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第32話 聖エクス学園体育祭



 「女神様、ごちそうさまです。」


 寮暮らしのメリットは学園まで数分で行けることだ。

 おかげで緊張で喉を通らない朝食を時間かけて食べられた。


 「はぁ………。」


 前日の間に準備は終えた。


 行こう。



***


 「今年から新しい競技が追加されるんだって!!」

 「お姉ちゃん、何の競技出るのー?」

 「パンフレットはこちらでーす!!」


 スタジアムに向かう道中、学内は人でごった返していた。

 生徒たちの家族、OBOG、学校見学に来る中学生らしき親子連れに学外の要人から明らかに上流階級の人たちまで来ている。


 観客席は既に人の波で埋まっている。父兄たちはマジホや小型のカメラを手にして、子どもたちの顔を探していた。


 「トウヤー!!!」


 「あ、みんな。」


 アシェルの声に気づいてクラスの集合場所に到着。

 学内は知らない人で溢れかえってたからちょっと安心するな……。


 「アシェル、おはよう。」


 「おはようトウヤ!!昨日はよく寝れた? 魔力はやっぱ睡眠の質と量で回復が早まるし総量にも影響してくるからね!! ハイドロラッシュは魔力沢山使うから午前中は温存しておかないと……」


 「はいはい、その辺にしとけ。クロキが困ってるだろ。」


 「よう、クロキ。 明日のためにも今日は無理するなよ。」


 「あ、うん、おはようオルド、カイ。」


 皆体操服に着替えて準備万端。

 僕らの色は『黒』。みんなはちまきを頭に巻いている。

 

 この世界の体操服は日本とそこまで大差ない。白Tに黒の半ズボンだ。

 どうやら付与魔術がしやすいようにシンプルな作りになってるらしい。

 襟や裾の部分には魔術陣らしき回路が刻まれていてそこから簡単な付与がされている。

 

 「ニーナ!!ハイドロラッシュちゃんと動画撮っとくね!!」


 「ありがとう。絶対優勝するから見ててね。」


 既に空気は出来上がっていた。輪の中心にはニーナたちキラキラ一軍女子だ。彼女らの周りに自然と人が集まり、輪は広がり、僕はその端を遠巻きに眺めていた。


 ニーナは満更でもなさそうでドア顔を浮かべている。かわいい。



「じゃあ、みんな!!スタジアムに移動するよ!!」


 ナディアの掛け声に従い、僕らは決戦の舞台へと移動する。


***


 競技場に足を踏み入れると、想像以上のスケール感に息を飲んだ。

 視界一杯、広大なグラウンドとコース、それを取り巻くように僕らを見下ろす観客席。

 周囲を囲む観客席には数千人が座り、こちらにカメラやマジホを向けている。


 太陽を受けて鏡のように輝やく、巨大な水上ステージの横、魔術で整えられたであろう特殊な素材のグラウンドに僕は生徒達は色別で整列させられる。


 開会式だ。


 「皆さん注目〜!!!これより、聖エクス学園、体育祭の開会式を行います!!!」


 「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」


 歓声に包まれる会場、熱狂、喝采。


 マイクを持った誰よりも目を引くその少女はまるで自分が主役だと言わんばかりの声量で台に立ち開催を宣言した。


 「司会・実況・進行を務めるのは生徒会執行部のアルコ・バレーノと隣にいるディノ・クライスでーす!! よろしくお願いしまーす!!」



 ……………お前らかよ。


 アルコ・バレーノ。

 髪色が千差万別なこの異世界でも一際目立つ七色の髪と瞳を持つ彼女がどうやら体育祭の司会だそうだ。


 いくら生徒会とはいえ一年生で体育祭の司会なんか出来んのかよ。


  「……すげぇな。」

 思わずつぶやいた。ここに立ってるだけで、世界の中心に放り込まれたみたいだ。


 開会式が終わり、最初の競技――徒競走が始まる。


 「位置について、よーい――」

 スタートの合図と同時に、生徒たちが飛び出した。

 砂煙が弾け、視界から消える。


 「はえっ!?」


 ……僕もここ2週間練習した身ではあるが徒競走の選手は別格だ。

 遠目から見るとより分かるが、人間の走る速さじゃない。

 付与魔術で強化された脚はまるで車並みの速度でトラックを駆け抜けていく。

 風圧がグラウンド内にいる生徒たちの服の裾をばさばさ揺らす。


 「トウヤ見た!? あれ秒速何メートル出てんの!?」

 「……いや、もう時速だろ。計算したくねぇ……。」 


 フォンが興奮して身を乗り出し、僕はただ唖然とする。ゴールテープが一瞬で切り裂かれ、観客席は割れんばかりの拍手に包まれた。


 次は玉入れ。

 異世界にも玉入れってあるんだなって思ったがその思考は一瞬で消え去った。


 「黄色組!!すごいです!!」



 見れば、参加者が土魔術で次々と土塊を練り上げ、それを軽く整えて投げ込んでいる。


 土9級魔術岩弾≪ラピッリ≫

 


