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9、敵機①

心臓のなる音が体を伝って、振動や音が大きく聞こえてきた。顔は額の方から熱を感じて、視界がいつもよりも狭く、周りが黒くなっている気がした。ずっとその場で立っていると、急に横から肩を捕まれた。あわてて横を向くと、私のかを掴んでいる田中と椅子に座った通信員がこちらを見ていた。


「艦長、大丈夫ですか」

「あぁ、大丈夫。ただ少し考え事をしてただけだから。...通信員。このレーダーの精度はどのくらい?」

「よくないですよ。この前なんて何もないところで反応しましたから」


 その話を聞くとさっきよりかは落ち着くことができた。私はあまりレーダーとかの電子機器については詳しくないけど、レーダーについてよく知る通信員が、よくあることだというなら大丈夫だと思ってきた。


「田中。直掩機や他の艦からは何も連絡は来てないんだよね」

「来てないですよ」

「...田中。見張り員の数をちょっとだけ増やしといて」

「え、だけどこの斑点は?報告したほうがよくないすか」

「白老にも同じレーダーは付いてるでしょ。何も連絡が来てないなら変なことはしないほうがいいよ」


 田中は不満そうな顔をしていたが、渋々納得して通信室から出て行った。私も艦橋に戻り、指揮に戻った。そんな中でも私の頭の中は不安が残り続けた。白神は艦隊の中心に位置しており、もしほんとにこの大きな斑点が敵なら、直掩機や他の駆逐艦が先に気づくはず。そう思って、見張り員の数を増やすだけにした。レーダーは精度が悪くて、斑点が映るなんて良くあること。レーダーにくわしい通信員がそう言うんだから間違ってないはず。それでもなぜか、背中や額から冷や汗が止まらなかった。手の震えは止まらないし、落ち着いてきてたお腹の痛みが、さっきよりも強くなる。私は報告のあった西の方角を双眼鏡で見ながら、平然そうな顔で立っているので精一杯だった。


「ねぇ、あっちの方向に何か見つけたら報告してね」

「分かりました」


 双眼鏡で斑点が写った方角をずっと眺めていたけど、なにも見えることはなかった。私は隣にいた、設置型の双眼鏡を覗いている見張り員に、代わりに斑点のあった方角を見るように頼んだ。艦橋内は、みんな自分の仕事に取り組んでいて、とても静かで、どうにも落ち着かなかった。もし本当にあの斑点が敵だった時どうするか、1度考えたら頭から不安が消えなかった。そんな時、ちょうどよく艦橋に航空長が入ってきた。


「航空長。ちょうどいい所に来た」

「はい。何か」

「直掩機が今どこにいるかわかる?」

「直掩機ですか。...多分、この辺りを飛んでるはずです」


 航空長は艦橋にあった机に置かれてる海図の、艦隊のことを指した駒の周りにコンパスで円を書き、直掩隊のいるであろう場所に印を書いてくれた。航空長の書いてくれた印を見ると、丁度西に空間が空いていた。


「今ある戦闘機はすぐに飛ばせれる?」

「先程戻ったばかりで、今は燃料補給している最中だと思うので、すぐには無理ですね」

「何時でも飛ばせれるようにしたいから急がせて」

「...分かりました」


 そう言うと航空長は急いで艦橋から出ていった。それと入れ違いになるように、田中が艦橋に入ってきて、私の近くに寄ってきた。


「何かあったんですか」

「あぁ、航空長にいつでも戦闘機を飛ばせれように頼んだんだよ」

「それって、」

「保険は大事だからね」


艦橋から甲板を見ると、急いで降りて行った航空長が、下の整備員達に何か話していた。少し経つと、話が終わったのか整備員達は蜘蛛の子のように散らばって行き、急いで作業をしていた。その様子を田中と一緒に見ていると、伝声管を伝って大きな声が艦橋内に響いた。


「南西方向。距離10000メートル。敵雷撃機約20機。突っ込んでくる!」


急いで艦橋の窓から南西方向を覗くと、たくさんの黒い点がだんだんと大きくなってきていた。微かに聞こえる敵のエンジンかも分からない音が、私の身体を、心を、手を、足を震えさせた。その場から何も動けなくなって、体から力が抜けていくのがわかる。横を見ると、田中の身体が小さく震えているのがわかった。


「...っ、急いで対空戦闘につけ!敵は20機だ!あげれる戦闘機を全てあげろ!急げ!」


私が声をあげると、伝声管、マイクを通して、周りに居た人員がありの巣をつつかれた蟻のように、急いで持ち場に動いた。双眼鏡を覗くと、敵の雷撃機がさっきよりも近い距離に、私達の艦隊を狙って向かってきていた。

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