28、軍港
「それじゃあ、行くわよ」
「うん」
私は今麗奈と一緒に軍港に向かって歩いている。
朝日が立ち上り、昨日はよく見えなかった道が、今日は太陽の光ではっきりと見えていた。
「ねえ、昨日聞けなかったけど麗奈は今何に乗ってるの?」
「私?私は紫雲に乗ってるわよ」
「え、紫雲て確か奇襲作戦に」
「参加してるわよ。それにあんたは気づいてなかったけど、作戦会議の時だってあの部屋にいたわよ」
「え、ほんとに」
「ほんとのほんとよ」
作戦会議の時といえば、司令長官がなんとなく何を言ってたか覚えていたぐらいで、それ以外ほとんど何をしてたか記憶になかった。多分緊張だったり、そういうせいだと思うんだけど、そんな場所に麗奈もいたのは驚きだった。
「...待って、じゃあ麗奈が第五駆逐隊を指揮してるってこと」
「まぁ、そうなるわね」
「そっか、てことは麗奈は司令官か」
「...」
麗奈が同じ階級だったのは制服を見てなんとなく分かってたけど、司令官だと分かって、急に麗奈が遠い存在に感じた。
そんなことを考えていると、横で一緒に歩いていたはずの麗奈が消えていた。周りを見ると、後ろからゆっくりと歩いてくる麗奈がいた。
「麗奈大丈夫?」
「え、あぁうん。大丈夫、いつもの腹痛だから」
「腹痛って、」
「大丈夫だから行きましょ」
麗奈はそう言うと、足早になって、私の手を取った。
私は麗奈がよく腹痛を起こすなんて知らなかったし、昔はそんな素振りなんてなかった。それに今の麗奈の手は、昨日とはまるで違う人の手のようだった。
「はぁ、思ったより早く着いたね」
「麗奈が早歩きで行っちゃうからでしょ」
時計を見ると、予想よりも五分早く軍港に入る入口の門の手前に着くことができた。
麗奈のほうを見ると、大丈夫そうにしてるけど、汗が少し顔に垂れていた。
「...それじゃ、入りましょ」
麗奈はそう言って、門の方へ歩き始めた。
「おはようございます」
門に行くと、見張りをしていた若い兵士が私たちに向かって、大きなあいさつと敬礼をした。見張りをしていた兵士の制服は、まだ色も褪せていなくてきれいだった。
私と麗奈も見張りに敬礼をして、軍港の中に入った。
すぐに目に入ってくるのは、海兵が泊まる大きな宿舎がたくさん、そしてそこを抜けると、ドッグと海に浮かぶ多くの軍艦が見えてきた。
「結構戻ってきてるね」
海に浮かんでいた軍艦の数々。何隻かはドッグの中に入っており、私が帰港した時よりも、軍艦の数が増えていた。
「それじゃ、ここでお別れね」
「え、」
「私もあんたも任務があるし、そんなにゆっくりできないからね。それじゃあまた会えたら、」
「待って」
「...あんた何してるの」
体が勝手に動いていた。
私は気が付くと、去ろうとする麗奈の上着をつかんでいた。
「麗奈の任務って急ぎの用?」
「...別に急ぎではないけど」
「それじゃあ、白神見てかない」
「え、」
それを言った時の麗奈の顔は、驚きの表情だった。
麗奈と一緒に白神を見にいくことにした私は、二人で白神の停泊している近くまで、歩いて行った。
「どう、結構凄いでしょ」
「前の作戦の時に遠くから見たわよ」
「でも、こう近くみることはあんまりないでしょ」
「...そうね」
歩いていると、停泊している白神が段々と見えてきた。やっぱり自分の乗っている船ともなると愛着が出てきて、自慢したくなる。
だけど、麗奈に自慢しても殆ど受け流されてしまった。
そんなことをしていると、見知った顔の人が前から歩いて来たのが見えた。
「おはようございます大佐殿。艦長も」
前から歩いて来たのは副官の田中だった。田中は隣にいた麗奈にめずらしくちゃんと敬礼をしていた。だけど、私の時は、敬礼はしてくれたものの、少しだるい感じの雰囲気を醸し出していた。
「そうだね。田中も久しぶり。元気そうでよかった」
「それはばっちり。それで艦長に聞きたいんですけど、隣の大佐殿は」
「私の友人だよ」
「そうだったんですね。どうも大佐殿。俺は艦長の副官を務めている田中です」
「そう、よろしくね、田中大尉」
そう言うと、麗奈と田中は握手をしていた。
私は二人を見ながら、なんで田中がここでふらふらと歩いていたのか疑問に思った。
「そういえば田中、なんでこんなところ歩いてるの?田中の宿舎はあっちでしょ」
「気晴らしですよ。少し外を歩きたい気分だっただけですよ」
「そう、それならちょうどよかった。内火艇をここまで持ってきてくれない」
「え、やですよめんどくさい」
「お願い。麗奈を白神に乗せたいの」
「えぇ~」
田中はめんどくさそうな顔をしていた。私としては、麗奈と別れる前に私の乗ってる白神に乗せたかった。私がどんなところで働いてるか見せたかったし、それにもう少し麗奈ともいたかったから。
「待って、あんたさっきは見てかないって」
「いいじゃん、折角だし。そういうことだから田中、お願い」
「えぇ~、しょうがないな。今回だけですよ」
田中はそう言うと、内火艇のある場所まで走って行ってくれた。そんな後ろ姿を眺めていると、ふと横にいる麗奈が目に入った。
「麗奈」
麗奈の顔はどこか悲しそうな表情で、お腹に手を当てていた。




