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第3章:鈴香の影編ー第7話:香塔襲撃

帝都中央、記録塔――通称「香塔」。

香調司が管理するあらゆる香技と記録香が保管される、帝国の知の聖域。


静華は朝早くから、その地下封印庫にいた。

記録香《鈴ノ記》を再度検証し、リュウの過去と思想を読み解こうとしていた。


「……やっぱり、“記憶を消す香”と“記録香第八式”の応用を組み合わせてる」


ユウが香図をのぞき込んだ。


「つまりリュウは、人から記憶を抜き取って、別の記憶で“上書きする”ことができる……?」


「ええ。そして、その香の核には……“母の記録香”が使われてる」


静華の瞳が鋭くなる。


その時だった。


――ドォン!


塔の上部で、鈍い爆音が鳴り響いた。


「……何!?」


封印庫の天井が微かに震えた。


すぐに庁内の警報香が焚かれ、緋色の煙が天井から噴き上がる。


(侵入者!?)


静華とユウが駆け上がると、塔の第二階層が破壊され、香壺が割れ、警備官たちが香麻で倒れていた。


「この香……“睡香”! 香気で意識を奪う調香!」


目の奥に残るのは、鈴の音――


――チリン……チリン……


塔の中央ホールに、銀の鈴が転がっていた。


「リュウ……!」


静華は咄嗟に封印庫へ引き返す。


(記録香《鈴ノ記》が狙い!?)


だが地下に戻った瞬間、封印室の扉がすでにこじ開けられていた。


「……っ!」


香の香気はまだ微かに漂っている。


だが、香壺《鈴ノ記》は、空になっていた。


その夜。

観香庁の対香会議で、香塔の一時閉鎖と被害記録の報告が行われた。


「記録香《鈴ノ記》――玲華元観香官の最終記録が、何者かに奪われた。

侵入の痕跡から、内部に協力者がいた可能性も高い」


静華は硬く口を結びながら、懐の小箱を握っていた。


(でも、完全な記録香は盗まれていない)


彼女の手には、玲華が残した“分割記録”の一片があった。

《鈴ノ記》の補助香。

リュウに奪われた主香を追い、再構成するための、唯一の鍵。


「母さん……今度は、私が香を追いかける番だよ」


その夜、観香庁の屋根の上を、月光の下にひとつの影が通り過ぎる。


風が、鈴の音を運んだ。


――チリン。

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