第11話 試験勉強 前編
ーー定期試験。
それは学生にとって容赦なき悪夢イベント。
「学生の本分は勉学だ」とか、
「今努力しないと将来泣きを見るぞ」とか、
外野の声はうるさいほど飛んでくるが、そんなことは百も承知だ。
……分かっていても嫌なものは嫌だ。
努力が報われなかった時の虚無感。
「やばい」と言っていた友人が普通に高得点を取った時の裏切り感。
凡ミスで答案用紙に穴が空きそうになる自己嫌悪。
これらが一気に押し寄せる、クソイベの代表格。
中学時代はまだ良かった。
試験一週間前に範囲が発表され、
朝・夜・授業中は教科書と問題集をひたすら暗記し、自習時間はひたすら問題を潰すだけで学年上位をキープできた。
しかし、高校は違った。
進学校の試験範囲は、中学時代の三倍増し。
一週間の勉強なんかで太刀打ちできるわけがない。
結果、入試の栄光など跡形もなく、成績はあっという間に転落した。
――だから分かる。
今回の試験が、どれだけヤバいかを。
異世界最強国家・デア王国の超名門、エクス学園。
偏差値75オーバーという学園の試験は、
僕の元いた日坂高校(偏差値68)と比べると、「人類」と「超人」ぐらいの差がある。
問題も生徒の頭脳も、すべてが次元違いだ。
マイト先生は「入学したばかりの冬夜くんは期末で評価するから、中間はノーカウントだよ」と優しいことを言ってくれたが、
赤点・留年・退学――それだけは避けたい。
魔王候補を探す前に、試験という名の魔王を倒さなきゃならない。
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時刻は午前8時。
地球時間に直すと10時前あたりか。
この世界は地球と時間の流れが違うため時計も特殊。
……でもめんどくさいので、女神様に地球基準の時計と時間割を用意してもらった。
・勉強時間は1日最低8時間。
・こまめに休憩を挟み、夜更かしは絶対しない――。
中学時代に学んだ鉄則だ。
とりあえず、まずは計画を立てる。
勉強する以前に大事なのは、敵を知り、味方を 学ぶこと。
昨日配られた試験範囲プリントに目を通す。
……ふむふむ。
………なるほど。
中間試験は2日間。5教科。
魔術実技はナシ。
科目は――
語学、算術、世界史、魔術基礎I、保健体育。
「……お、思ったより普通の名前だな」
一瞬油断しかけたが、異世界補正が乗ると地雷原になるのは目に見えている。
ここは慎重にいこう。
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僕は集中するため、頭の中で強く念じた。
――女神様ぁあああ!!!!
『はい。なんのご用ですか?』
脳内に、澄み切った美声が響く。
声だけでIQが5は上がった気がする。
「勉強を教えてください!!!」
***
『了解しました。では、試験科目の解説からですね』
女神様、マジ頼れる家庭教師。
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「まず1教科目、語学です」
『この科目はデア王国の公用語“マキナ語”を学びます。世界共通語でもあり、世界人口の7割が話しますね。みなさんはすでに話せるので読解力や論理的思考力を養います。』
僕は試験範囲にある見慣れない作品を見る。
「『このウロヴォルの虚しい目覚め』というのは?」
《差別をテーマにした近代文学です。形式として文章読解が中心ですので、冬夜さんなら問題ありませんよ。》
「現代文っぽいですね」
古文・漢文がないのは朗報だ。これは後回しでいい。
「ではこの、『命題論理』というのは何ですか?」
『文章を記号化し、それを計算する科目ですね。』
ん???
は??? 計算? 文章を??
……今説明されてもわからないだろうから後回しでいきましょう。
「次、お願いします。」
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「次に算術」
試験範囲を見ると――数と式。
僕はその文字を見てすぐ、手元の教科書を開いた。
「おい、これ勝っただろ」
中学で習う単公式・多項式じゃないか。
これなら勉強はいらないな。
高校の授業についていけなかったが、一応県内屈指の進学校に受かった僕ならこの程度問題ない。
アメリカ留学した日本人が数学で無双するやつだ。はっはっは。
女神様が『いや、油断は禁物ですよ?』と釘を刺す。
分かってますよ、でもこれは余裕枠です。
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「3教科目、世界史」
『この世界の歴史を学びます。一年の前半は世界史、後半は王国史を交互に学ぶんですよ』
「人類の誕生から人類独立まで……って、人類独立って何ですか!?」
『それは後ほど詳しくお話します』
おいおい、なんかやばいワード出てきたぞ。
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「4教科目は術理基礎ですね」
あぁ…あの水魔術を暴走させた授業だ。
『日本で言う理科基礎に近い学問です。魔術の原理を研究し、魔法陣の作成や応用も出題範囲ですよ』
「電気回路の代わりに魔法陣ですか……僕、絶対ショートさせる未来が見えるんですけど」
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「最後に保健体育」
『人体の構造と、魔力が体に与える影響を学ぶ科目です』
教科書1~20ページ。これは暗記勝負か。
試験前日に叩き込めば何とかなるだろう。
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『以上です。質問は?』
「いえ、もう十分です。とりあえず世界史と魔術基礎から始めます」
『分かりました。分からないところがあれば呼んでくださいね』
女神様の気配がスッと消える。
脳が一気に冴え渡った気がした。
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マジホを取り出し、タイマーをセット。
この世界の時計を36分――地球時間の1時間分に設定する。
さて、まずは世界史からだ。
異世界の歴史なんて、ちょっとワクワクする……いや、勉強だ、勉強。
「暗記ゲーだろ」と高を括りながら、僕はページをめくる。
――そこで目に飛び込んできた最初の一文は。
「本書は、一万年前の天使支配からの解放以降の人類の歴史について述べる。」




