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第13話 中間試験、当日



──終わった。


 いや、マジで無理だった。

 異世界学園生活、二日目。中間試験、一日目。

 一時間目は世界史。「人類独立戦争」とか「天使との戦い」とかいう壮大な単語が並ぶ、あの授業。


 教科書の太字は全部覚えてきた。なのに、それでも、全然足りなかった。



「次の中から“マグカプ”の説明として正しいものを二つ選べ(完答)。」

1.白い爪と黒い牙、二足歩行で高い魔力を持つ

2.黒の毛皮に高い知能を有する

3.アリナミティ半島から中央大陸に上陸した

4.雑食で原始道具を使用していた

5.指の本数は4本である


……選択肢の情報量が爆発してる。

「白い爪、黒い牙、二足歩行、高い魔力」って、一個でも違ってたら不正解?

しかも二つ選んで完答制。外れたらゼロ点。つまり、適当に答えたら当たる確率は──10%。ギャンブルかよ。


僕は教科書の8割は覚えた。けど、残り2割にこういう地雷が埋まってる。


2番は……図の色が黒かった気がするし、まあ多分正解。

3番……アリナミティ半島? 初耳だ。

4番……雑食だったのは覚えてる。でも“原始道具”って“起源道具”とは違うよな?

5番……指の数なんて知らん。挿絵で指を数える読者、いる?


……もういいや。1と2にした。知らんもんは消す。



 休み時間。


「……なぁ、この学園のテスト、魔境すぎない?」


「分かる。でも、教科書を一言一句覚えれば簡単だよ。努力量ゲーだから」


 横の席のフォンが、爽やかに言い放つ。


「一言一句って、そんなの現実的なの……?」


「記憶力には自信ないから、毎晩音読してるよ。丸暗記じゃなくて、意味ごとに覚える感じ。選択肢の“違和感”で見抜くんだ」


 ……こいつ、努力の方向が違う。

同じ“覚える”でも、僕のやり方とは別物だった。


 一応、僕も中学の頃までは学年上位を維持してきた。僕に勉強法を聞くものも数人いた。


 その度に天狗になって教えていたが、いざこうして本物の秀才に会うと俺なんか井の中の蛙、日本の陰キャだ。


 とか言ってる間に、次は術理のテスト。魔法の詠唱記述。


 詠唱、詠唱、詠唱……今のうちに頭の中で反復しておく。



【問8(3)】

6級治癒魔術セリオニスの詠唱を以下の負傷に合わせて記述せよ。


・負傷箇所:右腕人差し指

・症状:内出血、腫れ

・患部の可動不可、接触時に激痛


……えーっと。6級って、どれだっけ?


ていうか、詠唱って傷の内容に応じて変わるんだよな……?


まぁ、いい。何か書けば部分点は取れるだろう。



──あぁ、わかんね。


 「癒しの風よ」「命の流れを辿れ」「治癒の環よ」……似たような言い回しが頭の中でぐるぐる回って、記憶が溶けていく。

 カラオケで歌の2番の歌詞がわからない感じだ……行ったことないけど。


 とはいえ、何度も言うが僕は中学時代、通年クラス1位。こんなところで終わる人間じゃない。

 そうだ──奥の手があるじゃないか。


勉強時間はほとんどなかった。


 マジホの動画アプリやアニメに何度も邪魔された。


──しかし、ここで終わる僕じゃない。








「女神様ァァァァァァァ!!!」


 心の中で叫ぶ。文字通り“神頼み”ってやつだ。


(女神様、聞こえてますか!? 6級治癒魔術セリオニスの詠唱、今すぐ教えてください!)


 返事がない。


(……ん?)


「《……あの、冬夜さん……少々、申し上げにくいのですが……》」


 この前置き、嫌な予感しかしない。


「《私、詠唱を使わずに魔術を発動しておりますので……その、正確な詠唱については……存じ上げません》」


──知らねぇのかよ。


「《で、でも!! 私、この世界の歴史上存在したすべての魔術を詠唱破棄で使えるんです!!!》」


「じゃあ、それでこの問題解けますか?」


「《…………。》」


逃げられた。



 歴史上の全魔術を詠唱破棄で発動できる女神様。

 まさにチートの極み。けれど──詠唱問題ではまるで役に立たない。


 結果、僕はうろ覚えの中から、

 「風よ、癒しの光を抱きしめて。流れよ、命の環……」とかいう詩みたいな何かを書いて提出した。



──試験後、廊下。


「あの詠唱、“骨肉の系譜を紡ぎ直せ”って表現、あってたよな?」


「あぁ。あの症状からして軽度の骨折だろう。」


「そうそう! だから本来は《セリオニス》で骨の構造を直して、そのあと8級の《ヴィータ》で血管と筋繊維、仕上げに10級の《ミナ》で鎮痛! この三段階構成が──」


「はいはい、分かった分かった」


 ──すごい、マジで勉強出来るんだなあいつら。


 アシェルがカイとオルドを相手に熱弁を振るっている。

 話の内容がハイスペックすぎて、僕の解答とは次元が違う。


 ていうかその単語、僕の答案と一文字も一致してないんだけど?


 僕が書いたのは詩集。たぶん、“癒し”てすらいない。

 指を骨折したやつの前で痛いポエムを詠唱しただけだ。……キッショ。


 僕の解答、術理の無気力な先生に読まれたら、たぶん笑うぞ。

 静かに、僕は膝から崩れ落ちそうになった。



***


──そして二日後。



【中間試験・結果発表】


トウヤ・クロキ

クラス:1-Ⅲ

学年順位:最下位(318位/318人)



 1ミリも表情筋を使ってない顔で僕は紙を見る。

……当然、覚悟はできていた。


すると、


!?


 肩を叩かれた。

 マイト先生だ。

 その顔は確かに笑っていたがなんと言うか余裕がなかった。


 普段からは想像もできない小声で彼は告げる。


「黒木。お前、あとで職員室。な?」


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