第24話 付与魔術
「……ヤ、………おい、トウヤ!!」
「うわぁ!!」
「どうしたお前、急にボーっとして?」
「い、いや、なんでも……ない。」
既に説明会は終わり、気がつけばアルコとディノは帰っていた。
フォンに叩き起こされ意識を戻す。
ヤバい、リレーのアンカーとかいう前代未聞の大役を押し付けられた……
どうしよう……マジでどうしよう……。
***
「それじゃ種目決めを行います。みんなそれぞれやってみたいやつに手を挙げてね。」
エクス学園は1日5限。午前3限午後2限だ。
生徒会が帰った4限の残り時間は種目決め。
壇上にはカイと1人の女子生徒。
いつもニーナと一緒にいる娘だ。
茶髪のツインテールで現実では初めてみる縦ロール、通称「ドリルヘア」をした少女。
ナディア・ロースラ
この2人が学級委員らしい。
「女神様、また解説お願いします。」
種目決め開始だ。
「ではまず、妨害合戦競争!!」
「《異世界版、障害物競走ですね。障害物の代わりに敵チームからの妨害が大量に来ます。》」
えぇ……。めっちゃ怖いなそれ。やりたくねぇ……。
「走者は男女各2名、妨害者はその他2名、計6名募集します!!」
なしなしなし。絶対やりたく……
「はい、私、妨害者やりたいです。」
するとニーナ。妨害者か、性格出てるな。
「了解!!他にはいますか!?」
妨害合戦は即座に決まり次へ
「では次!!空中滑空ルレー!!」
「《風魔術を利用した空中でバトンをつなぐ競技です。》」
うーん。風魔術なんてほとんど使えないから却下だな。
「じゃあ僕、出たいです。」
フォンが挙手した。そうか、確かあいつ空中スキー部とか言ってたもんな。
……まずいぞ!!どれもこれも僕には荷が重いやつばかりだ。なるべく目立たず、参加人数が多いやつ来い!!
「では次!!尻尾取り!!参加人数8人!!」
これだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
「はい!!僕、やります!!」
「《………。》」
黒木冬夜、体育祭参加種目(個人)
1日目、ハイドロラッシュ
2日目、尻尾取り(詳細不明) に決定。
***
5限目は体育。今日(2/18)から体育祭(3/1)までは授業で競技の練習が許可される。
グラウンドは広大で、赤土の匂いが鼻に入る。白線を引いたばかりのトラックが眩しく光り、冬の乾いた風が吹き抜けていった。
ん?マジで光ってないかあの白線………。
ちなみにマイト先生が体育の担当だ。
そういえば、僕はこの世界の体育初めてだな。学校に初めて来た時に、超人的な動きをしているのは見たけど……
「じゃあみんな!!付与魔術をかけたら各々練習に入ってくれ!!まだ全員分の種目は決まってないから今日は団体競技だな!!」
付与魔術?体育の際はわざわざ使うのか?
「《異世界では怪我防止のために付与魔術を義務付けています。副作用のないドーピングと思えばいいですね。》」
へぇ、地球じゃドーピングでもこの世界だと安全対策になるのか。
「トウヤ?早く付与しないと練習始まるよ?」
「あ、ごめんアシェル。今やるよ。」
「いいよ。はい。」
「え?」
アシェルが僕の肩を軽く叩いた。
──その瞬間。
「……っ!?」
体の奥底から、燃え盛るような力が溢れ出す。
筋肉に火が灯ったみたいだ。空気が軽く、足取りが羽のよう。
今なら本当に、素手で岩を砕き、ジャンプで空を飛べそうだ。
「アシェルはな、付与魔術の"無詠唱"が出来るんだ。」
「一度触れるだけで数十種類の付与を同時にかけることが出来る。この国でそんなことが出来るのはわずか数人しかいない。」
「へ、へぇ……。」
カイとオルドの解説が入る。
無詠唱……?あの、異世界系でよくあるやつか。……詠唱破棄と違うのか?
「《無詠唱とは、詠唱破棄のさらに上の超高等技術。詠唱破棄と違い、魔術名すら唱えず魔術を扱えるのです。》」
…‥なる程、つまり詠唱を破棄して、魔術名(水珠<リオクル>)だけで使えるのが詠唱破棄。
それすら不要で完全無言なのが無詠唱か。
……アシェルってやばくねぇか?
「アハハッ、魔術に関してはこの学園の誰にも負ける気はしないよ。特に付与魔術はね。僕は4級以下の全ての付与魔術を扱えるんだ。」
「《付与魔術は治癒魔術と同じく最も種類の多い魔術です。それを4級まで全て扱えるとなると高校一年生で医師免許を持っているのと同等の偉業ですね。》」
は?化け物じゃん。
エクス学園、天才の巣窟だと思っていたがアシェルはその中でもトップクラスの天才だな。
***
そしてリレー練習。
出席番号順で走者を決め、スタートラインに並んだ。
「よーい……スタート!」
ドガァッ!!
「うわああああああああ!?」
な、なんだこれ!?
足が速すぎる。制御できない。
一歩目で地面をえぐり、土煙を巻き上げながら派手に転倒した。
痛ぇぇぇ……いや、痛くねぇ……けど、これが付与魔術か。
全身にかけられた「身体強化付与」は僕の足をチーター並みの速度に変えた。
あまりの速度に耐える肉体は地面に衝突しても傷一つなく、痛みも皆無。しかし、その過ぎた力は僕の脳にとてつもない衝撃を与えた。
「クロキ、もう一周いけ!」
「む、無理……!」
何度挑戦しても、体が加速に耐えきれず転ぶ。
走るというより、射出された弾丸。止まれない。制御不能。
「ハハハッ!クロキ、走るたびに地面にクレーターできてるぞ!」
カイが爆笑している。……お前覚えてろ。
さらにバトンパス。
「いくぞ冬夜!」
「わ、わかった──」
――ズバァッ!!
速すぎて視界から消えた。相手の手がどこにあるのか分からない。
結果、何度もバトンを取り落とす。
「まぁ、本番はトウヤに合わせて付与を調整するから安心してよ。」
「うん………。」
そう、気遣うアシェル。
その優しさが心に突き刺さる。
こうして天才と化け物だらけの練習初日、
僕は早くも心を折られたのだった。




