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第27話 体育祭準備 




 ーー体育祭まであと4日。

 

 開催が近づくにつれ、徐々に活気が増してゆく教室。学園ではクラスごとの練習や飾り付けが進んでいる。


 学園の校舎は白亜の壁に緩やかなアーチが並び、生徒が作ったスローガンや立て看板が古風に若さを纏わせる。

 



 「よーし! 男子はアーチの骨組み! 女子は横断幕の仕上げ! 休憩は各自自由よ!」


 ナディアの張りのある声が教室に響き、みんなが動き出す。

 体育祭実行委員も兼ねる彼女の指示は的確。

 スムーズに作業が進行する。


「木材は任せて!!」


 アシェルが大声を上げて木材を担ぐ、、、

 数十キロはあるかという木材を片手でヒョイと。いや凄っ。

 付与魔術に優れる彼に取っては重さという概念は存在しないのだろうか。


 ん……あ、ヤバっ


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 いくら力が上がっても木材の体積は変わらない。積み上がった木材がバランスを崩して床に散らばった。


 「あぁぁぁぁぁ!!ごめん!!」


 「おいアシェル、床に穴開けんなよ……」


 「あはははははっ!!何やってんのさ!!」


 カイが呆れながら手を貸し、クラス中に笑いが広がった。


 その隣では、フォンが眼鏡を押し上げながら細かな装飾を確認し、ニーナは器用に絵の具を調合している。


 「この色だと映えないわね。フォンくん、もう少し濃くできる?」

 

 「了解。じゃあ僕が仕上げてみる、

………水の精霊よ、清き水の理に触れること、どうかお許しを……。」


 フォンが詠唱……すると水色の絵の具が濃く変色した……‼︎

 え?水魔術ってそんなこともできるの!?


 「《これは魔術の"性質変化"ですね。絵の具を大量の水で薄めて、水を介して変色させたのです。》」


 女神様のフォロー。

 すげぇ……。魔術って本当に万能なんだな。


 「おーい、トウヤ、どうした?ぼーっとしてないで手伝ってくれ。」


 「え?あ、ごめん。でも僕、絵描けないよ?」


 「別にいいわよ、私たちが線を引くからそこの中塗って頂戴。」


 「わかった。」


 こうして真っ当に準備に携われるとは……実に感慨深い。


ーーー


 『何もしなくていいから。』

 『…今は、特にないかな。』

 『黒木ってなんか……偉そうだよね。』


 突如、脳内に響く過去の再臨。

 癒えきらぬ古傷の痛みが、突き刺さる言葉が、僕を過去から離さない。


 人一倍自信と責任感に溢れていた当時の僕は、頼まれてもいないのに周囲の人間に指示してばっかで、遂にはみんなに無視され、肝心の僕が一番何もしなかった…………


 あ、やっべ!!!


 感慨深さにフラッシュバックした過去をトリガーに"スキル共感性羞恥"が発動しかけた。


 まずいまずいまずい!!!

 ゔゔっっっっっっ!!!


 魔力の膨張。異世界で魔術を使い始めた僕にも異常と思えるほどの膨大なエネルギー。


 便意を堪えるように僕は全身に力を入れる。

 女神様が黒歴史の上映を抑えてくれるが、溢れ出る魔力は周囲に影響を与える。


 耐えろ耐えろ耐えろ……………


 「ふぅ………」

 

 徐々に魔力が落ち着くのを感じる。

 ニーナは僕の魔法を察知したのかものすごい目でこちらを見てくるが、他の人にはバレてないようだ。


 なんとか制御出来た………


 「おい、トウヤ。」


 「へ?」


 「……色、変えすぎだろ……。」


 「あっ。」


 手元を見ると、筆をつけた絵の具が「漆黒」に変わっていた。

 僕の魔力が暴走したのか………。


***


 夜。


 部活動が終わり、誰もいない校庭は、いつもより広く見えた。

 トラックのスタートラインに立つ。

 リレーのバトンを手に、深呼吸をする。


 付与は弱め、オルドに教わったフォームを崩さないように……‼︎


「……行くぞ」


 声にならない掛け声を胸に、地を蹴る。

 たった一歩、その踏み込みで大地を蹴飛ばし、一瞬で視界が切り替わる。


 前傾姿勢。勢いに身を任せ、僕は風になる。


 一歩一歩に重なる心音。

 けれど背中には、見えない鎖のような不安が絡みつく。


――僕が失敗したら。

――僕が遅れを取ったら。


 そのイメージが頭から離れない。

 走り出すと常に頭に思い浮かぶ。

 中学の………


 【どうしても忘れられない過去】

 

…………それが、脳裏に焼き付く。

 本番が近づくにつれ、回数が増える。


 忘れられない「あの日」が鮮明にフラッシュバックする。


「うわぁ!?」


 ヤバい……‼︎ 体勢がっ……!!


「ガッ!!ぐっ!!! ううっ……」


 顔面から地面にダイブ。


「《冬夜さん!!》」


「大丈夫、問題ありません……。」


「《ですが………》」


「『これ』は、僕が悪いんです。中学生の……バカだった僕が起こした問題なんです……。」


 【その記憶】を知るのは女神様と僕だけ。

 少なくともこの異世界では。


……言葉にするのすら躊躇する忌々しい過去。

 それは、全て僕の思い上がりと身勝手さが起こした中学3年生の"ある日"。


「うっ!!………ゲホッ!!ゴホッ!!」


 走り終えても、胸の奥の苦しさは消えなかった。過去の再臨を脳裏に浮かべてはえずきが止まらない。

 僕には眩しすぎる異世界の月明かりが大地に黒い黒い影を落とす。


 ーー体育祭まであと4日ーー


 せめて、付与をして普通に走れるようにならなきゃ僕はまたクラスに居場所がなくなってしまう。


 ニーナ、フォン、アシェル、カイ、オルド……多くの知り合いが出来た。もしかしたら友達にだって今後なれるかもしれないんだ……‼︎



「……相変わらずだな、クロキ。」


 声に振り返ると、校庭の端にオルドが立っていた。

 その横にはカイ、ナディア、ニーナ、そして何人かのクラスメイトの姿がある。


 「え……なんで皆んな……」


 「言っただろ? 努力するやつは好きだとな。」


 オルドが笑う。

 彼は相変わらずランニングウェアだ。

 いや、彼だけじゃない、カイ、ニーナ……各々が運動服に着替えている……‼︎


 「ルレーの練習は1人じゃ無理だろ。寮にいるみんなを呼んできたから、練習しようぜ。」


 「……私と勉強したあとに、こんなことまでしてたのね。少し見直したわ。」


 冗談まじりの声に、胸の奥がじわりと温かくなる。


 「よーし、出席番号順に並んではじめよっか!!」


 「あ、待って、僕まだちゃんと走れないから………。」


 「大丈夫よ。服が汚れたら洗ってあげるから。」


 「えぇ……。」


 夜風が笑い声を運ぶ。月明かりが僕らを見守る。

 孤独だと思っていた校庭に、気づけば仲間の声が満ちていた。


 もう一度、僕はスタートラインに立つ。

 胸の奥の重さは、ほんの少しだけ軽くなっていた。

 ……まだ、僕の脳裏には『あの日』がこびりついている。


 でも、頑張ろう。

 今だけは魔王候補のことは後回しにして、

 この瞬間を全力で……‼︎





 「よ〜い、スタート!!」

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