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第28話 買い出し



 「クロキ、買い出しお願い!!」


 「は? なんで僕が……」


 「人数合わせだよ〜。ほら、フォンとカイも一緒だから安心しなって!」


 「ほら、トウヤ、行こうぜ」


 体育祭準備も佳境に入り、開催3日前となった頃。

 ナディアにパシられ僕はフォンとカイと3人で教室を出た。

 人数合わせって……。


 そういえば、もう2週間も異世界にいるが学園の外に出るのは初めてだ。

 この学園マジで大学のキャンパス以上に広いから閉鎖感なかったわ。


 「カイ、買い出しってなに買うの?」


 だじゃれじゃないぞ。


 「ん? えーっと……アーチ用の絵の具と木材だな。」


 「お金は僕が建て替えておくからトウヤとカイは払わなくていいよ。」


 「マジ? ありがとう。」


 ……正直に言うと、僕の胸は、少しだけ高鳴っている。学園には流石に慣れたが、外に出るのは初めてだ。

 しかも友達と一緒に街へ出るなんて――こんな普通のことが、なんだか特別で嬉しかった。


 門をくぐると、目の前に広がる街並みに自然と視線が吸い寄せられる。

 

 尖塔や曲線のアーチが組み合わされ、それを土台とした上部は都心の高層ビルのように高々と伸びきりガラス張りの建物は異世界の濃い青空を映し出している。


 ただ街を見るだけでこんなに心を奪われたのは初めてかもしれない。


 寮で見てた景色とは違う。

 正真正銘の異世界だ。


***


 「じゃあトウヤ、これ持っててくれ。」


 カイはいつのまにか買ったアイス片手に隣のフォンと楽しそうに話している。

 こいつら案外仲良かったんだな。


 ちなみに僕は両手に荷物。なぜか僕だけ両手。うーん。

 いや、フォンがお金を払ってカイが素材を探してくれたんだからこれぐらい僕がやらなきゃだな。


 通りは活気に包まれていた。

 デア王国の建国祭が近づいている。

 屋台の組み立てが進み、色とりどりの旗が風に揺れている。焼き菓子の甘い匂いと、木槌の音。


 僕は両手に荷物を抱えながら、2人の間を縫うように歩く。

 僕は思わず立ち止まり、深く息を吸った――こんな景色を、友達と一緒に歩けるなんて、ちょっとだけ青春してる気分だ。


「なぁトウヤ、ちょっと寄っていい?」


「……どこに?」


「本屋! 今日、新刊の日なんだ!」


 そう言って、フォンは街角の書店に駆け込んでいった。

 僕とカイも仕方なく後を追う。


 荷物重いんだからあまり歩かせないでくれよ……。


 入ってすぐの棚に、でかでかと並ぶ表紙が目に入った。


『学校で落ちこぼれの俺が最強に!?魔術のない世界で唯一魔術が使える俺が異世界無双!!』


 ……いや、なんだその設定。どこかで見たような。


「それ! 今めちゃくちゃ売れてるやつ!」


 フォンがテンション高く、表紙を指さす。

 メガネ越しに見る目に確かに光が宿っている。


「異世界もの、やっぱ鉄板だよなぁ。俺、こういう話大好きなんだ!」


「……異世界もの?」


「知らないのか? 異世界転生とか召喚とか。まぁ創作だけどさ、普通のやつが魔術のない世界に行って英雄になるってやつ。夢あるだろ?」


「……夢、ね」


 僕は曖昧に笑って、視線をそらした。

……こっちは夢どころか、現実なんだけどな。


 フォンは楽しそうにそのままレジへ向かい、僕は店の外に出た。

 ほんの少しだけ、胸が重かった。


***


 買い出しの帰り道。

 日が少し傾きはじめ、街の影が長くなる。

 結局1時間以上かかったな。


 僕たちは同じ通りを戻っていた。人波にまぎれて、なんとなく黙って歩く。


 付与魔術を覚えてよかった。おかげでこんな荷物を持っても疲れない。


 そのときだった。


 ふと、視界の端で“白”が舞った。


 落ちてきたのは一枚のハンカチ。風に揺られて、歩道にふわりと落ちた。

 拾い上げて前を見ると、ほんの数歩先を歩く女性の背中が見えた。


 黒いスーツに、長い銀髪。鮮やかな赤が入り混じっている。

 それだけで目を引くのに、不思議と彼女の周囲だけ音が小さく感じる。

 あまりに整った姿勢と、張り詰めた気配。

 誰もが通り過ぎていくのに、彼女だけはまるで“止まって”いた。


 まるで世界からズレた存在かのように。


「あの、落とし物です!」


 反射的に声をかけると、女性がこちらを振り返った。


 そして、僕は――言葉を失った。


 銀髪。赤と黒が混じりあうような、毒を孕んだ金属の光。

 背は、俺よりも高い。

 瞳は、深い赤に滲むような黒。

 その瞳孔は――十字に割れていた。


 怖っわ…………‼︎


 理屈じゃなく、そう思った。

 見た目のせいじゃない。

 “なにか”が、本能の奥を直接叩いた。


「……ありがとう」


 笑顔は柔らかく、声も穏やかだった。

 でも、身体の奥が強張って動かない。冷たいものが、骨の奥をなぞるように這ってくる。


「い、いえ……当然のことをしただけです」


 なんとか言葉を返して、立ち去ろうと一歩踏み出す――


 そのとき。


「待ってくれ」


 静かで、けれど異様に響く声が背中を撃ち抜いた。


「――ねぇ、君」


 足が止まる。背筋がこわばって、振り返れない。

 心臓の音だけが、変に大きく響く。


「君、エクス学園の生徒だよね?」


 ……制服、か。

 彼女はゆっくりと歩み寄り、僕の目の前に立った。


「すごいね。優秀なんだろう? あの学園に通ってるなんて」


 なにかを試すような、でも底の見えない笑み。


「い、いえ、恵まれてただけです。僕だけの力じゃないですよ……」


 咄嗟にそう返す。

 実際、僕は女神様のお陰で転入させてもらっただけなのだから……。


「随分と謙虚なことだ。環境がどうであれ、成功は君自身の努力の結果だろう。誇るといい。」


「そ、そうですか…あはは……。」


"成功"

 その言葉が胸に突き刺さる。

 僕はただ、選ばれただけ。

 助けられただけ、与えられただけ。

 この世界で、自分の力で勝ち取ったものなんて、一つもないのに……‼︎


「失礼、時間を取らせたね。 私はあることについて"調査"していて君に聞きたいことがあるんだ。」


「え、えぇ。僕に出来ることであればどうぞ。」


 とりあえず、適当に流しておこう。


 彼女は僕の言葉を聞くや否や、

 口元がわずかに動いた。

















「――異世界人を、知っているかい?」

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