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15、艦橋の横で

「ほんとに何してるの」

「あっ、あー。艦長」


 何も喋んない2人にもう1回聞いてみると、急に田中が大きな声で叫び始めた。


「そんなに叫んでどうしたの」

「攻撃隊が。攻撃隊がもうすぐ帰ってきそうです。その報告しに来ました」

「あ、そうなの。ありがとう。それで2人はさっき何、」

「じゃあ俺は先に艦橋に戻っときますね」


 田中は攻撃隊が帰投しそうという件で来たのはわかった。だけど、結局なんでひなと2人で言い合いしていたのかはよくわからなかった。田中は私の問いかけにすぐに逃げてしまったし、ひなは今も笑顔だし。私は窓の外を見る。起きてすぐ騒がしかったけど、いつもと違う朝で少し面白かったし、どこか懐かしかった。外はまだまだ暗いけどどこか明るい。水平線が太陽で明るくなり、もう少しで日の出が見れそうだった。


「ひな、背中とか大丈夫だった?椅子で寝ててそのままにしちゃったけど」

「全然大丈夫だよー。ちょっと腰が痛いけど。それよりも七海もう行っちゃうの。働きすぎじゃない」

「艦長だからね」


 私はベットから出て、手を動かして行く準備をした。その間もひなと雑談しながらで、少ない時間だけど、楽しいひと時を過ごすことができた。戦いが本格的に始まって、いつもよりも寝る時間が少なくなった。それでも、なぜかそんなに苦じゃなかった。なんなら働いていない方が、他の人に対して罪悪感が出てきて嫌だった。


「よし。それじゃあ行ってくる」

「待って、私も上に行くから途中まで一緒に行こ」


 準備も出来て、急いで艦橋に行こうとすると、ひなも途中まで一緒に行くと言い出した。今思えば、一緒に食べたり、たくさん話したりしたけど、ひなはパイロットだということを忘れていた。多分ひなも女友達がいないとは言っていたけど、同期だったり、仲のいい人だったり、もしかしたらひなだって年頃なんだから気になる人がいるかもしれない。そう思うと、少し安心した気持ちになった。ひなと色々話しながら、飛行甲板前の扉でお別れをする。ひなの後ろ姿を見た後、私は静かな足取りで1人で艦橋の中に入った。


「艦長、良いときに来ましたね。ちょうど今攻撃隊が着艦しようとしてるところですよ」

「そう。砲術長もわざわざこれを見るために朝早くから?」

「そうですよ。我らのヒーローの帰還をこの目に焼き付けたいですからね」


 艦橋に入ると、ほとんどの人が左側の窓に寄って、外を眺めていた。私が来たタイミングはちょうどベストタイミングだったらしく、私も窓に寄って外を見ようと思った。だけど艦橋内は私の身長的にちゃんと見えなさそうだったから、私は外に出て、手すりに手を置きながら攻撃隊の帰投を見ることにした。周りを眺めていると、結構な人数が甲板に出ているのが見えた。みんな知り合い待ってるのかな。私にはこの艦の人から認知されているのだろうか、ひなが言っていたことを思い出しながら、今着艦しようとしている飛行機を見ていた。


「艦長」

「ん、田中。どうしたの?」

「え、いや。...飛行機着陸しそうですね」


声をかけられた方を向くと田中が立っていた。いつもには見ない、真剣そうな表情をしていて何かあるのなと少し不思議に思った。私が聞くと、田中はほんとに言った通りの少し驚き気味の表情になった。かと思うと、またすぐに表情がさっきの真剣そうな表情に戻って、ただ何もない空を見ていた。


「?そうだね」

「俺、昔住んでた家の近くに飛行場があったんですよ。だからよく飛行機が凄い速さで飛び立って頭の上を通って。空を悠々と飛ぶ姿がかっこよかったんすよ」

「うん」

「昔っからそればっかり眺めてて、やっぱりガキだからかっこいいもんには目がないんですかね。だからいつか大人になったら飛行機に乗りたいなって。そんなこと思って、海軍目指したんすよ」

「...」

「本当は陸軍の方が絶対身近なんすけど、あんまり運動出来るほうじゃなかっから海軍で。そこからは、あれ結構楽しいなって。飛行機パイロット目指すはずが今はあなたの副官ですよ」

「おい」

「...ただ飛行機に近づくことは出来たんで、今この景色見れてるんで。やっぱ海軍に入って良かったなって、...」

「...いい話だけど、急にどうしたの」


田中はずっと何も無い空を見て、そして語り終わった。田中らしくない話に急にどうしたのか疑問に思った。


「っ、やっぱ変でしたよね、海軍に入った理由なんて。...ただ言っておきたいことは言っといた方がいいと思ったからですよ」

「...」


田中がこっちを向くと、どこか悲しそうなそんな表情をしていた。田中の言ってることはまるで今にも死ぬみたいで、本当にどうしたらいいのか分からなかった。手に力が入るだけで何も言葉が出てこない。


「それじゃあ近くで見たいんで下に、」

「死なないから」

「え」


私でもなんで口に出たのか分からない。でも、そう思っているのは事実だった。田中を死なせるつもりなんてなかった。みんなを死なせるつもりなんてなかった。もうさっきみたいな死者を作るつもりはなかった。そしたら自ずと言葉が出てきた。


「田中は、いや、この空母に乗ってる全員...死なせないよ」

「...やっぱり艦長は可愛いってより、かっこいい方が似合うな」

「おい」


私の思った事を伝えると、田中は少し考えた雰囲気を出して、可愛いとかかっこいいとか、ふざけた事を言い始めた。そのせいで私もノリで突っ込んでしまった。


「いいじゃないすか。結構みんなの間で広まってるんですよ。艦長は可愛いかかっこいいか」

「何それ」

「ちなみに俺はかっこいいに1票いれましたよ」

「っ、もういいよ。とっくに何機か着陸しちゃったよ」


田中はやっといつもの雰囲気に戻った。このテンションでこの話し方。ないとあるで結構違う。そう思うと、やっぱりみんな死なせたくない。そんなことを心で思いつつも、今を楽しんで、田中に呆れつつも、飛行機が着艦するのを眺めた。

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