第21話 異世界男子のルーティン
異世界生活10日目
僕の名は黒木冬夜。高校生。熱中症で倒れたところを女神様に助けられる代わりとしてこの異世界に転移した。
今日はそんな僕の1日のルーティンをお送りしよう。
***
「チュミィィィィィィィィィィィィィ!!!」
桃色の羽根に包まれた鳥"アスタ"。
異世界のニワトリだ。
この世界の鳥はありがたいことに毎朝、起床時刻になると叫んでくれる。
休日のときはダルそうだが、この前のテスト勉強では助かった(まぁテストは………)
朝食は机の上に置かれている。
メニューは
ドナ麦パン
目玉焼き
紫葉のサラダ
焼いた燻製肉 だ。
1番よく使われるドナ麦という品種はかなりもちもちしてお腹に溜まる。麦で作った餅のような食感だ。目玉焼きはなんというかその。
デカい。めっちゃデカい。地球の目玉焼きの3倍くらいある。ちなみに半熟で黄身は赤い。
……黄身?
中心に赤丸のある卵はまるで恋しい日本国旗のようだ。味は真っ赤なくせにあまりしない。醤油なんてものはないからソース的な何かか塩胡椒でいただく。
紫葉のサラダ。この世界の野菜の名前なんて知らないから勝手にそう呼んでる。紫。マジで紫。味自体は普通。ドレッシングが美味い。
燻製肉は最高。これに比べたら日本のベーコンなんかカスや。
僕が憧れた"ハウルの動く城"のようなベーコン。肉厚でジューシーでいい感じの塩味がする。これだけでご飯3杯はいけるな。
***
「不浄を退けよ、ノクサ」
異世界に歯磨きはない。10級解毒魔術、<ノクサ>で歯についた汚れを落として終了。
虫歯菌や食べカスも魔術の対象になるらしい。便利すぎ。
そしてマウスウォッシュで口臭ケアを済まし、寝癖を直す。
制服に身を包んで登校だ。
「おはよう、トウヤ」
「おぉ、おはよう。」
隣の席のフォンだ。
この前のテストで爆死してからというものの彼は毎朝誰よりも早くきて勉強をしているらしい。本当に努力家だな。
「さぁ、みんな席につけーー!!1限始まるぞぉ!!」
このエクス学園は基本的朝のHRなんてものはない。帰りだけ。時間が経てばすぐに1時間目が始まる。
1時間目「語学」
「文章を"記号化"したあと、表を描いて計算するのもいいが、こうして"タブル"に置き換えて式にすると楽だ。」
語学。異世界版の国語のこの授業は様々な文章を記号に置き換えて"計算"する。
「勇者が現れれば魔王は滅ぶ」
論理式にすると、
p:勇者が現れる
q:魔王が滅ぶ
これを妥当かどうか計算するらしい。
……よくわからん。
2限目 魔術実践
異世界には2種類の体育がある。
一つ目は単純に体を動かすもの。
二つ目は"魔術"だ。
みんな体操服を着て修練場に向かう。
今回は土9級魔術岩弾<ラピッリ>の訓練だ。
弓道場のようなとこから「的」目掛けて岩弾を飛ばす。
これに慣れると他のいろんな魔術の精密性が上がるらしい。
また、この授業を通して詠唱破棄を身につければ履歴書にも書ける。
まぁ、社会で役に立つかは知らないけど……
「おお!!すげぇぞアシェル!!!」
「ん?……………はぁ!?」
咄嗟に声の方に振り向くとそこには"兵器"、否アシェル・アルクトゥーガがいた。
「やっぱ、最高だ!!この骨身に魔術の反動がくる感じ、たまらないね!!」
ドドドドドドドッーーと手からマシンガンのように岩弾を連射している。
的は穴だらけでボロボロだ。
アシェルは無邪気な笑みを浮かべるが完全に敵キャラのそれだ。
横にいるカイはそれを見て爆笑し、オルドは頭を抱えていた。
遠巻きの女子はハイスペックなイケメンを見てキャッキャしてる………クソが。
う、やべ。また"黒歴史"を思い出した。
「コラァァァァァァ!! アルクトゥーガ!! なにをしている!!!」
あ、先生が怒った。
流石に危険すぎたのかアシェルは先生に連れて行かれ、しごかれていた。
そりゃそうだ、学園内で銃乱射してるのと一緒だろこんなん……!!
