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3-7 灰

 土の国には、現在多くの国から王族が訪れている。今季――今後五年の会合は五行の国のうち土国で行われる順番だからだ。

 水蓮は、重い足取りで会合に顔を出す。今日も、向こう側では皇帝が政務に、そのほかの王族も、様々な料理を囲んで、五行の特産品である陶器について話していた。


「最近、陶器の出来が悪いと言われていたが。そうか水の公主ひめぎみが残っていたのなら、土練りに使えば」

「ああ、そうだな。あの東宮妃が、まさか水の国の生き残りとは」


 先日の己花の件で、後宮内には、水蓮が水の国の生き残りだとばれてしまった。そもそも、水の加護を暴走させた件でも、水蓮が周りから水の国の人間ではと怪しまれていたのを、確信を持たせてしまったのだ。だからこそ、水蓮はこの場に赴きたくなかった。特に、金華や宝鈴にだけはばれたくなかった。せっかくできた友人を、失いたくない。


「水蓮さま。その、水の加護が相当お強いとか。そう、まるで王族並みに」

「あ、いえ……私のは、後天的なもので。遠い祖先が、水の国だったようです」


 嘘をつくことに慣れそうにない。しかし、どうせ父の件が解決したら、ここを去ろうと思っているから、このくらいでちょうどいい。この嘘だって、信じる者は少ないだろう。解毒の水を作れるとなれば、水蓮の素性は王族と語っているようなものだった。水蓮は人知れずにため息をついた。木の国の皇帝が水蓮に話しかける。


「今度、陶器を作る現場に立ち会ってほしい」

「あ、はい。わたくしでよければ」


 その時、どん、と会合の房の扉が開け放たれる。そこにいたのは、己花である。隣には、土夏もいる。ふたりは仲睦まじく会合のある藍の宮に足を踏み入れる。今日も己花は華やかないでたちで、また比べられるのかと思うと憂鬱だった。


「ああ、今日もお美しい。体調はいかがかな?」


 己花は、しかし会場の誰もを見ていない。ただ一点に、水蓮を見ていた。


「水蓮。いえ、お姉さま。この国の陶器に、青いものがあることはご存じでしょう?」

「あ……」

「あれは、木の国の木を燃やした灰で釉薬を作るのです」

「……? はい」


 それだけ言うと、己花は踵を返して、会合の輪の中へと消えていく。なにか重要なことを聞いた気がする。そう、昨日の己花の過剰免疫反応の原因は。

「まさか、陶器の釉薬に、過剰免疫反応物質が?」

 水蓮は、急いで陶器部の倉庫に向かう。昨日出された器なら、今ならまだ、見つかるはずだ。


 倉庫について、昨日の器をまじまじと見る。それは、きれいな青色をしていた。父の時とは少しだけ色が違うが、どちらも灰を使った釉薬だと、陶器部の人間からの証言も得た。今まで、土にばかり目が行っていたが、なるほど、陶器作りには釉薬も使われるのだった。釉薬が唇に触れれば、過剰反応も起こるだろう。今回の件は、木の国も関わっていそうだ。


「なんだ、そう、なんだ」


 そして、昨日己花に出された器は、火国の皇帝からの贈り物だと聞く。だとして、意図的に己花にそれを贈ったのか、知らずに送ったのかはわからない。わからないが、妹を蔑ろにされて、怒らない姉などいないだろう。


「絶対に、暴いて見せる」


 水蓮は、強く強く誓うのだった。


 次の日、水蓮たっての希望で、陶器部に水蓮の水を使わせることとなった。今日は、灰を使った釉薬で器を作るのだ。灰の釉薬を提案したのは、水蓮だった。草木を燃やして灰にして、釉薬として使う技法は太古の昔から存在している。倉庫ではなく、陶器作りに着目すべきだったのだ。


「ヒノキの薪で焼きたいですね。あと、灰にもヒノキを」


 どうも水蓮は、自分が汚い人間になったようで気が進まない。進まないのだが、水蓮はこれにかけることにした。釉薬の調整に一か月かかると聞いて、ならばその間、水蓮はこの会合で、火国の皇帝に探りを入れようと試みた。


「火国の皇帝陛下、わたくし、土国の東宮妃、水蓮と申します」

「またお会いできてうれしいよ」


 火国の皇帝――火之は、水蓮を上から下までなめるように見るとふん、と鼻を鳴らした。柔らかな雰囲気とは一変して、敵意を感じる。この皇帝は、あの釉薬にあんずが使われていることを知っていたのだろうか。……ここで、水蓮はとあることを思い出した。最初に火之に会合で会った際、木の国の皇帝、緑陽から、己花に食べられないものはないかと聞かれていた。その時、不用意にも、水蓮は己花にあんずの過剰免疫反応があることを、緑陽に告げていたのだ。

 木国と火国は、うらで手を結んでいる。

 怒りで体が震えた。自分に対する怒りである。己花を危険にさらしたのは、ほかでもない水蓮だった。ぎり、と奥歯をかみしめる。なんとしても、己花にあの器を贈った理由を、暴いて見せる。

 内心で炎を燃やしながら、水蓮は火之に笑みを向けた。


「最近は、成長が早いんだね」


 肩に手を置かれ、ぞっとするも振り払えない。ここで関係を悪化させては、この先水蓮に不利になる。今、作ってもらっている陶器には、ヒノキの釉薬を使用している。水蓮は、己花の過剰免疫反応を緑陽に告げたその日に、火之がヒノキの浴場には入れないことも聞いていた。すなわち、過剰免疫反応があるのだ。だからこそ、それらを使って、陶器を作らせている。

 火之は相変わらず水蓮の肩に手を置いて、襦裙から覗く胸に目を向けていた。しかし、そこに灰夏が音もなく表れて、灰夏が火之の手を水蓮から振り払った。ぱし、と音がして、火之の顔が引きつる。


「なんだ、出来損ない――いや、兄東宮か」

「ああ、俺の妻に、なにか?」

「いいや。いや。ああ、そうだ。水蓮妃?」


 なにからなにまでいやらしいしぐさで、火之は振り返って、水蓮に背中越しに、


「わたしを陥れるなど、百年早い」


 すべてを見透かされているようで居心地が悪い。ふうふうと息をする水蓮の肩を、灰夏が抱いた。あの皇帝は、敵だ。本能がそう言っている。だからこそ、周到に暴かねばならない。


「大丈夫か?」

「大丈夫、です」

「本当か?」

「いえ……少し、房で休ませてください」


 結局水蓮は月の宮に戻り、体を休めることにした。灰夏の優しさが、心にしみわたるようだった。

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