表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

4、嵐

「ひどい雨ですね」

「そうだね」


 艦橋の窓ガラスに、マシンガンが当たり続けてるような音が、艦橋内に響き渡る。周りの視界は悪くなる一方で、時計の時間は昼を指しているのに、夜のように外は真っ暗。隣にいるはずの駆逐艦は、目を凝らしてやっと艦橋から漏れる光で、場所がわかるぐらい。私が乗ってる大きな空母でさえ、縦に横に斜めに、色んな方向に不規則に揺れている。そのぐらい波が強いと、他の小型艦が心配になってきた。私は、こんな天気で艦隊行動が出来るのかと、作戦が上手くいくのかと、不安が込み上げてきた。


「うわっ!」

「え、田中大丈夫?」

「揺れヤバくないすか」

「何かに捕まった方がいいよ」

「そうですね」


大きな揺れが白神を襲った。艦は大きく揺れて、アトラクションに乗ってるかのような気分で、少し楽しかった。艦が波に乗ったのか、思いっきり斜めに傾き、落下していった。私は体が浮いてるような感覚になった、いや、本当に浮いてたと思う。そのぐらいの高波だった。田中はその大きな揺れに耐えきれなくなって、思いっきり後ろに吹っ飛んで行った。壁にぶつかって何とかなったけど、何も無かったら、海に投げ飛ばされてたと思う。田中は壁にあった出っ張りに捕まり、転ばないように姿勢も低くしてた。艦橋にいるみんなも、転ばないよう姿勢を低くした。


「航空長。整備長が格納庫に来てくれと」

「わかった、今行く」


揺れがやっと収まってきた。すると整備兵らしき人が艦橋に入って来て、航空長を連れて行った。私は、暗闇で何も見えない外の景色を見ながら、旗艦がいるであろう場所を眺めた。本当にどうするつもりなんだろう。航空艦隊司令官の山岡さんが、今回の作戦について、今どう思っているのか疑問に思った。本当は作戦要項通りだと、この航海ルートを通るはずじゃなかった。だけど山岡さんが、急に航海ルートを現在のルートに変えた。そのせいで、艦隊は今危険な状況になってる。山岡さんがなにも考えないで、このルートにしたわけではないだろうけど、何を考えているか、私にはよくわからなかった。


「山岡さんはどうするつもりなんだろうね」

「転覆する可能性だってあるのに、本当に。あの人は絶対家で寝てたほうがいいですよ」

「砲術長は山岡さんと知り合いなの?」

「はい。同じ艦だったんですけど、無口で何考えてるのかよくわからない人でしたよ」

「そうなんだ」


 いつも砲術長はそんなに喋る方じゃなかったけど、今回山岡さんの愚痴を言っていて驚いた。確かに何回か山岡さんに会ったことがあるけど、無口だったし、体も細かったし、髪も真っ白に染まっていて、軍人のように見えない、何か不思議なオーラを醸し出していて、不気味だった。


「艦長!」

「航空長か、どうしたの?」

「緊急事態が。格納庫に来てください」


航空長にそう言われ、一緒に格納庫まで向かった。艦橋から出て、通路を少し歩いていくと、2階格納庫の近くで、整備兵が慌ただしく、前に行ったり、後ろに行ったり、渋滞を起こしていた。やっと格納庫に着くと、目の前にあったのは、潰されて使用不可能な飛行機だった。


「これは、」

「天井に括り付けられていた予備機がこの嵐で落ちてきたようで」

「...それで、何機使えなくなったの?」

「艦爆2機と艦戦1機、そして艦爆の予備機が2機です」


潰された艦爆の方に近づく。近くから見ると、壊れた場所がよく分かる。片翼がL字に綺麗に折り曲がり、機体が斜めに傾いている。それでも、エンジンだったり所々、まだ使えそうな所もたくさんあった。


「修理して使えそうな機体はないの?」

「艦爆が1機程度なら。整備長がもうすでに作業を始めているそうです」

「よし、わかった。整備長にはそのまま進めるように。航空長は一緒に作戦室まで来て」

「わかりました」


航空長と一緒に艦橋まで戻り、作戦室に入った。飛行長も部屋に呼び、艦爆の数が減った今、どの小隊を艦に残すべきか話し合った。私は、まだ練度が低い隊を残すべきだと考えていたけど、航空長は今後の事を考えて、練度を上げてもらうために、練度が低い隊を参加させ、ある程度の実力がある人に残ってもらった方がいいと考えてた。私は反対したけど、あちらも全く譲らなくて、一向に話が進まなかった。そんな時飛行長が話に入って来た。飛行長は、怪我をしているパイロットがいるから、その隊を残すべきと言った。その隊は、練度も低くいし、航空長も流石に怪我した人を飛ばす気は無かったのか、飛行長の意見で何とか収まった。


「・・・じだ」

「・・いだね」


作戦室で話し合っていると、外から話し声が聞こえてきた。最初は特に気にしていなかったけど、段々と声が増えていったので、気になって航空長達と一緒に外を覗いてみると、飛行甲板の端に立っている若い乗組員達がいた。


「すげぇ!虹だ」

「きれ〜だな」


若い乗組員達が相当集まっている。見ている方向を見ると、私たちが通ってきた所に、綺麗に虹がかかっていた。大きくて、色もハッキリとしてる綺麗な虹。みんなは楽しそうに、虹を見て笑顔になってる。そんな姿を見ていると、今から戦争に行くとは思えない光景に、今自分達がしようとしてることが間違っているんじゃないか、そんな気持ちになってきた。


「戦争は嫌だね。あの笑顔も見れなくなる」

「..だからこそ、戦争に勝つんですよ」

「...そうだね」


 私達はそのまま艦橋に入り、持ち場に戻って、戦争の準備をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