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地味に生きたい長谷川ソウタ

──俺の人生のピークは中2だった。

古本屋の文庫棚。ほこりをかぶった棚の隅っこに――その本はあった。

タイトルは『闇ギルドの受付嬢-堕天使ノエルの憂鬱』著者:長谷川ソウタ。俺だ。

狭い隙間に無理やり入れられ、カバーは折れている。小さく貼られた値札には

「110円」

「うん。まあ、そうなるよな」

 

 あれから3年。

俺は高校2年生になり、ラノベ作家としての未来はどこかへ行った。

今は自室でパソコンに向かっては、投稿サイトに短編を上げる日々。

最新作の閲覧数は312、いいねは……108。

ファンの数──108煩悩か。南無三、供養完了。

 

ちなみに、同級生には作家だということは言っていない。というか、あまり触れてほしくない。

「すごーい!小説とか書けるんだ!」のパターンがキツイ。

その後に地獄の言葉が待っているからだ

「何てタイトル?」

言った所で知らないし、そもそも中二病すぎる。あれは現役中2が中二病を書いたから、コンテストで奨励賞に引っかかり書籍化しただけだ。

今ではタイトルを言うのさえ恥ずかしい。

 

──そんな一般人となった俺の朝は、幼なじみに起こされるところから始まる。

 

「ソウくーん起きてー!もう七時半だよー!」

窓の向こうから、聞き慣れた声がした。

朝倉ユイ。隣の家の幼なじみで、毎朝こうして窓ごしに起こされる。

俺は窓を開けて返事する。

「今日って……日曜じゃなかったっけ」

「違うよ!月曜日!」

「月曜日……あー、じゃあ小説投稿日か……」

「登校日だってば!」


俺が制服を着て下に降りると、玄関で待ってるユイに引っ張られるように家を出た。

――活発で性格も良いユイはクラスでも人気がある。

教室でも手を引っ張られたりしてると「夫婦か~?」と少し妬みがこもった冷やかしを受ける。止めて欲しい。ユイのような陽キャの将来に傷を付けたく無い。俺はあくまで高校では空気になりたい。


ユイは、隣でいつものように喋っている。

「ねえソウくん、今度の文化祭の出し物知ってる?」

「たしか、喫茶店じゃなかったっけ?」

「メニューのネーミングとか考える人が居ないらしいの……ソウくん得意じゃんそういうの」

「いや、俺のネーミングセンス中二病だから【漆黒ノ喫茶店】とかになるよ」

「あ、それ採用ね」

「やめろやめろやめろ!!」

 

ユイはたまに俺のことを褒めてくる。

高校生になっても幼馴染だからと構ってくれるのは少し気が引ける。


売れない小説が1個出ただけだ。なぜいまだに「すごい人」扱いされるのか、俺はずっと疑問に思っている。

正直に言おう。チヤホヤされた時代は、確かにちょっとあった。中2作家としてそこそこバズった。

でも今は違う。今の俺には中2が消え、しょっぱいアクセス数しかない。


「ねえソウくん、今日の夜ひま?」

「あー夜は執筆ある」

「そっか、また小説?なに書いてるの?」

「充電器として生きる」

「……え?」

「タイトルは『充電器だけどさっきから抜き差しが雑すぎる』」

「……ソウくんって、ほんとに売れる気ある?」

「ないよ。好きで書いてるだけ」


ユイはため息をついて「もう、変わらないなあ」とつぶやいた。

俺は意味が分からずポカーンとする。

──ああ、今日もすごくないラノベの主人公だな、俺。


――


昼休み――

購買の焼きそばパン戦争に敗れ、俺はいつものように図書室へ避難した。

ここは静かで落ち着く。スマホも禁止だから騒ぐような人達は居ない。


そんな俺の聖域に今日は珍しい人がいた。

「……あれ、長谷川くん?」

声をかけてきたのは黒瀬アカネ。

同じクラスの読モで「高嶺の花」ってやつだ。

美人、スタイルよし、SNSのフォロワー数万。

 

「どうも」

「ここ、よく来るの?」

「たまに」

「へぇ、意外」

一言ラリーのような盛り上がらない会話が続く。

なぜ天上人が俺に話しかけて来たのか分からない。


それだけ言って、彼女の持っている文庫本に目を落とす。

タイトルをちらっと見ると、心臓が止まりそうになった。


『闇ギルドの受付嬢~』

俺のじゃねえか!!


なぜ読んでいる。どういう趣味だ。いじめか?どこかで動画撮影されてるのか?

パニックになりながらも平静を装う俺。

 

「それ、読んでるんだ?」

(やべぇ、読モの黒瀬さんが俺の黒歴史を読んでる。この世界、俺に厳しすぎる)

「うん。なんか表紙のデザイン、暗殺者っぽくてかっこいいなって思って」

「あーデザイナーさんのこだわりがあって」

「んっ?何その言い方?」


やばいバレたか?

でも、彼女はすぐに笑った。


「読んでみたらけっこう面白かったよ。中二全開で元気な感じ」

「へえ……そうっすか……」


俺は冷や汗をかきながら、ちょっと嬉しい。

まさか、クラスの読モに黒歴史を語られるとは。

 

「ちなみにさ、今って何書いてる?」

「え?い、いや、まあ趣味で異世界ものとか」

「ふーん。何で長谷川くんが答えるの?」

「えっ?それは……」


「これ作者誰か知ってる?ってポストしたら通知ヤバいんだけど……トレンド入りしてる」

……

「まあいいや!何かあったらよろしく」

「えっ、はい」


アカネは手を振って「いいね、しとくね」と言い図書室を出ていった。

歩くだけで様になる、さすがモデル。

「いいね【してね】では?」

残された俺は、しばらく呆然としていた。


──フラグ?

ないない、からかわれただけだろう。

そう自分に言い聞かせながら、執筆メモ帳を出そうとした時。


「まったく鈍感ね」

「うおっ!誰!?」

カウンターの裏からゆっくりと姿を現す。

藤宮ツバキ―生徒会長―完璧超人

「新規蔵書を見に来たら、こんな場面に出くわすとは」


知的なメガネにキリっとした顔立ち。スカートを規定の長さで履いてるのは会長くらいだろう。

だが俺はそこでは無く、持っていた本を見て凍りつく。

『闇ギルドの受付嬢~』

しかも、ボロボロになって付箋まで付いている。あきらかな私物だ。


「まさか、生徒会長も読んでる?」

「読んでるだけじゃないわ!文化祭PRに向けて研究もしてる」

「えっ?」


会長は不敵ににっこりと笑った。

「それにしても……中の人が、こんな鈍感系主人公だったなんてね」

「なんのこと?」

「小説家では無くフラグ職人なのね」

「……は?」

「文化祭の冊子に小説書いて欲しいんだけど」

「…………はぁ!?」



今日だけでラノベのヒロインっぽい人が2人も接触してきた。

そして俺の小説もバレた。変なことも色々言われた。


「高校ではなるべく目立たないようにしてるのに……」

1話の締めっぽい言葉を言ってみる。





やりたいことやれたら短めに完結させます

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