
パシャパシャとここぞとばかりにシャッターをきる。
「あれ…、なんかいー匂い、する」
「朝ごはん作ったから、一緒に食べようか一沙樹」
「…、くー兄だいすき」
「ッう、頂きましたァあ!!」
「うるさ」
耳を手で覆った伊達に謝ると、久々汰は顔を洗いに向かう寝起きの伊達の姿を後を追いながらカメラに収めていく。
朝食を摂る所を撮っていると、隙を見た伊達がすかさず取り上げた。
「今は一緒にご飯たべよ」と伊達が没収したカメラを脇に置くと、久々汰は上機嫌で席についた。
「…?」
いつもなら、もう少し粘るのに…今日はどうしたんだろ。
その日の夜、バイトから帰宅した伊達は、いつも見ているサイトが新作を更新している事に気付いた。
…人外もの。初めてだな、この人のこういうの…。見てみよう
伊達は新たに人外というジャンルを身につける事となった――。