 空中でぶつかった土球が砕け、ぱらぱらと砂の雨が降り注いだ。

 「おおおーっ!」

 歓声と笑い声が重なり合う。中には形を整えすぎて岩みたいな塊を投げる奴もいて、籠にぶつかった瞬間にガンッと鈍い音が響いた。


 僕たち魔法研究部のメンバーはこの競技には出ていない。

 魔力温存。午前中は体力より魔力の管理の方が大事になる。

 だからこそ、ただの観戦のはずなのに、胸は高鳴って仕方がない。


 次々と競技が進み、熱気が会場を包み込む。

 そして――プログラム表の次の文字が読み上げられた。


 『皆様、お待たせしました!! 次は本日の目玉!! 水上競技 ハイドロラッシュです!!』


 「きた……!」


 観客も生徒もものすごい声援が上がる。

 体育祭で盛り上がる雰囲気になっているとしてもこれまでの種目は前座だと言わんばかりの声量だ。


 「ニーナ、頑張れ!」

 「アシェル!! カマせ!」

 クラスの声援が一気に重なる。

 転校生で、友人の少ない僕にかけられる声はない。

 ……いや


 「頑張れよ、クロキ。」


 「うん。ちょっと怖いけど行ってくる。」


 フォンの一言で僕は少し緊張が柔らいだ気がした。


 「行くよ、トウヤ!!」

 「早くしなさいよ」


 アシェルとニーナが僕を呼ぶ、

 ……せめて、黒歴史にならないよう頑張ろう。


ーーーーー


 目の前に広がるのは、巨大なプール。

 太陽を浴びて水面が砕けた光を散らしている。

 鏡みたいに青空を映し込むその揺らぎは、水上に立つ僕に自身の緊張を再確認させた。


 「参加者、入場お願いしまーす!!」


 アルコの声に合わせて、観客席から太鼓のような手拍子が鳴り響く。


 「……これで……みんな揃った……ね。」


 「うっ、あっ……あっ、あっ……。」


 「おはようございます、先輩。…………ルリアン………。」


 アニア先輩とルリアンが僕らを待っていた。

 これでメンバーは全員揃った。


 アニア先輩は話し方こそ普段のままでわかりにくいが緊張を隠せていない。

 ルリアンなんかもう言葉として成立していない。

 

 ………これ、大丈夫……か?


 「安心してください。僕の魔術で一掃出来ますから。」


 「昨日考えた"作戦"の通りにすれば大丈夫よ」


 「………じゃあ、行こう…みんな………。」



 「「それでは!!ハイドロラッシュの選手の皆さん、入場してください!!!」」


ーーーーーー


 スタジアムに入場すると同時に僕らを出迎える歓声が全身に響く。


 手拍子が鳴り止まない。波のように会場を揺らして、胸の奥を叩きつけてくる。

 アルコの声が響いた。


 「それでは出場団体の紹介でーす!!」


 「まずはエアロス・スキー部!!!」


 観客席から一斉に歓声が巻き起こる。名前どおり空中戦に特化した部活で、空を駆けることに関しては右に出る者はいないらしい。


 「続いて、アーサークロス部!!」


 


 「そして――魔術研究部!!!」


 「おおおおおおおおおおお!!!!」


 僕は思わず息を呑んだ。

 桁違いの歓声、主役登場。


 僕たちの「魔法研究部」とは名前こそ似ているが、こちらは魔術理論から実戦演習まで徹底的にやるガチのエリート集団だ。

 

 観客の盛り上がり方も、完全に「本命登場」という雰囲気だった。


 胃の奥がぎゅっと縮まった。

 なのに僕らの番が、すぐそこまで迫っていた。


 「そして――我々、生徒会執行部!!」


 「よろしくお願いしまーす!」


 七色の髪をひらめかせるアルコに、観客席が爆発したみたいに沸いた。

 横に立つディノは片手を軽く上げるだけで、観客の熱気をさらに引き上げる。

 ……何だこの空気の差。これがカリスマってやつか?


 全員が揃い、観客の熱狂は最高潮に達していた。

 名前を呼ばれるたびに声援が飛び、手拍子が鳴り止まない。


 僕は深呼吸した。

 水面に映る自分の顔は、思った以上に青ざめていた。


 「最後に、体育祭団体競技初出場!!!

魔法研究部!!!」


 来た。


 「「「「「「「いええええええええええええいいい!!!!!!!!」」」」」」」


 瞬間、爆音がスタジアムに響いた。


 アシェルだ。

 付与魔術で声帯を超強化して叫んだ。


 音割れしたイケボが観客の歓声を圧倒しスタジアムを大いに揺らした。


 観客席からはドッと笑いが起こる。


 「アハハハハハハハハ!!!」

 「いいぞ!!アシェル!!」

 「あいつヤベェなwww」


 「くっ………もう、びっくりさせないでよ………。」


 「流石………アシェルくん……だね。」


 「だ、大丈夫、わ、我々、がっ……勝つ。」


 「もう………マジで笑わせんなよ」


 そう言って僕は自分の顔が緩んでいることに気づいた。

 不思議と僕の心にあった緊張感は彼の爆声に消し飛ばされていたのだ。



 ーーーーーありがとう、アシェル。

 もう、怖くない。



 「それでは――水上競技ハイドロラッシュ、まもなくスタートです!!」


 その瞬間、会場全体が揺れた。割れんばかりの歓声、踏み鳴らされる足音、手拍子。

 足元の水面がざわざわと震え、心臓の鼓動と混ざり合う。


 

 始まるんだ。


 

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