3限目「算術」
これは日本と変わらない。なんなら少しやる内容は簡単なくらいだ。
ん?ならなぜ僕が51点なんか取ったって?
理由は簡単さ
「じゃあ問1から問12までやってみよう。制限時間は……3分もあれば充分か。」
一斉に動き出す生徒たち。紙を捲る音とペンが机に触れ合う音だけがこだます。
ーーそう、異世界の数学は何より"早い"のだ。数分で何十問もの問題を解かされる。
おかげで僕はテストの制限時間に間に合わず、爆死した。しかもここは国内最高峰のエクス学園。生徒のレベルの別次元だ。
***
「じゃあこの日替わりランチで。」
「了解。」
昼休み、へとへとになった僕はニーナに学食を奢っていた。今日から勉強スタート。ニーナにあれこれ教えてもらうのだ。
ーー正直女子と放課後に約束があるのは興奮するな。
「あははは!!転校生くん、ニーナにいいように使われてるね!!」
「ニーナ〜、彼ピにあんま迷惑かけちゃダメだよ〜?」
「な、何よ!!ちゃんとこの分の見返りはするわよ!!……あと、彼氏じゃないから!!」
ニーナを揶揄う女子生徒2人。
ニーナがいつも一緒にいる人たちだ。
僕がニーナに食事を奢ると彼女らが冷やかしてくる。正直やめてほしいが、女子に構われるだけで内心嬉しくなってしまう自分が情けない。……だってこの世界の女の子みんなめちゃくちゃ可愛いんだもん。
食事は大抵1人かフォンと一緒に食べる。
この学園の生徒は皆、テーブルマナーがすこぶるいい。複数人の食事はそれだけ緊張や注意も多いが、やっぱり1人よりかは遥かに良いものだ。
「あ、そういえばフォン、4限の授業ってなんだっけ?」
「ん? 忘れたのか。4限はHRだ。生徒会の人たちが体育祭の説明をしにくるらしい。」
生徒会……!!この世界にもあるのか。
「トウヤ、僕はまだ食べてるから先教室戻っててくれ」
「うん、わかった。あとでね。」
昼食を終える。
教室に戻るまでのわずか数分の景色だが、このエクス学園の校舎はものすごく綺麗だ。
西洋風のモダンな建築。そこら中に植物園にしかなさそうな綺麗な花や草木が植わり、白で統一されたベンチや彫刻が並んでいる。外は東京のような高層ビルで囲われているのに、学園の中はまるで別世界。
「異世界の中の異世界だ。」
午後は体育祭についてのクラス会議があるらしい。
体育祭。その競技に魔法研究部として僕が出ることになった。異世界生活において間違いなく重要なイベントととなるはずだ。
ん?……でもこれって魔王候補捜索となんも関係ないんじゃ…………
「あ!! きみきみ!!」
「はい?」
声と同時に目に飛び込んできたのは、七色に輝く髪と瞳を持つ少女。
髪は虹のように光を反射し、瞳も見る角度で深い瑠璃色から炎のような金色に変わる。
すっげえ見た目だな。こんなの目立ってしょうがないだろ。
自信に満ち溢れた立ち姿。挑戦的な笑みを浮かべ、声の勢いのまま迫ってくる。
その圧力だけで、僕は思わず一歩後ずさる。
「……え? 誰ですか?」
「私はアルコ!!生徒会執行部1年生!!君がこの前転校してきたトウヤ・なんとか君でしょ?」
「あ、はい、トウヤ・クロキといいます。始め……まして……?」
なんとかってなんだよ失礼な。
てか、随分とぐいぐいくるなこの人。
「で……その生徒会の方が僕になんのようですか?」
「ふっふっふっ。とぼけても無駄だぁよ。君のことならなんでも知っているんだからね。」
やけに芝居がかった口調で話してくる。テンション高いなコイツ。
しかし、その一言は僕の平穏をぶち壊した。
「君、魔法使いでしょ!!」




