第31話 思春期なんて………
「…………ひどいわね。」
部室に流れる沈黙を破ったのはニーナだった。僕の………"スキル共感性羞恥"の過去が相当アレだったのだろう。
「わ…………わぁ………。」
「ルリアンちゃんは……しばらく……ダメそう。」
ルリアンは幼児の人形かというほどに小型化していた。
目は虚で、譫言を呟きながら微かに震えている。
前の戦闘でそうだったが、ルリアンの魔法『トランスランカー』は自分のメンタルに大きく左右される。
申し訳ないことをしたな。
「……これが、僕の黒歴史だ。ひどいもんだよ。」
「そうね、未熟で、見苦しくて……自己防衛ばかりの態度。……客観的に見れば、そうとしか言えないわね。」
「ニーナ……ちゃん……言い過ぎ。」
ズバッと言うニーナに流石にアニア先輩も止めに入る。
心臓に釘を打ち込まれたような痛み。
でも、その声は冷たいわけじゃなかった。ただ正しいだけだ。
「………でも……」
アニア先輩が机に頬杖をつき、ボソボソと続ける。
「………あのクラスメイトたちも……正直、幼かったと思う……。
誰かを叩くことで……安心するような雰囲気、あったし………」
その声は淡々としているが、責めるでも庇うでもない。
ただ、あの頃の空気を客観的に切り取っただけ。
僕の視線の先で、ルリアンが机に伏せたまま小さく震えていた。
魔法の反動で言葉にならないのか、喉がひゅっと鳴る。
それでも必死に何かを伝えようとしているのがわかった。
「………いま……は……」
か細い声で、やっとそれだけ。
「そうね。」
ニーナがその言葉を引き取るようにうなずく。
「今のあなたは、あの頃よりマシよ。少なくともこうして毎日頑張ってるし。」
「………。」
胸が詰まった。
甘やかしの言葉じゃない、しっかりと今の僕をみた上でかけてくれた言葉だ。
「………恥ずかしい過去を思い出しても……逃げないでしょ、今の君は……」
アニア先輩が静かに微笑む。
「ク、クロキは………体育祭……ちゃんと、やれると思う……」
ルリアンは震えながらも、ぎゅっと両手を握りしめて僕を見た。
拙い言葉で精一杯のエールを送っている。
「……ありがとう。」
その声は、僕自身も驚くほどまっすぐだった。
――もうあの頃の僕じゃない
そう言い聞かせても、胸の奥の痛みはまだ重く居座っていた。
――バンッ!!
部室の扉が勢いよく開いた。
驚いて顔を上げると、そこにはアシェルが立っていた。
赤髪をサラッと靡かせ、にこっと微笑む顔は相変わらず柔らかい。
「やっぱり、ここにいた。」
その声に、みんなが少し肩の力を抜く。
さっきまでの重さがほんの少しだけ和らいだ気がした。
「……アシェルくん?」
「うん。ちょっとね、もう一度みんなで集まりたいなって思ったんだ。」
そう言ってアシェルはノートを机に置き、静かに続ける。
そのノートには識別不可能なほどギッチリ、ミッチリと文字やら魔術陣の式が敷き詰められていた。
…‥…これ全部手書きか・・・・?
「練習しよ!! 作戦、考えてきたんだ!!」
アシェルの声が僕のせいで淀んだ部室の空気を浄化する。
「………うん。」
「わ、わかった。でも……期待するなよ!!」
「仕方ないわね。」
アニア先輩が立ち上がり、ニーナが肩をすくめ、ルリアンも小さく頷く。
僕はゆっくりと椅子を押し、立ち上がった。
聖エクス学園体育祭まで………あと1日。




