16話
結局、久々汰はゲロった。
特製の抱き枕カバーになっている、らしい、と。
「そっか、くー兄…その筋の人と仲いいから何でも知ってるんだね」
伊達の言葉にソファで座りながら返事をかろうじてする久々汰。
「…、ああ。…ブフっ」
興奮冷めやらぬまま、止まらない鼻血をティッシュで押さえ、上を向く残念な美形、久々汰。
…普通にアイス食べさせただけなのに…いや、少しだけ…、よくお邪魔する創作サイトを参考にさせてもらった…
そこに描かれてるキャラが、くー兄に瓜二つ、というか良く似て…激似だ。
思わず試してみたが、恥じらいを捨ててやった甲斐があった。
伊達は思いの外うまく聞き出せて、24時間以内に破棄する約束もしたのでご満悦だ。
「よし、確認も出来たし、まくろにも会えたから、俺帰るね」
「え、待って一沙樹」
「上向いてなきゃ、またぶり返すよ?」
「うん…ってそうじゃなくて、やだ。帰らないで」
「俺も帰りたくないけど…バイトあるし、お金稼がなきゃ」
…腐活の為、萌えを頂くにもお金が要るんだ
「それに、くー兄も忙しいでしょ。ほんとは」
実は久々汰の方がきっと忙しい日々を送っているはずなのだ。
今日だって、寮から帰ってきて、確か会うのは三週間ぶりだ。
委員会に、進学の準備、そしてもうすでに自ら稼ぎ口も作っているみたいだし。
学校で配布された、校内新聞をくれたりして、伊達が久々汰の通う学校事情に意外と詳しいのは、また別の話。
「隈、出来てるよ…ちゃんと寝てね…」
目の下、ややお疲れ気味の目元を優しく撫でる。
久々汰の事を少なからず伊達は尊敬していた。身近すぎる存在故にその事を時々忘れそうになる。
本人がそれを感じさせないのもあるが。
こうして自分の為に時間を割いてくれている、ということを伊達なりに理解していた。
だからこそ、長居は出来ない。したくても出来ない、といった所である。
「一沙樹、卒業したら俺と一緒に棲も?それで俺と…け、けけ、」
「え、やだ」
「秒速で断…ぐっダメージが、うう゛」
少しぐらい考えてくれても…と鼻にティッシュを詰めて俯いている。久々汰の残念な姿。
「面白いね、くー兄」
「本気なのに…俺は毎日でも一沙樹の事見ていられるのに。考えてよ、一沙樹」
伊達を真っすぐ見つめ手を握る久々汰。そんな風にされても冷静な伊達。
このやり取りは何回目だろうか。
そんな風に約束して、縛っておく気はない。…簡単にこたえられないし、割と本気で言ってるような気もするし。どのくらい本気かはわからないが…。
毎日見ていられるのは…ほんとだろうな…変な所で確信が持てるのがやだ…
でも今はここから出る事が先だ。
「くー兄、俺くー兄の事"好き"だよ、それじゃだめ?」
「ずる、い」
"好き"、という言葉を吐くときだけ、伊達の表情が僅かにはにかんで久々汰の心を射止めた。
◆
久々汰の肩に器用に座るまくろに手を振る。
「バイバイ、まくろ」
「一沙樹のバイバイはいつ聞いてもいいな」
「なんだそれ…じゃあ、また来るね」
「あ、そうだ一沙樹。来月文化祭があるから…良かったら来ない?」
……え、
「行くっ!」
「そんなに目を煌やかせて…可愛いっ」
「おっと、バイバイくー兄。詳しいこと、また後で連絡してね。楽しみにしてる」
ハグしようとしてきた腕を避けて素早い身のこなしで遠ざかる。
「つれない…でも、好きっあ、今度チャイナ服着てくれないか訊くの忘れた」と背後からきこえたきがした。
最後の方は幻聴だと思いたい。




