11、敵機③
いつもより少なめ
「田中、状況は」
「問題ないですよ。それよりも旗艦から急いで戦闘機を上げるように命令が」
「それなら今上げたでしょ。分かってないの」
「さぁ」
艦橋に戻ると、田中や航海長、艦橋にいた人がそれぞれで小声で話し合っていて少しあわただしくしている様子だった。田中に状況を聞くと、旗艦から命令が来たらしくて、原因はそれっぽかった。今急いで戦闘機を上げたのに、旗艦から急いで戦闘機を上げろと、何を言ってるのか分からなくなって、少し腹が立った。手に力が入って、爪が皮膚に刺さる。
「田中、他の空母から戦闘機は上がってる?」
「さっき命令が来たばっかなので、準備している最中ですよ、多分」
「はぁ、わかった。戦闘機の準備を下に急がせて」
「っはい、わかりました」
田中から他の艦のことを聞いても、戦闘機をすでに上げている様子はなく、命令が来てからする。私たちはすでにしてるのに、いまさらそんな命令が来たことに腹が立った。それでも、戦闘機を上げないとまた敵が来て、艦隊に襲いかかる。それでまた艦隊に被害を食らうのは嫌だった。田中に命令すると、急いで下に降りて行った。艦橋からでも艦内の色んな衝撃、たくさんの人が走ったり、飛行機を動かしたり、機関の揺れだったり、それがすべて伝わり、艦はもうすでに正常には動いていない気がした。
「艦長、ここで何を」
「敵が来ないか見張ってるんだ。あなたは下に行って見張り員を増やして」
艦橋横で外を見ていると、艦内は大慌てなのに、空はとても静かだった。真っ赤になった広々と続く雄大な空。それを見ていると、心臓の鼓動が段々と早くなる。私は深呼吸をして、落ち着こうと思ってもなかなか落ち着かなかった。手すりに手をついて、落ち着こうとしていると、遠くの方から対空砲の音が聞こえ始めた。
「敵機!南に敵機だ!」
見張り員の声が聞こえ、その方向を覗くと黒い点々が空に浮かんでいるのが見えた。駆逐艦から対空砲がのび、空中に黒煙が発生する。艦内が更に慌ただしくなり、対空砲に急いでみんなが配置についていた。
「艦長!もうすぐ敵機が輪形陣の中に」
「見えてる。戦闘機隊は」
「わかりません」
敵の編隊がじわじわとこっちに近づいてきていた。白神からも対空砲が飛び始め、敵機目掛けて砲弾が飛んで行った。それでも対空砲は全く敵機に届かず手前で爆発していた。敵は今もなお、こっちを目掛けて近づいて、敵のエンジン音が聞こえ始めた頃、視界の横から高速で動く何かが見えた。
「戦闘機だ!」
「よし。いいぞー!」
白神でみんなからの称賛の声が聞こえ始める。敵機の編隊に向かって、味方の戦闘機隊が手伝ってくれた。敵の爆撃機達は瞬く間に撃墜され、海面に落ちていった。戦闘機の胴体には4航戦を意味する白い2本線が見えた。それを見た瞬間、胸の中の靄が消え、スカッとした気分になった。
「艦長やりましたよ」
「そうだな、このままいったらなんとか」
敵の爆撃機達は次々に戦闘機に落とされていった。翼は燃え、エンジンも燃え、ほとんどの機体が戦闘機の攻撃と、対空砲火でほとんど落とされていった。飛んでいる機も、ふらふらしながら低空飛行で艦隊から逃げようとしていた。
「それでも、さっきより敵の数が少なくてよかったですね。同じ規模だったら抜けてきてましたよ」
「え、...っ」
手の温度が一気になくなる。私は急いで双眼鏡を持って周りの空を見渡す。レーダーに映ったときは、敵の規模は1回目と同じだった。だけど本当に来たのは、半分ぐらいだけ。どこかに敵がいる可能性があった。双眼鏡で急いで敵を探す。隣にいた田中は不思議そうにしていた。すると、
「敵機直上!急降下!」




