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第15話 関係更新



《トウヤ・クロキ》

ニーナ、もし時間が空いていたら放課後、第Ⅲ棟の裏に来てくれない?

頼みたいことがあるんだ。



 私のマジホに一件のメッセージ。

 クロキ・トウヤ。東方出身の彼と私は奇妙な関係を築いている。


 それは、互いの秘密を守り合う関係だ。

 迷って女子寮に来た彼を怒鳴りつけたせいで私は彼の魔法により正体がバレてしまった。


 挙動不審で、非常識で、恥の擬人化。だけど秘密は守ってるし、魔法が解除されたときに「大丈夫?」なんて声をかけてきたのは彼が初めてだった。


 それに、私たちは秘密を共有しあっている関係だ、頼みを無碍にするのはリスクがある。

 めんどくさいけど行ってやるわ。



 魔法が発動している間は、どれだけ歩いても疲れない。

 長い脚は階段でも運動でも軽やかに動くし、誰かが見ていれば映える。

 流行の服も靴も、鏡に映る私はすべてを着こなす。

――それが、この嘘の身体の「魅力」。

 私は死ぬまでこの姿を演じ続けるのだ。



 「あっ……」

 

 ……。私の体が縮む。

 細長く綺麗な手足が、サラサラの髪が、失われていく。周囲のものが急に高く……いや、私の身長が小さくなったのね。


 魔法が解けた。ということは、この場所にいるのは私と"彼"だけということ。


 「ごめん。待たせたわね。」


 「い、いや、呼んだの僕のだから。来てくれてありがとう。」


 私が呼ばれた理由。

 "頼みごと"


 「で? 頼みごとって何?」


 私たちの関係上、出来る限り彼の要望には応えなければならない。


 正直、トーヤが何考えているのかわからない。もしかしたら、魔法のことを黙る代わりにとんでもないことを頼まれるかもしれない。


 「たった一つのことさ。」


 そういうとトーヤは地面に両膝をつき、額を擦り付けた。


 初めて見る人の体勢。なんかキモい。

 東方の文化なのだろうか、それはまるで、王に絶対の忠誠を誓う古代の奴隷の儀式にも見えたし、あるいは――処刑を受け入れる敗者の姿にも思えた。


「……な、なにそれ。降霊術? 頭、地面に吸われてるじゃない……」


 魔法の解けた私より縮こまると彼は一言叫んだ。







「僕に勉強を教えてください!!!!」




***




放課後。僕は全力の土下座をキメていた。


「ニーナ様!! 僕に勉強を教えてください!!」


第Ⅲ棟の裏、

m-chatでニーナを呼び出し地に伏せていた。


 ニーナは驚いたように目を丸くし、数秒の沈黙の後、口を開いた。


「何でよ……。私も全然出来なかったんだけど。」


 全然。ほう、全然ですか。

 ちなみに学年平均は68点。

 フォンもその点数で今日はひたすら凹んでいたから彼に頼むわけにもいかなかった。


「……これを見ても、全く同じ言葉が言えますか?」


「? なによこれ」


僕はニーナに白紙の紙を渡した。

ーー否、裏返した僕の答案用紙だ。


 ニーナはそれを手に取り、透けて見える文字に気づくと裏返した。

 目を丸くしたまま、顔が引き攣っていく。

 まるで死体の第一発見者のような衝撃だ。


 彼女の目と引き攣った表情に思わずスキルを発動しそうになったが、なんとか堪える。


「に、じゅう………え? 嘘でしょ?」


「もっというと、これ……ちゃんと勉強してこの点数なんです………。」

 自然と敬語になる僕。まるでシスターに懺悔をしている気分。


「そ、そう。ま、まぁ転校してきたばかりだし、しょうがない……えぇ、うん。次は頑張りなさいよ……」


 本日何度目だろうこの反応。

 流石の秀才達もここまでの想定外を見ると思考がフリーズするのか。


「…………。 わかったわ。」


ニーナはそういうと僕に答案用紙を返した。


「勉強、教えてあげる。」


え、マジか!?


「いいの?」


「ただし、毎日昼食を奢ってくれるなら」


「そ、それだけでいいのか?」


「ここまでひどい点数だと逆に教えたくなるものよ。」


 なんだか嬉しいような、悔しいような。

 でも、勉強を教えてもらえるのはありがたい。昼食なんて安いもんだ。

 ていうかニーナってマジで優しいな。僕こんなに人に優しくされたの何年振りだろ。


「……あの、マジで僕、ヤバいところから教えてもらう感じになるけど」


「了解。読み書きからでいい?」


「そこまでじゃないけど……」


……妙に静かな夕焼けが、僕の情けなさに追い打ちをかけてきた。

でも、ニーナには感謝感謝だ。


***


 その夜。女神様に日課の報告をした。


「《そうですか、ニーナさんに勉強を教えていただけるのですね。》」


「えぇ…なんとか首の皮一枚繋がった感じです。」


「《それは…よかったです。……私は試験のとき全く役に立てなかったので。》」


「あはは………」


 否定は出来ない。本心もどうせ読まれているので僕は苦笑いしかできなかった。


 テーブルに置かれている。弁当を食べながらマジホでD-Tubeを見る。


 毎度思うがこの弁当誰が用意してくれるんだろう。

 女神様が手配しているのは知っているが。

 バランス良くかなり美味しい。異世界だけど肉(鶏肉?)の味付けは甘辛く、日本人好みの味付け。もっちりしたパンにエビもどきや貝の乗ったサラダ。

 値段にして数千円は軽く行きそうだ。


「《あ、それは私に仕える家のものに用意させています。》」


「へぇ、女神様に仕える家ってどんな感じなんですか?」


「《冬夜さんのような異世界人の末裔ですね。なので私とも常にやり取りが可能で、契約により私に仕える代わりに様々な恩恵をもたらしているのです。》」


ほほう。実在する神職のようなものか。


食事を終え、僕は勉強の計画を立てる。

……。

語学40点

算術51点

世界史28点

術理23点

保健体育39点


 語学、算術、保健体育は日本とそう変わらない。それでも僕はこの学園のレベルについていけなかった。来る期末試験に向けて勉強をしなければ。


そう決心した瞬間、マジホがピロンと鳴った。


 m-chat、知らない人が勝手に追加されていた。

 名前は……ルリアン。………誰だ?





《ルリアン》

初めまして、私たちは魔法研究部です。

私たちの活動に参加してくれれば報酬として学園の定期試験の過去問を提供出来ます。 

詳細は明日の放課後、部室棟2階にて。




………魔法研究部?


 知らない名前だ。部活の勧誘?

 つか、なんで僕がテストで困っていることを知っているんだ?


ブブッとマジホがまた揺れる。


ルリアンからの通知が続く。


………これは………!







《追伸》

「我々はあなたが魔法使いであることを知っている。」

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